株式会社JiMED|脳表の皮質脳波を無線で送るワイヤレス植込型BMIを開発する大阪大学発の企業

株式会社JiMED(JiMED Inc.)

JiMED「ワイヤレス植込型BMI」を研究|脳の信号で機器を操作する医療機器/電極から装置まで体内に収める/意思を伝える手段の回復を目指す

企業紹介|株式会社JiMEDとは?

身体を動かせない人が思考で機器を操作する技術として、注目を集める「ワイヤレス植込型BMI」。JiMEDは、その「ワイヤレス植込型BMI」の社会実装を目指す、大阪大学発のライフサイエンス系ディープテック企業です。頭部にすべて埋め込む脳波計測装置「wiBMI」を、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などで意思を伝えにくくなった患者へ向けて開発しています。

キーワード「ワイヤレス植込型BMI」

BMIは脳と機器をつなぐブレイン・マシン・インターフェースの略で、その装置一式を体内へ埋め込む方式がワイヤレス植込型BMIです。特徴は、電極から通信の装置までを体内に収め、皮膚を貫くケーブルなしで脳波を計測できる点にあります。意思を伝えにくくなった患者が、文字の入力や車椅子の操作を自分の意思で行える将来が見込まれます。

市場課題|病気が進むと意思疎通が難しい

現状の意思伝達支援の課題|現状は、身体の動きが前提で進行に弱い/筋肉が動かしにくく声を失う/進行後は視線入力が難しくなる

筋肉が動かしにくく声を失う

国の指定難病であるALSは、2023年度末時点で9,727人が受給者証を持っており、進行に伴って全身の筋肉に力が入りづらくなります。手足だけでなく口や喉の筋肉にも症状が及ぶため、まず失われるのは話す・書くという日常の手段です。身体の動きが残らなくなると、意識と思考は保たれたまま閉じ込め状態に近づきます。

進行後は視線入力が困難

意思を伝える手段として広く使われる視線入力装置も、症状が進むと操作が難しくなる場合があります。画面の文字を目で追って選ぶ仕組みのため、目の動きが残っていることが前提だからです。長時間の集中と目への負担を伴うため、疲れやすさから一度に使える時間も限られます。

他にも、設定と調整を担う支援者の不足、環境が変わるたびに生じる再調整の手間、体調によって判定が揺らぐことで起きる誤入力、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 閉じ込め状態意識と思考は保たれているのに、全身の筋肉が動かしにくくなり、意思を外へ伝える手段が残らなくなった状態を指す。ALSなどの神経疾患の進行で生じ、身体の動きを前提とした装置は使いどころが限られる。

JiMEDの強み|脳表の脳波を無線で送る

JiMEDが「ワイヤレス植込型BMI」を開発|今後は、脳表の脳波で機器の操作が可能に/脳表の電極で脳波を直接読む/無線給電で体内に全て収める

脳表の電極で脳波を直接読む

頭皮から測る脳波は、頭蓋骨と皮膚に隔てられて信号が弱く、細かな動作の指令を取り出しにくいものでした。

「wiBMI」は、脳を覆う硬膜(脳を包む膜)の内側に置いたシート状の電極で、脳の表面から直接記録する皮質脳波(ECoG)を計測する装置です。電極は手足を動かす指令を出す運動野の上に置かれるため、脳の組織へ針を刺さずに信号を取り出せます。開発の基盤は、大阪大学が2018年に報告した完全埋込型システム「W-HERBS」です。この試作機は128チャンネルの電極から脳波を毎秒1,000回記録でき、その高密度な計測が「wiBMI」へ受け継がれています。

無線給電で体内に全て収める

体内の電極から体外の記録装置へケーブルを通す方式では、皮膚を貫く部分から感染が起こる危険が、埋め込む期間が長いほど高まります。

「wiBMI」は、電力を体外のヘッドセットから無線で受け取り、計測した脳波も無線で体外へ送るため、皮膚を貫くケーブルが不要です。本体は腕時計ほどの大きさで、頭蓋骨を開く手術でできた穴を塞ぐようにはめ込みます。手術は2〜3時間程度で、頭皮を上から縫い合わせるため外から装置は見えません。送られた脳波は人工知能が解読し、思い浮かべた動作を機器の操作へ変換します。脳波と動作の対応を学習させる訓練は、短ければ3日程度で済むといわれています。

FrontJournalの解説
  • 皮質脳波脳の表面に置いた電極で直接記録する脳波を指す。頭蓋骨と皮膚を通さないため信号が強く、時間と位置の分解能が高い。脳へ針を刺す方式より体への負担が小さく、長く記録する用途に向く。

ワイヤレス植込型BMIの未来|操作の対象を広げる

体内に収まるBMIが変える未来|文字の入力から機器の操作へ広がる/思考でロボットアームを動かせた/ALS患者への企業治験が控える/操作できる対象の拡大を目指す

ロボットアームを臨床研究で確認

思考による機器の操作は、すでに臨床研究で確かめられています。大阪大学の研究グループは、運動機能に障害のある人を含む12名から脳表の脳波を記録し、そのうち運動機能に障害のある1名を含む4名がロボットアームを操作できたと2012年の神経学の専門誌Annals of Neurologyで報告しました。その後、四肢の麻痺が進んだALSの患者が、意思伝達装置を操作して文章を作成することにも成功しています。研究の積み重ねが、医療機器としての開発につながりました。

ALS患者への企業治験が控える

次の段階は、ALSの患者を対象とする治験です。医薬品医療機器総合機構(PMDA)へ提出した治験計画届が受理されたと、JiMEDは2026年6月に発表しました。ワイヤレス植込型BMIの企業治験(企業が主体となって行う治験)としては国内で初めてとされ、2026年内の開始を予定しています。海外への展開に向けては、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援事業のなかで北米での活動拠点の確保も実証項目に挙げられています。

操作できる対象の拡大を目指す

同社が目指すのは、意思で操作できる対象を広げることです。操作の対象は文字の入力にとどまりません。車椅子であれば、意図したタイミングで指示を出せるため、衝突の回避にもつながるといわれています。長期の計測で集まる皮質脳波のデータベースの構築も支援事業の実証項目に挙げられており、脳科学の研究や創薬への活用が見込まれます。

会社概要|株式会社JiMED

大阪大学の研究から事業化

JiMEDは、2020年3月に大阪府で設立されました。基盤となったのは、大阪大学大学院医学系研究科の特任教授である平田雅之氏らが2009年から進めてきた、完全埋込型の脳波計測システムの研究です。社名は、体内へ植え込む医療機器を日本から生み出すという意図を込めたJapan Implantable Medical Devicesに由来します。2022年に、製薬企業とコンサルティング会社を経た中村仁氏が代表取締役へ就任し、平田氏は取締役を務めています。設立と同じ2020年11月には、医療機器メーカーの日本光電工業が資本参加しました。

NEDOとPwC財団が支援

開発は公的機関と財団の支援を受けています。2025年2月、NEDOの「ディープテック・スタートアップ支援事業」に採択され、交付決定額は2億6,500万円です。2024年にはPwC財団(コンサルティング会社PwCが設立した助成財団)の助成事業「人間拡張」にも選ばれ、大阪大学の共同研究講座では村田製作所や塩野義製薬などとともに研究を進めています。

累計約11.8億円を調達

同社は2026年6月に、3億3,000万円の調達を発表しました。2025年2月には、シリーズAラウンド(量産と事業化の準備へ進む段階の資金調達)で3億5,000万円を調達しており、株式の発行による累計調達額は約11億8,000万円です(2026年6月時点)。引受先は慶應イノベーション・イニシアティブ、大阪大学ベンチャーキャピタル、京都大学イノベーションキャピタルほか複数の投資家で、資金は治験の準備に充てられるとされています。

会社情報

会社名株式会社JiMED(JiMED Inc.)
所在地大阪府吹田市山田丘2-8 テクノアライアンス棟C棟。東京都千代田区大手町1-6-1 大手町ビルヂング6階
設立2020年3月26日
代表中村 仁(代表取締役)。平田 雅之(取締役・大阪大学大学院医学系研究科 特任教授)
調達株式の発行による累計調達額 約11億8,000万円(2026年6月時点)。2026年6月に公表した引受先は慶應イノベーション・イニシアティブ、大阪大学ベンチャーキャピタル、京都大学イノベーションキャピタル、グリーンコア、池田泉州キャピタル。このほか、みずほキャピタルや日本光電工業が過去のラウンドで出資
事業ワイヤレス体内植込型ブレイン・マシン・インターフェースの開発、製造、販売。開発品はワイヤレス植込型BMI「wiBMI」で、2026年6月にPMDAへの治験計画届の受理を発表
技術領域ワイヤレス植込型BMI、皮質脳波(ECoG)計測、埋込型医療機器、無線給電、意思伝達支援
連携大阪大学大学院医学系研究科 脳機能診断再建学共同研究講座(村田製作所、塩野義製薬、ピクシーダストテクノロジーズと参画)。日本光電工業
採択NEDO「ディープテック・スタートアップ支援事業」(2025年2月・交付決定額 2億6,500万円)。PwC財団 助成事業「人間拡張」(2024年)。大阪大学「起業プロジェクト育成グラント」
URLhttps://www.jimed.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

意思を伝える手段は、これまで身体の動きを借りて成り立ってきました。文字盤も視線入力も、どこか一か所でも動く場所が残っていることが前提です。JiMEDが挑むのは、その前提が失われたあとの選択肢を用意する仕事です。

この装置は、単なる脳波計ではなく、意思の出口をもう一つ用意する試みだといえます。脳へ針を刺さず、ケーブルも通さず、頭蓋骨にはめ込んで頭皮の下へ収める設計。安全性と実用性を同時に成り立たせるその思想には、脳神経外科の現場で積み上げられた判断が表れています。

2009年に始まった研究が、いよいよ患者を対象とした治験へ進もうとしています。国内で埋込型の脳波計を手がける企業として、その歩みは注目すべきものです。大阪の研究室で生まれた技術が、届かなかった言葉を運ぶ日が近づいています。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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