Atomis|「MOF」を研究

株式会社Atomis(Atomis Inc.)

Atomis「MOF」を研究|研究領域=穴だらけの材料が/気体を吸い付ける/強み=穴の大きさで/通る気体を選ぶ/将来性=ガス容器にも/CO2の吸着材にも

企業紹介|株式会社Atomisとは?

ガスを高い密度で貯えられる材料として、注目を集める「MOF」。株式会社Atomisは、その「MOF」の社会実装を目指す、京都大学発の材料系ディープテックスタートアップです。次世代ガス容器「CubiTan」や、CO2を回収する吸着材等を、産業ガスや製造の現場へ提供しています。

キーワード「MOF」(金属有機構造体)

「MOF」は、金属イオンと有機配位子(金属をつなぐ分子)を組み合わせ、ナノメートルの細孔(微細な穴)を並べた材料です。特徴は、細孔の大きさや形を設計し、目的の気体を選んで吸着できる点です。京都大学の北川進特別教授は1997年、MOFが気体を貯蔵できることを立証し、その成果で2025年のノーベル化学賞を受賞しています。

市場課題|ガスの貯蔵と回収の負担

現状のガスの貯蔵と回収の課題|現状は、容器が重くCO2分離に熱がいる/高い圧力で押し込み/容器が重くなりがち/排ガスのCO2を/集めるのに熱がいる

高圧の容器は重く運びにくい

産業用のガスは高い圧力で圧縮して運ばれるため、容器は厚く重くなります。高圧ガス保安法(高圧のガスによる災害を防ぐ法律)が義務づけるのは、容器の強度と定期的な検査です。容器を小さくしても壁を薄くはできず、運搬と維持の負担が残ります。

排ガスのCO2回収は熱を消費

工場の排ガスからCO2を集める工程で多くを占めるのは、分離に使うエネルギーです。広く使われるアミン吸収法(アミンの液にCO2を吸わせる方法)は、吸収した液を加熱してCO2を放出させるため、熱の消費が大きくなります。装置には大型の吸収塔と再生塔が要るため、設備の規模も膨らみます。

他にも、離れた場所からの残量の把握、多品種のガスを扱う現場での在庫管理、パイプラインが通っていない地域への配送、空になった容器を充填拠点へ返送する手間、といった課題があるといわれています。

Atomisの強み|MOFで気体を吸着

Atomisが「MOF」を開発|今後は、低い圧力で気体の貯蔵が可能に/低い圧力で気体を貯め/積み重ねて置ける/湿った排ガスからも/CO2を取り出す

置き場所が減るキューブ型

高い圧力で気体を押し込む方式では、圧力を上げるほど容器の壁が厚くなり、円筒形の容器は並べても隙間が空いて置き場所を取ります。

同社の「CubiTan」は、内部にMOFを詰め、細孔へ気体を吸着させて貯えるキューブ型のガス容器です。吸着材が持つ表面積は1グラムあたり約7,000平方メートル(サッカーコート約1面分)におよび、気体が細孔の表面に吸い付くため、表面積が広いほど多く貯えられます。積み重ねて置けるため、狭い場所にも収まります。搭載したIoTモジュールが取得するのは、圧力、温度、衝撃、位置の情報です。窒素やアルゴンなど4種類で高圧ガス保安法にもとづく認可を取得し、2026年に国内でのサービスが始まりました。

多湿の排ガスでもCO2を回収

ゼオライトなど広く使われる吸着材は、排ガスに含まれる水分を先に吸ってしまいます。水分を取り除く前処理の設備が別に要るため、装置は大きくなりがちです。

同社が開発したMOF吸着材の特徴は、湿度のある条件でもCO2を吸着する性能を保つ点です。水分を取り除く前処理の設備が要らないため、装置は小さくなります。吸着したCO2を放出させる仕組みは圧力変動吸着(圧力を下げて気体を取り出す方式)で、加熱が要らないぶん再生に使うエネルギーを抑えられます。2025年11月からは神戸製鋼所、長瀬産業とともに実証を進め、2026年4月に燃焼排ガスから1日あたり30キログラムのCO2を回収する実証の完了を発表しました。

FrontJournalの解説
  • MOF金属イオンと有機配位子を組み合わせ、ナノメートルの細孔を規則正しく並べた多孔性材料である。細孔の大きさや形を設計でき、目的の気体だけを選んで吸着させられる。同じ体積でも圧力を上げずに多くの気体を収められるため、ガスの貯蔵と分離の両方で使われる。1997年に気体を貯蔵できることが立証され、2025年のノーベル化学賞の対象になった。

MOFの未来|冷媒から水素の運搬へ

気体を運ぶMOFが変える未来|冷媒から水素まで、用途が広がる/使用済みの冷媒から/使える成分を回収/水素を積んで/工場へ届ける/工場に容器を置き/必要な量だけ配る

冷媒の再生で欧州に導入

MOFによる気体の分離は、使用済みの冷媒(エアコンなどで熱を運ぶ気体)の再生ですでに使われています。同社はダイキン工業と2020年に協業を始め、混ざった冷媒からMOFで特定の成分を取り出す技術を確立しました。この技術は2023年から欧州ダイキン化学の冷媒再生事業で実用化されました。さらに広い用途への展開が、ダイキン工業の技術拠点で検討されています。

水素の運搬でも実証が進む

水素を運ぶ手段としての実証も動き始めています。2025年2月には八千代エンジニヤリングらとともに、東京都が水素の実用化を後押しする水素実装課題解決技術開発促進事業へ採択されました。「CubiTan」を使い、水素の運搬と貯蔵を柔軟にするための検証を進めます。ガスを運ぶ容器として、扱いの難しい気体へ用途を広げる段階に入っています。

分散型のガス網構築を目指す

同社が目指すのは、パイプラインが通っていない地域へもガスを運ぶ仕組みです。2023年10月にはインドネシア国立研究革新庁と、2026年4月にはタイ国立エネルギー技術センターと覚書を結び、都市ガス網の整備が進んでいない地域での活用を検討しています。運んだ先で回収したCO2を、ギ酸(最も単純な有機酸)やメタノールなどの原料へその場で変える、小規模で分散した仕組みの構築も目標の一つです。ガスの調達が難しかった地域でも、必要な量をその場で確保できる状態を目指します。

会社概要|Atomisの事業内容・設立背景

京都大学の研究から事業化

株式会社Atomisは2015年2月に設立され、2023年には本社を京都市から神戸市へ移しています。創業の中心となったのは、京都大学高等研究院の樋口雅一です。創業の目的は、北川進特別教授が築いたMOFの研究成果を産業へ応用することでした。北川特別教授は、現在も科学顧問を務めています。2017年からは浅利大介が代表取締役CEOに就いています。

受賞と採択で連携が拡大

連携の輪は、素材の供給から社会インフラまで広がっています。2019年には京都市ベンチャー企業目利き委員会でAランクの認定を受けました。2021年12月には長瀬産業と、2023年1月にはダイキン工業と資本業務提携を結んでいます。2023年11月にはNEDOの助成事業へ採択され、2025年4月から実証化開発のフェーズへ移りました。八千代エンジニヤリングとは2023年4月に業務提携を結び、東南アジアでの展開を進めています。

シリーズCまで調達を継続

同社はシリーズCラウンドまで資金調達を重ねています。2019年7月のシリーズAで3.5億円、2021年12月のシリーズBで12億円を調達しました。シリーズCでは、2024年7月の1回目に八千代エンジニヤリングや積水ハウスの投資事業組合などが、同年11月の2回目に長瀬産業などが出資しました。2025年2月には、TOKAIホールディングスからの出資も受けています。シリーズCは、確立した製品を市場へ広げていく段階の資金調達にあたります。

会社情報

会社名株式会社Atomis(Atomis Inc.)
所在地兵庫県神戸市中央区港島南町7丁目4番9
設立2015年2月10日
代表代表取締役CEO 浅利 大介。創業者 樋口 雅一(京都大学)。科学顧問 北川 進(京都大学 理事・副学長、高等研究院 特別教授)
資本金100,000,000円
上場未上場
従業員38名(2026年6月時点)
調達2019年7月にシリーズAで3.5億円。2021年12月にシリーズBで12億円。2024年7月と11月にシリーズC、2025年2月にTOKAIホールディングスからの調達を実施。投資家は長瀬産業、ダイキン工業、八千代エンジニヤリング、積水ハウス投資事業有限責任組合等
事業MOFなど多孔性材料の設計評価・製造販売。次世代ガス容器「CubiTan」によるガス流通。分散型カーボンリサイクル
技術領域MOFの設計と製造(2023年竣工の年産20トンのプラント)。構造データベース「POROS」。CO2分離回収用の吸着材
連携ダイキン工業(冷媒の分離・再生)。神戸製鋼所、長瀬産業(排ガスからのCO2回収)。八千代エンジニヤリング等(水素実装事業での「CubiTan」実証)
採択NEDO「革新的MOF吸着剤を用いた、製造プロセスからのCO2分離・回収システム」(2023年度)。東京都「東京における水素実装課題解決技術開発促進事業」(2025年)
URLhttps://www.atomis.co.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

MOFは長いあいだ、実験室で美しい結晶を生み出す材料として語られてきました。同社が向き合っているのは、その材料を量産し、容器という形にして現場へ届ける工程です。ノーベル化学賞で光が当たった基礎研究を、産業の現場へ近づける作業でもあります。

面白いのは、出口が気体の種類ごとに枝分かれしている点です。ガスを運ぶ容器も、CO2を集める吸着材も、冷媒を分離する材料も、同じ細孔の設計から伸びています。単なる新素材の販売ではなく、ガスを運ぶ経路そのものを設計し直しているところに、この会社の輪郭があります。

京都の研究室で見つかった細孔が、工場の煙突と海を越えたガスの通り道へ広がります。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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