株式会社Acompanyは秘密計算でデータを暗号化したまま分析する名古屋大学発スタートアップ

株式会社Acompany(アカンパニー)

Acompany|研究領域=データを暗号化したまま計算する秘密計算/強み=CPU内の隔離領域でのみ復号する方式/将来性=医療データや生成AIの業務利用へ

企業紹介|株式会社Acompanyとは?

個人情報や機密データを守りながら、AIで活用する手段として注目を集める「秘密計算」。株式会社Acompanyは、その「秘密計算」を中核に据える名古屋大学発のスタートアップです。暗号化したまま複数社のデータを突き合わせる「AutoPrivacy DataCleanRoom」などを開発し、事業会社へ提供しています。

キーワード「秘密計算」

秘密計算は、データを暗号化したまま計算する技術の総称です。従来は分析の直前に復号する必要があり、その瞬間だけデータが平文(暗号化されていない状態)に戻っていました。秘密計算では平文に戻さずに集計や機械学習を実行できるため、複数の組織が生データを預けあわずに共同分析できます。

市場課題|データの共有と保護の両立

現状のデータ活用の課題|企業どうしでデータを共有しにくく、計算する瞬間だけ平文に戻ってしまう

企業間のデータ共有が進みにくい

企業や医療機関のあいだでは、データの共有が進みにくい状況です。持ち寄れば分析の精度は上がりますが、個人情報保護法などの規制と、渡した生データの管理を確かめられない点が壁になります。その結果、手元のデータだけで分析を続けることになり、業界全体の知見は限定的です。

利用する瞬間だけ平文に戻る

暗号化したデータも、計算の瞬間には平文へ戻す必要があり、暗号化が効いているのは保存時と通信時に限られます。この利用中のデータ(Data in Use)は、サーバーの管理者やクラウド事業者から読み取られる恐れがあります。そのため企業は、機密性の高いデータほどクラウドや生成AIに預けにくく、活用の範囲はせまいままです。

他にも、社外へ出せないデータを扱う基盤の運用コスト、部門ごとの台帳を突き合わせる手間、生成AIへ機密情報を入力する運用上のリスク、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • Data in Use保存中でも通信中でもなく、計算処理に使われている最中のデータを指す。この状態では暗号を解いた平文がメモリ上に置かれるため、従来は保護が最も難しい領域とされてきた。

Acompanyの強み|秘密計算の実装

Acompanyが「秘密計算」を開発|暗号化のまま複数社を突き合わせ、隔離領域の中でだけ暗号を解く

暗号化のまま複数社を突き合わせ

従来は、分析のために生データを1か所へ集める方式が一般的で、集めた側に情報が残ります。

同社は、データを暗号化したまま突き合わせる基盤「AutoPrivacy DataCleanRoom」を提供しています。参加する各社は暗号化したデータを基盤に置き、集計や機械学習の結果だけを受け取ります。基盤を運営する同社も、置かれたデータの中身は読み取れません。元のデータは持ち出されず、各社の手元に残ったままです。共通の顧客を数える、複数の病院で同じ疾患の症例を集めるといった分析が、データを渡さずに行えます。

CPU内の隔離領域でのみ復号

秘密計算の主な方式のうち、準同型暗号(暗号文のまま計算できる暗号方式)は処理に時間がかかり、秘密分散型MPC(複数の計算機で断片を分担する方式)は計算機どうしの通信量が増えます。

同社が中核に据えるのは、CPU内の隔離領域でだけ暗号を解くTEE(Trusted Execution Environment)です。データは暗号化されたまま送られ、隔離領域の中でのみ平文に戻るため、管理者もクラウド事業者も中身を読み取れません。安全性の根拠は、暗号の数学ではなく、CPUが隔離領域を守るというハードウェアの仕組みです。負荷が小さく、生成AIのような計算量の多い用途にも使えます。この方式で「Acompany セキュアチャット」と「Acompany セキュアコード」を提供しています。

FrontJournalの解説
  • TEECPUの内部に設けられた隔離領域で、そこに読み込まれたデータだけが復号される仕組みを指す。領域の外からは中身を読めないため、クラウド上でも管理者に情報を渡さずに計算できる。

秘密計算の未来|医療とAIへの応用

秘密計算が変える未来|病院のデータを秘匿したまま分析、機密情報を扱える生成AIの業務利用へ、海外への技術展開を目指す

病院のデータを秘匿し分析

医療分野では、複数の病院のデータを秘匿したまま分析する取り組みが実現しています。名古屋大学医学部附属病院と同社は、2022年に秘密計算の環境でDPCデータ(入院医療費の算定に使う診療実績データ)の分析に成功しました。各病院はデータを外部へ渡さずに参加できるため、症例数の少ない疾患でも比較の母数を増やせます。病院ごとの治療成績を同じ条件で比べられるため、診療の質を評価する材料になるといわれています。

機密情報を扱う生成AI

生成AIの業務利用は、機密情報を扱う現場へ広がろうとしています。多くの企業では、社外のAIサービスに顧客情報やソースコードを入力できない運用が続いてきました。同社の「Acompany セキュアチャット」と「Acompany セキュアコード」は、入力した内容を隔離領域の中だけで扱う設計です。設計や開発の現場でも生成AIを使える範囲が広がり、議事録や仕様書のように社外へ出せない文書も対象になるといわれています。

海外への技術展開を目指す

同社は、秘密計算の提供先を国内にとどめない方針です。まず国内で導入実績を積み、海外展開に向けた共同研究や探索を進める計画です。国内で対象とする領域には、経済安全保障や国防も含まれます。データの保護と活用を両立する基盤として、国境をまたぐ利用を目指します。

会社概要|Acompanyの事業内容・設立背景

学生起業から秘密計算へ転換

株式会社Acompanyは、事業を二度転換して秘密計算にたどり着いた会社です。2018年6月、当時名古屋大学に在学していた高橋亮祐氏が名古屋市で設立しました。当初は家庭教師のマッチングサービスから始め、その後ブロックチェーンの受託開発へ移りました。顧客から寄せられた「データは活用したいが外部には出したくない」という声をきっかけに、秘密計算へ事業を転換しています。技術開発の初期には名古屋大学情報学部の学生をインターンとして迎え、文献の調査から開発を立ち上げました。

採択・連携

同社は名古屋大学のインキュベーション施設に研究開発拠点「NICX」を置き、大学の施設内で開発を進めてきました。名古屋大学医学部附属病院とは、秘密計算を用いた医療データの分析で連携しています。2025年には、秘密計算の技術普及と標準化を進める国際団体「Confidential Computing Consortium」へ加盟しました。代表の高橋氏は、2025年の「第25回 Japan Venture Awards」で中小企業庁長官賞を受賞しています。

資金調達/ビジネスモデル

直近の調達は、2025年5月に公表したシリーズBの約11億円です。シリーズBは、製品が売れる見込みが立ったあとに事業を拡大する段階の調達です。この回はSBIインベストメントがリード投資家を務め、グロービス・キャピタル・パートナーズなどが引受先となりました。累計調達額は約21億円です(2025年5月時点)。調達資金は、ハードウェア型の秘密計算を核とする製品開発と、国内外での採用・体制強化にあてる方針です。

会社情報

会社名株式会社Acompany(Acompany Inc.)
所在地愛知県名古屋市中区栄二丁目1番1号 日土地名古屋ビル7階
設立2018年6月
代表高橋 亮祐(代表取締役CEO)
従業員58人(2025年時点)
調達シリーズB 約11億円(2025年5月)。累計 約21億円。リード投資家=SBIインベストメント。引受先にグロービス・キャピタル・パートナーズなど
事業AutoPrivacy DataCleanRoom(複数社のデータ突合)。AutoPrivacy AI CleanRoom(生成AIの保護)。Acompany セキュアチャット。Acompany セキュアコード。プライバシー・AIガバナンスの技術支援
技術領域秘密計算(TEE、秘密分散型MPC)。秘密計算エンジン QuickMPC
連携名古屋大学医学部附属病院(医療データの秘匿分析)。Confidential Computing Consortium 加盟(2025年)
採択第25回 Japan Venture Awards 中小企業庁長官賞(2025年)
URLhttps://www.acompany.tech/

編集後記|FrontJournal編集部より

データを守ることと使うことは、長いあいだ相反する要求として扱われてきました。秘密計算は、その二択そのものを組み替える技術です。Acompanyが選んだTEEという方式は、暗号技術としての新しさよりも、現場で実用に足る処理速度を重視した選択だといえます。

同社の歩みで目を引くのは、家庭教師のマッチングから秘密計算へ転換した経緯です。顧客の「出したくない」という一言を、技術課題として引き受け直したところに、この会社の性格が表れています。単なる暗号技術の提供ではなく、データを預けあわずに協力できる場をつくろうとしている点が価値の核心です。

病院や生成AIの現場で積み上がる実績が、国境をまたぐ基盤へと育っていくのか。名古屋から始まった挑戦の行方に注目したいところです。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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