イーセップ|分子の大きさで液体を分ける「セラミック分離膜」を開発する環境・エネルギー系ディープテック企業

イーセップ株式会社

イーセップ「セラミック分離膜」を開発|研究領域=分子を大きさでふるい分ける膜/強み=蒸発を繰り返さず液体を分ける/将来性=溶剤の再利用や燃料の製造へ

企業紹介|イーセップとは?

化学工場で液体を分ける工程のエネルギーを抑える技術として、注目を集める「セラミック分離膜」。イーセップは、その社会実装を目指す、環境・エネルギー系ディープテック企業です。細い穴の大きさをそろえたシリカ(二酸化ケイ素)系の分離膜と、膜を収めた「モジュール」を、化学メーカーやエンジニアリング会社等へ提供しています。

キーワード「セラミック分離膜」

「セラミック分離膜」は、ナノメートル(10億分の1m)単位の細い穴で、分子を大きさの違いによってふるい分けるセラミック製の膜です。特徴は、熱や薬品に強く、沸点の近い液体どうしでも分子の大きさで分けられる点にあります。化学工場で使い終えた溶剤の再生や、バイオエタノールから水を取り除く工程で使えます。

市場課題|化学工場の蒸留は多くの熱を使う

現状の分離技術の課題|現状は、液体の分離に多くの熱を使い省エネが難しい/蒸留は大量の熱を使い設備も巨大/樹脂の高分子膜は熱や溶剤に弱い

蒸留は大量の熱を使い設備も巨大

化学工場で液体の混合物を分ける工程の多くは、沸点の違いを利用する「蒸留」で行われています。蒸留は加熱と冷却を繰り返すため多くの熱を使い、高さ数十mから100mほどの塔が必要になる場合もあります。このままでは、化学製品の製造に伴うエネルギー消費を減らすことが困難です。

樹脂の高分子膜は熱や溶剤に弱い

蒸留の代わりに膜で分ける分離技術もありますが、樹脂でできた高分子膜は熱や有機溶剤に弱く、化学工場で使える場面は限定的です。一方で蒸留塔は大きく工場ごとに置けないため、使用後の化学溶剤のうち再生されているのは国内で1割程度といわれています。再生されない溶剤は廃棄され、新しい溶剤の原料となる化石資源を使い続けることになります。

他にも、発酵で作るバイオエタノールを燃料に使える濃度まで高める工程の負担、水と酢酸のように沸点が近い液体の分けにくさ、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 蒸留液体の混合物を加熱して蒸発させ、沸点の違いを利用して成分を分ける操作である。沸点の低い成分が先に気体になるため、これを冷やして集める。化学工業で広く使われるが、加熱と冷却に多くのエネルギーを要する。

イーセップの強み|「セラミック分離膜」を開発

イーセップが「セラミック分離膜」を開発|現在は、分子の大きさで分ける膜を提供/分子の大きさで分け熱を節約/熱に強い薄膜で装置を小型化

分子の大きさで分け熱を節約

蒸留は成分をいったん気体に変えて分けるため、沸点の近い液体どうしでは蒸発と凝縮を何度も繰り返し、そのたびに加熱と冷却の熱を使います。

イーセップの「セラミック分離膜」は、穴の大きさを0.3〜1.0nmの範囲でそろえたシリカ系の膜で、小さな分子を通して混合物を分ける仕組みです。水と酢酸のように沸点が近い組み合わせでも、分子の大きさの違いを使って分けられます。そのため蒸留のように、混合物全体の蒸発と凝縮を何度も繰り返す必要がありません。一部の製品では、膜の表面を水になじむ性質や水をはじく性質に処理することもできます。加熱と冷却の工程が減る分、化学工場は熱源に使う燃料を減らせるようになります。

熱に強い薄膜で装置を小型化

熱に強いセラミックの膜も、表面を滑らかにして強度を保とうとすると厚くなり、物質が通り抜けにくくなるという弱点がありました。

イーセップの膜は、穴の多いアルミナ(酸化アルミニウム)の筒(支持体)にシリカ系の中間層を重ね、その上に分離を担う薄い膜を作った構造です。中間層で下地を滑らかに整えることで、分離の膜を薄くしても強度と通り抜けやすさを両立できます。セラミック製のため、高分子膜が苦手な熱や酸、有機溶剤にも強い膜です。この膜を10〜76本まとめて1つの容器に収めた製品が「多管式モジュール」で、処理量に応じて本数を選べる設計です。蒸留塔より小さな分離装置を工場内に置けるため、使い終えた溶剤をその場で再生しやすくなります。

FrontJournalの解説
  • 中間層穴の多い支持体と、分離を担う薄い膜のあいだに設ける層である。支持体の粗い表面を滑らかに整え、その上に欠陥の少ない薄い膜を作れるようにする。膜が薄いほど物質が速く通り抜ける。

セラミック分離膜の未来|溶剤の再生から燃料の製造へ

省エネなセラミック分離膜が変える未来|溶剤の再利用から、燃料の製造へ広がる/エタノール脱水検証装置を納品/膜で水を除きメタノールを合成/分離の省エネで脱炭素を目指す

エタノール脱水検証装置を納品

イーセップの膜技術は、エタノールの脱水で事業化に向けた検証の段階に入りました。2026年9月には、ANAホールディングス(全日本空輸などを傘下に持つ持株会社)への「エタノール脱水検証装置」の納品完了を発表しました。エタノールを燃料にするには、発酵液から水を除く工程が欠かせません。今後は、この装置を用いた研究開発が進められる予定です。

膜で水を除きメタノールを合成

次の用途は、二酸化炭素や廃棄物からのメタノール合成です。合成では生じた水によって反応が逆向きにも進むため、イーセップは膜で水を直ちに取り除く「メンブレンリアクター」(膜を組み込んだ反応器)を開発しています。2022年からイーセップと業務連携する三井金属は、2026年9月に豪州のWildfire Energy社と、廃棄物などからバイオメタノールを製造する実証に合意しました。実証は三井金属とWildfire Energy社が共同で進め、2028年末までに三井金属の合成装置をガス化プラントにつなぐ試験を行う予定で、イーセップの膜の採用は未発表です。

分離の省エネで脱炭素を目指す

イーセップが目指すのは、分離の省エネ化で化学・エネルギー産業のカーボンニュートラルに貢献することです。注力分野は、化学溶剤のリサイクル、水素や二酸化炭素などのガス分離、グリーンメタノールの製造です。2025年2月には、水素事業のために日本特殊陶業の実証研究施設へ入居しました。分離の工程が小さく省エネになれば、化学工場は溶剤を捨てずに再利用でき、製造時の二酸化炭素の排出も減らせると期待されています。

会社概要|イーセップ株式会社

膜の研究者が京都で創業

イーセップは、分離膜の研究者で代表取締役の澤村健一氏が、2013年10月に京都府で設立した企業です。澤村氏は、大学で分離膜を研究したのち大手エンジニアリング会社に勤め、膜の事業化を目指して、けいはんなベンチャーセンターで独立しました。現在は京都府精華町に本社を置き、京都市伏見区に技術開発センターを構えています。2024年4月には、広島大学名誉教授の都留稔了氏が技術顧問に就任しています。

NEDO採択と企業との連携

同社は、国の研究開発支援と企業との連携を広げてきました。2017年と2019年にNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の事業に採択され、2019年度の事業ではステージゲート審査(次の段階へ進めるかを判断する審査)を2度通過しています。2021年には株式会社やまびことe-fuel(二酸化炭素と水素から作る合成燃料)の実証に向けた共同研究開発契約を、2024年には日東精工株式会社と共同開発契約を結びました。2022年には広島大学の東広島キャンパスに連携室を開設しています。

増資を重ね三井金属も出資

同社は、2015年から第三者割当増資を重ねて資金を調達してきました。2022年4月には総額2億円を調達し、同年7月には三井金属鉱業(現・三井金属)のCVC(事業会社が運営するベンチャー投資の仕組み)から出資を受けて業務連携を始めています。事業では膜とモジュールの販売に加え、ラボでの性能確認からスケールアップ試験までの支援を提供しています。

会社情報

会社名イーセップ株式会社(eSep Inc.)
所在地京都府相楽郡精華町精華台七丁目5番地1 けいはんなオープンイノベーションセンター(本社)。京都府京都市伏見区治部町105番地 京都市成長産業創造センター(技術開発センター)
設立2013年10月1日
代表澤村 健一(代表取締役)。都留 稔了(技術顧問・広島大学名誉教授)
資本金1億円(2026年4月1日時点)
従業員40名(役員を含む・2026年4月1日時点)
調達第三者割当増資(2015年〜2024年)。三井金属鉱業CVC(2022年7月)
事業ナノセラミック分離膜技術の開発と、関連機器・システムの提供。シリカ系分離膜(細孔径0.3〜1.0nm)。多管式・単管式モジュール。エタノール脱水検証装置(ANAホールディングスへの納品完了を2026年9月に発表)
技術領域シリカ系・ゼオライト系のセラミック分離膜、メンブレンリアクター、分離プロセスのシミュレーション
連携広島大学(連携室の開設・2022年4月)。三井金属(業務連携・2022年7月)。やまびこ(共同研究開発・2021年10月)。日東精工(共同開発・2024年6月)。日本特殊陶業「SUISO no MORI hub」(入居・2025年2月)
採択NEDO 新エネルギーベンチャー技術革新支援事業(2017年)。NEDO 新エネルギー等のシーズ発掘・事業化に向けた技術開発事業(2019年)
URLhttps://esep.kyoto/

編集後記|FrontJournal編集部より

分離は、化学製品や燃料を作る多くの工程に入り込んでいる、目立たないが欠かせない技術です。その多くを担う蒸留は、大量の熱を使います。イーセップが取り組むのは、この分離を、分子の大きさでふるい分ける膜に置き換えることです。

興味深いのは、同じ膜の技術が、溶剤の再生、エタノールの脱水、メタノールの合成という、異なる用途へ広がっている点です。いずれも、物質を分ける工程の負担を減らすという点で共通しています。二酸化炭素をアミンのゲルで回収するJCCLや、MOF(金属と有機物で作る、穴の多い結晶)でガスを蓄えるAtomisのように、物質を分けたり捕まえたりする技術から脱炭素に挑む企業も増えています。

小さな穴をそろえた膜が、化学工場の巨大な塔をどこまで置き換えていけるのか、引き続き注目していきたいと思います。

FrontJournal編集部

出典:経済産業省 大学発ベンチャーデータベース2026

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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