ボールウェーブ株式会社|水晶球を回る弾性表面波で微量水分を測る東北大学発の企業

ボールウェーブ株式会社(Ball Wave)

ボールウェーブ|研究領域=ガス中の微量水分を測るセンサ(水晶球)/強み=水晶球を回る波で高感度と速い応答/将来性=多様な気体を現場で測定

企業紹介|ボールウェーブとは?

工業用ガスに残るごくわずかな水分を、高い感度で検知する技術「ボールSAWセンサ」。ボールウェーブは、その「ボールSAWセンサ」の社会実装を目指す、東北大学発エレクトロニクス系ディープテック企業です。直径1mmの水晶球を使う超微量水分計「FalconTrace」を、半導体や二次電池の製造現場へ提供しています。

キーワード「ボールSAWセンサ」

「ボールSAWセンサ」は、水晶の球の表面を弾性表面波が何周も回る現象を利用したセンサです。特徴は、波が感応膜(測りたい分子を吸着させる薄い膜)を何度も通過するため、膜が薄いままでも濃度の変化を捉えられる点にあります。半導体の製造ラインで、ガス中の1ppb水準の水分を管理する用途に使えます。

市場課題|ガス中の微量水分の測定

現状の微量水分計の課題|現状は、応答が遅く異常に気づきにくい。微量水分が製造品質を左右(微量水分)・従来の水分計は応答が遅い(CRDS)

微量水分が製造品質を左右

半導体や二次電池の製造では、ガスに残るごくわずかな水分が製品の品質を左右します。水分は膜の性質を変え、電解液も分解するため、工程で使う窒素やアルゴン1ppbの水準まで乾燥させて供給されます。継手からの漏れや内壁に吸着した水分の放出でも規格を外れるため、製造中の常時監視が欠かせません。

従来の水分計は応答が遅い

ppb帯の水分を測る装置に共通する弱点は、指示値が落ち着くまでの時間です。代表例の「CRDS」(キャビティリングダウン分光法)は、レーザー光を鏡の間で往復させて吸収を測るため感度が高い一方、装置が大きく、測定室の内壁に吸着した水分が抜けるまで指示値が動き続けます。そのため異常に気づくのが遅れやすく、値が上がっても原因を切り分けにくい状態が続きます。

他にも、装置の設置面積、校正の手間、配管ごとに測定器を置く費用、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • ppbparts per billion の略で、10億分の1を表す濃度の単位である。ガスの体積1に対し、水分子が10億分の1だけ含まれる状態を1ppbと呼ぶ。半導体用の高純度ガスは、この水準で管理する。

ボールウェーブの強み|ボールSAWセンサ

ボールウェーブが「ボールSAWセンサ」を開発|今後は、球を回る波で高い感度が可能に。水晶球の多重周回で高感度(弾性表面波)・薄い感応膜で応答が速い(水分・感応膜)

水晶球の多重周回で高感度

平面の基板を使う従来の弾性表面波センサでは、波が感応膜を1回通り過ぎるだけなので、膜を厚くしなければ十分な信号が得られませんでした。

「ボールSAWセンサ」は、直径1mmの水晶球の表面に波を周回させ、同じ感応膜を何度も通過させます。球の直径と波長の幾何平均(2つの値をかけた値の平方根)の幅で波を励振すると、横へ広がる回折(波が障害物の陰へ回り込む現象)が打ち消し合い、波は帯状のまま球を回り続けます。この現象を1999年に見つけたのが、東北大学の山中一司名誉教授です。周回のたびに音速と減衰の変化が積み重なるため、膜を厚くしなくても大きな信号が得られます。感応膜は用途で選び、水分計向けは非晶質シリカ、水素向けはパラジウム合金です。

薄い感応膜で応答が速い

膜を厚くして感度を稼ぐ方式では、水分子が膜の内部へ入り、再び抜けるまでに時間がかかるため、指示値の安定を待つ必要がありました。

多重周回で信号を稼ぐ「ボールSAWセンサ」は、感応膜を薄いまま使えるため、応答が速くなります。産業技術総合研究所の計量標準総合センターは、水分濃度を400ppbvから810ppbv(ppbvは体積基準のppb)へ変えたときの応答を比較しています。指示値が1割から9割まで動くのに要した時間は、ボールSAW方式で90秒、CRDSで780秒でした。水晶球は高温と高圧に耐えるため、配管へ直接取り付けられます。超微量水分計「FalconTrace」は、この構成で気体中の水分を1ppbの水準まで測ります。

FrontJournalの解説
  • 弾性表面波固体の表面付近だけを伝わる振動の波である。英語の surface acoustic wave から SAW と略す。表面の状態で速度と減衰が変わるため、膜へ分子が付いたことを電気信号として取り出せる。

ボールSAWセンサの未来|多様なガス計測へ

小さな水晶球が変える未来|センサが、計測できる気体を増やす。半導体と二次電池の現場で稼働・手のひらサイズのガス分析(Sylph)・多様なガス計測へ用途を拡大

半導体と二次電池の現場で稼働

超微量水分計「FalconTrace」は、半導体二次電池の製造工程で、ガスの水分濃度の管理に使われています。製品は据置型の「FT-700WT」と、可搬型の「FT-300WT」が用意されています。LEDや有機ELの製造現場でも導入が進みました。量産に必要な設備は、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトを通じて整えられています。

手のひらサイズのガス分析

次に広がるのは、複数のガスをまとめて測る用途です。超小型ガスクロマトグラフ「Sylph」は、A5判ほどの大きさで持ち運べます。吸い込んだガスを内蔵の濃縮器で濃くし、水素吸蔵合金のキャニスタから供給される水素をキャリアガス(運搬用のガス)として流しながら、ボールSAWセンサで検出する仕組みです。生鮮食品の鮮度と熟成度の確認、工場の異臭検査、発酵や醸造の監視といった、分析室の外での使い方が見込まれます。

多様なガス計測を目指す

センサ本体は共通で、膜の材料を選ぶことで水分・水素・天然ガス・有機混合ガスへ対応します。抗体やアプタマー(特定の分子に結合する人工の核酸分子)を膜に使う抗原抗体センサの構成も示されており、産業用のガスから生体分子まで、同じ原理で扱える範囲が広がります。装置が小さく現場へ持ち出せるため、分析室へ運ぶ前の判断が可能です。同社は感応膜の材料を選び直すことで測れる対象を増やし、ケミカルセンシング(化学物質を検出・測定する技術)の用途を広げることを目指しています。

会社概要|ボールウェーブの事業内容・設立背景

東北大学の発見から創業

ボールウェーブは、東北大学で見つかったボールSAWの現象を製品にするため、2015年11月に宮城県仙台市で設立されました。創業の中心となったのは、赤尾慎吾氏と、現象を発見した山中一司名誉教授です。会社の立ち上げにあたっては、文部科学省と科学技術振興機構の「大学発新産業創出拠点プロジェクト」の支援を受けています。本社は東北大学連携ビジネスインキュベータに、ラボは同大学の西澤潤一記念研究センター内に置かれ、東京オフィスも構えています。代表取締役社長は赤尾氏です。

採択と連携

公的な認定と企業との連携が、事業の土台になっています。2019年には経済産業省などが有望な新興企業を選ぶ「J-Startup」と、「仙台未来創造企業」に選ばれました。品質マネジメントのISO9001も取得しています。超小型ガスクロマトグラフ「Sylph」はJAXA(宇宙航空研究開発機構)との共同研究から生まれました。シスメックスは、Sylphの研究用途での取り扱いに加え、2024年10月の第三者割当増資にも台湾のDarwin Venture Managementとともに引受先として参加しています。

水分計とガス分析の二本立て

事業は、超微量水分計と超小型ガスクロマトグラフを並行して供給する二本立てです。センサとそれを用いたシステムの製造・販売・輸出入に加え、センサに関する研究開発とコンサルティングの受託も手がけています。資本金は1億8,500万円です。日本貿易振興機構(ジェトロ)が、宮城県内の貿易関係企業の一社として同社を紹介しており、国内にとどまらない供給が視野に入っています。

会社情報

会社名ボールウェーブ株式会社(Ball Wave Inc.)
所在地宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6-6-40 東北大学連携ビジネスインキュベータ501
設立2015年11月
代表赤尾 慎吾(代表取締役社長)
資本金1億8,500万円
調達2024年10月に第三者割当増資を実施(金額は非開示)。引受先は達盈管理顧問股份有限公司(Darwin Venture Management)、シスメックス株式会社
事業センサ及びこれを用いたシステムの製造、販売及び輸出入。センサに関する研究・開発・コンサルティングの受託。主な製品は超微量水分計FalconTrace(FT-700WT、FT-300WT)、超小型ガスクロマトグラフSylph
技術領域ボールSAWセンサ、弾性表面波、多重周回、感応膜、微量水分計、ガスクロマトグラフ、ケミカルセンシング
連携宇宙航空研究開発機構(JAXA・Sylphの共同研究)。シスメックス株式会社(Sylphの研究用途の取り扱い)。東北大学
採択J-Startup(2019年)。仙台未来創造企業(2019年)。ISO9001認証取得(認証番号JP025740)。事業継続力強化計画(2026年)。NEDOのプロジェクトによる量産設備開発
URLhttps://www.ballwave.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

センサの性能を上げる方法として、まず思い浮かぶのは材料を良くすることです。ボールウェーブが選んだのは、そこではありませんでした。同じ膜のまま、波に何度も通らせるという道筋です。

興味深いのは、この会社が形を球にした点です。平面では、波は端まで進んで消える一方、球であれば、進み続ければ必ず元の場所へ戻ります。しかも直径と波長の関係を選べば、波は広がらずに帯のまま回ります。感度を膜の厚さで稼ぐ設計から、通過する回数で稼ぐ設計へ移った結果、厚い膜が抱えていた応答の遅さも同時に消えました。

直径1mmの球は、手に取れば粒にしか見えません。それでも半導体の製造ラインでは、その表面を回り続ける波が、製品の品質を静かに見張っています。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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