大熊ダイヤモンドデバイス|ダイヤモンド半導体を基板から一貫生産する北海道大学・産業技術総合研究所発ディープテック

大熊ダイヤモンドデバイス株式会社

大熊ダイヤモンドデバイス「ダイヤモンド半導体」を研究|研究領域=高温でも動作する次世代の半導体/強み=基板から製品まで一貫して製造/将来性=廃炉の計測から宇宙や通信へ

企業紹介|大熊ダイヤモンドデバイスとは?

ダイヤモンド半導体」は、高温や強い放射線のもとでも動作を保つ電子部品を実現する材料として注目されています。大熊ダイヤモンドデバイスは、その社会実装を目指す北海道発のディープテックスタートアップです。北海道大学産業技術総合研究所の成果をもとに、基板からデバイス製造までを一貫して手がけます。2026年5月には福島県大熊町へ量産工場を竣工しました。

キーワード「ダイヤモンド半導体」

「ダイヤモンド半導体」は、炭素の結晶であるダイヤモンドを半導体として使う技術です。広く使われるシリコンと異なり、高い熱伝導性と耐電圧性を備えます。一方で大きな基板を安定して製造しにくく、長く研究段階にとどまってきた材料でもあります。北海道大学の金子純一 准教授を中心に、耐環境半導体の研究が積み重ねられてきました。その成果は『Japanese Journal of Applied Physics』などで報告されています。

市場課題|過酷環境ではシリコンが性能を発揮しにくい

現状のシリコン半導体の課題|シリコンは発熱で冷却器が大型化/交換の難しい現場では寿命が課題

シリコンは発熱で冷却器が大型化

電子機器を支えるシリコン半導体は、温度上昇で動作が不安定になります。大電力を扱うパワー半導体ほど、大きな冷却装置が必要です。冷却部品が増えるほど機器は重くなり、小型化しにくくなります。

交換の難しい現場では寿命が課題

シリコンは、耐えられる電圧を超えると絶縁破壊を起こし、素子が壊れます。強い放射線を受けても結晶の並びが乱れ、電気特性が変化し、誤動作につながります。原発の廃炉や宇宙では機器の交換が難しく、動作を保てる期間が課題です。

他にも、基板と製品で担う会社が分かれる工程の分業、電力変換時の熱損失による送電ロスがあります。これらに、高い周波数ほど崩れやすい信号の乱れといった課題が積み重なってきました。

FrontJournalの解説
  • パワー半導体電力を制御・変換する半導体である。電気自動車や電力インフラで大きな電力を扱うために用いる装置を指す。
  • 絶縁破壊強い電圧で電流が突き抜け、素子が壊れる現象を指す。耐電圧が高いほど絶縁距離が短くなり、小型化に有利である。

大熊の強み|ダイヤモンド半導体を一貫生産

大熊ダイヤモンドデバイスが「ダイヤモンド半導体」を開発|高い熱伝導率で冷却を簡素化/耐電圧が高く放射線下でも動作

高い熱伝導率で冷却を簡素化

ダイヤモンドを使った半導体は熱伝導率が高く、内部の熱を素早く放熱できます。シリコンの半導体は熱がこもりやすく、大電力を扱うほど大きな冷却装置が必要でした。同社は基板からデバイスまでを自社で手がけ、放熱にすぐれた素子を設計しています。冷却構造を簡素化でき、機器全体の小型化と省エネにつながります。高温になりやすい大電力の用途ほど、この物性が有利です。

耐電圧が高く放射線下でも動作

ダイヤモンドを使った半導体は絶縁破壊が起きにくく、高い電圧や強い放射線のもとでも壊れにくい性質があります。シリコンの半導体はこれらに耐えるため、遮蔽(放射線を遮る構造物)や冷却の装置が大型になりがちでした。同社は耐環境半導体の研究をもとに、こうした条件でも動作を保つ素子の開発を進めています。小さな素子で大きな電力を扱えるため、交換の難しい現場でも使いやすくなります。電子移動度が高い性質もあり、高い周波数を扱う通信機器にも有望です。

FrontJournalの解説
  • 熱伝導率熱の伝わりやすさを表す値である。高いほど放熱が速く、半導体が高温になりにくい状態を保てるとされている。
  • 電子移動度材料の中で電子がどれだけ動きやすいかを表す値である。高いほど高い周波数の信号処理に有利とされている。
  • 物性その材料が持つ物理的な性質を指す。熱伝導性や電気伝導性が半導体の性能を左右する要因である。

未来|原発の廃炉から宇宙・6Gへ広げる社会実装

過酷環境に強いダイヤモンド半導体が変える未来|最初の量産品は廃炉用の計測器/衛星の通信機を小型軽量化/5Gや6Gの基地局展開へ

最初の量産品は廃炉用の計測器

最初の量産品は、福島第一原発の廃炉で使う計測デバイスです。取り出す燃料デブリは強い放射線を出すため、中性子検出器(中性子を計測する装置)などの用途が想定されています。2026年5月29日、同社は福島県大熊町に量産工場を竣工しました。ダイヤモンド半導体の量産に特化した工場は世界初とされ、敷地面積は約5,800平方メートルです。

衛星の通信機を小型軽量化

廃炉の現場で磨いた耐環境性(過酷な環境に耐える性質)は、宇宙や衛星通信にも活かせます。強い放射線や高温でも動作を保ちやすく、遮蔽や冷却の装置を小さくできる点が特徴です。機器が軽くなるほど、打ち上げコストの削減にもつながります。同社は宇宙や安全保障の領域も、社会実装の候補に挙げています。

5Gや6Gの基地局展開を目指す

同社は5G/6G次世代通信やエネルギーインフラへの展開を目指しています。高い周波数帯ほど、高周波・高出力に強い半導体が必要です。基地局を支える部品として、ダイヤモンド半導体の採用が期待されています。こうした展開を支えるため、福島工場は2028年度ごろの本格稼働を目指しています。

FrontJournalの解説
  • 燃料デブリ事故で溶けた核燃料が、原子炉の構造物と混ざり合って固まった物質である。福島第一原発の廃炉では、その取り出しが大きな技術課題とされている。
  • 6G5Gの次に来ると想定される次世代の無線通信規格である。より高い周波数帯を用いるため、従来より高い性能の半導体が求められる。

会社概要|大熊ダイヤモンドデバイスの設立背景

2022年に北海道大学発で設立

大熊ダイヤモンドデバイスは、北海道大学の研究成果を事業化するため2022年3月に設立されました。代表の星川尚久氏は同大学工学部の出身で、母校で金子純一 准教授の耐環境半導体デバイス工学研究室と出会いました。産業技術総合研究所の梅沢仁 上級主任研究員も共同創業者として参画し、取締役を務めます。社名の「大熊」は、量産工場を構える福島県大熊町に由来します。同社は基板からデバイス製造、システム開発までを一貫して担う体制です。

J-Startupなどに選定

同社は経済産業省の「J-Startup」(国が有望な新興企業を選ぶ制度)に選定されています。特許庁の第6回「IP BASE AWARD」(知的財産の取り組みを表彰する制度)ではグランプリを受賞しました。「EY Innovative Startup 2025」にも選出されました。「Forbes Asia 100 To Watch 2024」では注目企業として名を連ねています。量産工場の建設では経済産業省の補助金にも採択され、産業技術総合研究所とも技術面で連携しています。

約40億円を調達し量産体制へ

2024年10月、プレシリーズA(量産前の資金調達)で約40億円(デット=借入を含む)を調達しました。リード投資家(出資をまとめる中心の投資家)はグロービス・キャピタル・パートナーズが務めました。Coral Capitalなどのベンチャーキャピタルに加え、銀行3行も参加しています。助成金を含めた累計調達額は約67億円にのぼり、量産工場の建設などに充てられます。

会社情報

会社名大熊ダイヤモンドデバイス株式会社(OKUMA DIAMOND DEVICE)
所在地札幌市北区北21条西12丁目2 北大ビジネス・スプリング。福島工場:福島県双葉郡大熊町
設立2022年
代表代表取締役社長:星川 尚久。金子 純一(北海道大学 准教授)/梅沢 仁(産業技術総合研究所 上級主任研究員・取締役)
従業員福島工場で約40人まで増やす方針(2028年度ごろの本格稼働に向けて)
調達プレシリーズA 約40億円(2024年10月・デットを含む/リード:グロービス・キャピタル・パートナーズ/参加:Coral Capital、三井住友海上キャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、みずほ銀行、東邦銀行、常陽銀行 ほか)。助成金を含めた累計調達額は約67億円
技術領域北海道大学 工学研究院 耐環境半導体デバイス工学研究室(金子純一 准教授)+産業技術総合研究所(AIST)。ダイヤモンド半導体、パワー半導体、高周波デバイス、耐放射線デバイス
採択経産省 J-Startup 選定/特許庁 第6回 IP BASE AWARD グランプリ/EY Innovative Startup 2025/Forbes Asia 100 To Watch 2024
URLhttps://ookuma-dd.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

半導体は技術ニュースの定番のテーマです。なかでも材料そのものが変わる話は、産業の節目を示します。ダイヤモンド半導体は、その有力な候補とされてきました。大学の研究室で静かに積み重ねられてきた分野が、量産という段階に届こうとしています。

同社が印象的なのは、原発の廃炉という日本社会の重い課題を起点にしている点です。廃炉の現場で求められる計測技術が磨かれ、それが宇宙や次世代通信にも活きていきます。現場の要求に応える技術が、結果として別の産業を育てていく構図です。

基板から一貫して手がける体制も、着実な足場になりそうです。2026年5月に竣工した工場は、本格稼働まで数年をかける計画とされています。ダイヤモンド半導体をどこまで社会に届けるのか、これからの歩みに期待が集まります。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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