シンクサイト株式会社(ThinkCyte)|「ゴーストサイトメトリー」を研究

シンクサイト株式会社(ThinkCyte)

シンクサイト「ゴーストサイトメトリー」を研究|研究領域=細胞を染めずに形で見分ける/強み=無染色のまま高速で分取する/将来性=細胞治療の現場へ導入が広がる

企業紹介|シンクサイト株式会社とは?

再生医療や創薬に使う細胞を、無染色のまま選び分ける技術として、注目を集める「ゴーストサイトメトリー」。シンクサイト株式会社は、その「ゴーストサイトメトリー」の社会実装を目指す、東京大学・大阪大学発のディープテックスタートアップです。AI駆動型セルソーター「VisionSort」を、再生医療や創薬の研究と製造の現場へ提供しています。

キーワード「ゴーストサイトメトリー」

「ゴーストサイトメトリー」は、細胞の像を画像として組み立てず、光の信号のまま機械学習で判別する細胞計測技術です。特徴は、細胞の形や内部構造の違いだけで、目的の細胞を見分けられる点にあります。再生医療や創薬の現場では、治療や検査に使う細胞を、そのままの状態で選び出せます。

市場課題|細胞を見分ける技術の限界

現状の細胞分取の課題|現状は、染色が必要で治療に使いにくい/染めた細胞はそのまま使いにくい/顕微鏡の選別は時間がかかる傾向

染色した細胞は治療に使いにくい

細胞を1個ずつ見分ける従来の方法は、目印となる蛍光色素を細胞に結合させる工程を前提としています。抗体に付けた色素が放つ光の強さを測り、その値で目的の細胞かを判定する仕組みです。ただし、色素や抗体を加えた細胞を患者へ戻すことは難しく、治療に使う細胞の選別には制約が残ります。

顕微鏡での選別は時間がかかる

細胞の形や内部構造を手がかりに選ぶ場合、従来は顕微鏡での観察と人手による回収が中心でした。1個ずつ画像を撮って判断するため時間を要し、数万から数百万個を扱う規模には合いにくくなります。形の違いに意味があると分かっていても、大量の試料から目的の細胞を集める用途では使いにくい状態です。

色素を加える工程には、手間と費用もかかります。他にも、試薬が細胞の性質に与える影響、測定者ごとに判定の基準がそろいにくいこと、画像を比べ続ける負担、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 蛍光色素光を当てると別の色の光を放つ物質。抗体などに結合させて細胞に付け、その光の強さから目的の細胞かどうかを判定する。
  • 抗体特定の物質にだけ結合するタンパク質。細胞の表面にある目印の分子を狙って結合するため、細胞を見分ける道具として使われる。

シンクサイトの強み|ゴーストサイトメトリー

シンクサイトが「ゴーストサイトメトリー」を開発|今後は、無染色の判別で細胞の選別が可能に/無染色のまま形の違いで判別/毎秒3千件の分取に対応

無染色のまま形の違いで判別

従来のセルソーターは、蛍光の強さという一つの指標で細胞を判定するため、形や内部構造の違いを選別に生かしにくいという課題がありました。

同社が確立したのは、蛍光色素を加えずに形態の違いだけで細胞を選び分ける手法です。「ゴーストサイトメトリー」では、細胞に特殊な模様の光を当て、流れる細胞が生み出す時間変化の信号を1つの受光素子で受け取ります。得られた信号には細胞の形や内部構造の情報が含まれており、その信号を学習させたモデルが目的の細胞かどうかを判定します。画像を復元する処理を挟まないため、判定が速く済む点も特徴です。

高速で目的の細胞を分取する

形態の情報を判定に使う装置は、1個あたりの判定に時間がかかるほど処理できる細胞の数が限られ、研究や製造の規模に合わせにくくなります。

同社が製品化したのは、AI駆動型セルソーター「VisionSort」です。2023年2月に公開しました。無染色と蛍光の両方の方式で細胞を分取できます。毎秒3,000イベントの分取に対応し、1マイクロメートル(1000分の1ミリメートル)未満の分解能で形態を捉えます。2025年6月には解析基盤(測定したデータを分析する仕組み)「MorphoScan Cloud」を、2026年7月にはアッセイ開発サービスを加え、導入した現場が自分たちのデータを解析できる形を整えてきました。

FrontJournalの解説
  • セルソーター多数の細胞を1個ずつ流しながら測定し、条件に合う細胞だけを取り分ける装置。研究や細胞治療の材料づくりに使われる。
  • 機械学習大量のデータから規則性を学び、未知のデータを分類する計算手法。細胞の信号を学習させると、目的の細胞を自動で判定できる。
  • 分解能どれだけ細かい違いを見分けられるかを示す尺度。数値が小さいほど、細胞の内部にある小さな構造まで捉えられる。
  • 受光素子光を受けて電気信号に変える部品。カメラの画素と同じ働きをし、1個でも明るさの時間変化を記録できる。
  • アッセイ細胞や薬の性質を測るための試験の手順。目的に合わせて条件を設計する必要があり、開発には専門的な知識を要する。

ゴーストサイトメトリーの未来|細胞治療への応用

無染色の細胞分取が変える未来|再生医療から創薬まで選別が広がる/研究機関や企業へ装置の導入が進む/細胞治療の品質を出荷前に確かめる/治療用の細胞を安定して供給へ

国内外の研究機関へ導入が進む

「VisionSort」は、すでに国内外の研究機関と企業へ導入されています。2025年11月には、グローバルの大手ヘルスケア企業と大型の売買契約を結びました。2025年12月には、京都大学と東京科学大学への導入が決まりました。2026年1月には、イタリアでも導入を完了しています。

細胞治療の品質管理に応用

細胞治療の製品を作る工程では、品質管理への応用が進んでいます。品質管理は、出荷する細胞が目的の状態にあるかを確かめる工程です。2024年9月には、「ゴーストサイトメトリー」を製造工程の品質管理へ応用した研究が「Scientific Reports」に掲載されました。再生医療で使う「VisionSort」の用途にも、細胞・遺伝子治療(細胞や遺伝子を薬として使う治療)の品質管理が含まれます。

治療用細胞の安定供給を目指す

同社が目指すのは、治療に使う細胞を安定して供給できる状態です。血液がんの分野では、2023年4月から順天堂大学とシスメックスとともに、慢性骨髄性白血病(血液のがんの一種)の早期発見と病態の解明に向けた共同研究を進めています。創薬の分野で検討されているのは、細胞の見た目の変化から薬の働きを評価する表現型スクリーニングへの応用です。形態の情報で細胞を見分ける手法を、研究の場から治療の現場まで通して使える技術にすることを目指します。

FrontJournalの解説
  • 細胞治療細胞そのものを薬として体に入れる治療。がんを攻撃する免疫細胞や、組織を修復する幹細胞を培養して患者に投与する。
  • 表現型スクリーニング薬の候補を細胞に加え、見た目や振る舞いの変化から効果を探す手法。標的の分子が分かっていない段階でも評価できる。

会社概要|シンクサイトの事業内容・設立背景

東京大学の研究から事業化

シンクサイト株式会社は、2016年2月に設立されました。創業の中心は、東京大学の太田禎生氏です。技術の土台は、東京大学、大阪大学、理化学研究所の共同研究として2018年に「Science」で報告した細胞の形態判別の成果です。共同創業者には、東京大学の佐藤一誠氏と、創業当時に大阪大学に所属していた堀﨑遼一氏が名を連ねます。代表取締役は共同創業者の勝田和一郎氏、最高科学責任者は太田氏です。

採択と連携で開発を加速

国の支援と企業との連携が、開発を後押ししました。2019年には経済産業省のスタートアップ支援制度「J-Startup」に選定されています。2020年7月には日立製作所と細胞分析・分離システムの共同開発を開始し、2021年5月にはシスメックスと資本提携(相手企業に出資して結びつきを強める提携)の契約を結びました。2023年10月にはNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「ディープテック・スタートアップ支援事業」に採択されています。

シリーズCで約45億円を調達

同社は2024年8月、シリーズCで合計約45億円の資金調達を完了しました。シリーズCは、量産と販売の体制を整える段階の調達です。助成金を含む累計の調達額は約111.5億円です。調達した資金は、「VisionSort」の海外での販売体制の強化と、新たな製品やサービスの開発にあてるとしています。

会社情報

会社名シンクサイト株式会社(ThinkCyte, Inc.)
所在地東京都文京区本郷3-18-14。米国拠点=カリフォルニア州サンカルロス。
設立2016年2月
代表代表取締役 勝田 和一郎。最高科学責任者 太田 禎生(東京大学 教授)。
調達シリーズA 16.5億円(2020年5月)。シリーズB 28.5億円(2021年5月)。シリーズC 約45億円(2024年8月完了)。助成金を含む累計 約111.5億円。
投資家シリーズC=脱炭素化支援機構、KIRIN・GB投資事業有限責任組合、SMBCベンチャーキャピタル7号等。2021年5月にシスメックス。
連携日立製作所(2020年7月、細胞分析・分離システムを共同開発)。順天堂大学(2023年4月、慢性骨髄性白血病の共同研究)。網膜の細胞を対象とした共同研究(2024年1月に「Stem Cell Reports」掲載)。
技術領域ゴーストサイトメトリー(光構造照明と機械学習による無染色の細胞形態判別)。AI駆動型セルソーター「VisionSort」
採択経済産業省「J-Startup」(2019年6月選定)。NEDO「ディープテック・スタートアップ支援事業」(2023年10月)、同「事業開発支援事業(UPP)」(2025年8月)に採択。
URLhttps://thinkcyte.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

細胞を見分ける作業は、長いあいだ「目印を付ける」ことと引き換えでした。目印を付けた細胞は、そのまま治療へ戻しにくくなります。シンクサイトが向き合うのは、その前提を外す課題です。

面白いのは、画像を作らず形を見分ける発想です。人が見るための画像を復元せず、機械が読める信号のまま扱います。単なる測定装置ではなく、細胞を見る手順そのものを設計し直している点に価値があります。

東京大学で生まれた技術が、海外の研究室でも選ばれています。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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