株式会社Photo electron Soulは光で電子ビームを取り出す半導体フォトカソードを開発する名古屋大学発スタートアップ

株式会社Photo electron Soul(フォトエレクトロンソウル)

Photo electron Soul「半導体フォトカソード」を研究|光を当てて電子を取り出す電子源/従来より明るく細いまま大きな電流/半導体検査から計測や加工へ

企業紹介|株式会社Photo electron Soulとは?

微細化が進む半導体の検査で、電子ビームを生む「半導体フォトカソード」。Photo electron Soulは、その「半導体フォトカソード」で光電子ビームを取り出す装置を開発する、名古屋大学発のディープテックスタートアップです。主力製品「PES-2020 e-Beam System」は、半導体ウェハの検査装置に組み込む電子源です。

キーワード「半導体フォトカソード」

半導体フォトカソード」は、半導体の結晶にレーザー光を当て、光電効果(光のエネルギーで電子が飛び出す現象)によって電子を取り出す電子源です。金属を加熱したり強い電界をかけたりして電子を絞り出す従来の方式に対し、光を当てる場所と強さでビームの形と量を決められます。名古屋大学が30年以上にわたり研究してきた技術が基盤です。

市場課題|検査が微細化に追いつきにくい

現状の半導体検査の課題|積層と微細化で検査点が急増/深い穴の内部は評価が難しい

積層と微細化で検査点が急増

半導体の積層化と微細化が進み、1枚のウェハで確かめる検査点が急増しています。記憶素子を縦に積み上げる三次元フラッシュメモリでは層数が増え続け、深く細い穴を膨大な数だけ同じ形に開ける工程が必要です。検査点が増えるほど、1枚を調べ切る時間は長くなります。

深い穴の内部は評価が難しい

積み上がった構造の奥の評価は困難です。光で調べる光学式の検査では、開口が細く深い高アスペクト比(深さと幅の比が大きい形状)の穴は底まで光が届きにくく、捉えられる範囲が限られます。電子ビームを使う検査は細部まで見分けられますが、走査に時間を要するため、多数を順に見る用途には不向きです。

検査の負担は、穴の形の確認にとどまりません。他にも、欠陥の位置を絞り込む解析の手間、動作を電気的に確かめる探針(回路に当てる細い針)の接触、装置ごとの検査レシピの調整、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 高アスペクト比穴や溝の深さを、その幅で割った値が大きい形状を指す。三次元フラッシュメモリの穴は層を重ねるほど深くなり、底部まで光や探針が届きにくいため、内部の評価が難しくなる。

強み|光で電子を取り出す半導体電子源

Photo electron Soulが「半導体フォトカソード」を開発|ショットキー型より10倍以上明るい/レーザーの当て方で照射を制御

光で電子を取り出し高輝度化

産業用の電子源は、およそ50年にわたり熱電界放出型(ショットキー型)が主流でした。加熱と電界で引き出した電子は速度も向きもばらつくため、細く絞ったまま取り出せる電流が限られます。

半導体フォトカソードは、III-V族半導体(ガリウムやヒ素からなる化合物半導体)の結晶の表面に薄い膜を付けて、電子が外へ出やすい負の電子親和力(表面の障壁が下がった状態)を形成し、そこへレーザー光を当てて光電効果で電子を取り出します。取り出す電子は速度のばらつきが小さく、エミッタンス(ビームの広がりやすさ)が小さいため、細く絞ったまま大きな電流を流せる点が特長です。ショットキー型と比べて10倍以上明るいビームが得られます。1か所に当たる電子が増えるため、同じ像を得るまでの時間を短くできます。

レーザーで照射を自在に制御

熱や電界で電子を引き出す方式では、電子の量を瞬時に変えるとビームの軸がずれやすく、狙った場所だけを照射する制御が難しくなります。

同社の方式では、レーザー光を当てることで電子を取り出すため、光の当て方を変えるだけでビームの形と強さが決まります。この特性を使う「DSeB」(選択的電子ビーム照射技術)は、狙った領域だけに電子ビームを照射する機能です。「YCeB」(収量制御電子ビーム技術)は、軸のずれを起こさずにビームの強弱を瞬時に切り替えます。この2つにより、高アスペクト比構造の検査と、探針を当てずにトランジスタの動作を確かめる非接触の電気的検査が可能になるとしています。

FrontJournalの解説
  • エミッタンス電子ビームの広がりやすさを表す指標。値が小さいほど電子の進む向きと速度がそろい、細く絞ったまま多くの電流を流せる。検査に使うビームの明るさと分解能を左右する。

未来|検査から計測・加工へ広がる応用

明るい光電子ビームが変える未来|検査装置の電子源として供給が進む/量産ラインで歩留まりを検証/計測や加工など産業へ広げる

検査装置に組み込まれ稼働

PES-2020 e-Beam System」は、すでに装置メーカーへ供給されています。2023年にはウシオ電機と総代理店契約を結び、同年11月から販売が始まりました。検査の対象は、半導体ウェハに描かれた回路のパターンです。同社は、検査装置に搭載すると走査の速度が10倍以上に高まるとしています。

量産ラインで歩留まりを検証

同社の技術は、量産ラインでの評価段階に入りました。2025年9月には、名古屋大学と共同開発したGaN(窒化ガリウム)系のフォトカソードを、三次元フラッシュメモリを生産するキオクシア岩手へ導入し、同月下旬から評価を始めると発表しました。検証の主題は、欠陥の検出と原因の特定による歩留まり(良品の割合)の向上です。層数がさらに増える世代に向けて、検査と計測の基盤として使えるかが確かめられます。

計測や加工への展開を目指す

同社は、光電子ビームの用途検査の先へ広げることを目指しています。次世代の応用として掲げるのは、検査・計測に加えた先端パターニング(回路の形を描く工程)です。材料の面では、GaN系フォトカソードの研究を名古屋大学と続けており、電子源に使える材料の選択肢を広げています。電子デバイスにとどまらず、ライフサイエンスやエンジニアリングを含む産業への展開を目標に据えています。

会社概要|光電子ビーム装置の開発企業

大学の30年の研究から創業

株式会社Photo electron Soulは、2015年7月に名古屋市で設立されました。基盤となったのは、名古屋大学が30年以上にわたり研究してきた半導体フォトカソード技術です。代表取締役は鈴木孝征氏が務め、最高技術責任者(CTO)の西谷智博氏は、学生時代を含め名古屋大学でこの技術を10年以上研究してきました。本店と製造拠点は名古屋医工連携インキュベータ(創業期の企業を支援する賃貸施設)に置き、開発拠点は名古屋大学内にあります。

大学と装置メーカーの連携

2021年4月には、名古屋大学未来材料・システム研究所に「Photo electron Soul GaN電子ビームデバイス産学協同研究部門」が設置されました。GaN系の半導体フォトカソードの研究開発を、同大学の天野・本田研究室と共同で進める枠組みです。事業面では、2023年にウシオ電機と総代理店契約を結び、量産と販売で協力を受けています。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援事業を通じて、半導体製造装置向けのシステムを開発してきました。

資金調達の経緯

2026年3月31日、第三者割当増資により約9億円を調達し、累計調達額は約40億円となりました。引受先は、芝浦メカトロニクス、肥銀ベンチャー3号投資事業有限責任組合、Hotung Venture Capital Corporationです。2023年9月にはウシオ電機をリード投資家として約7.3億円を調達しており、今回の資金は量産とメンテナンス体制の強化や、次世代の応用への開発投資に充てられます。

会社情報

会社名株式会社Photo electron Soul
所在地本店・管理・製造拠点:愛知県名古屋市千種区千種2-22-8 名古屋医工連携インキュベータ。開発拠点:愛知県名古屋市千種区不老町 名古屋大学内。East Japan Office:神奈川県横浜市港北区新横浜3-7-18
設立2015年7月1日
代表代表取締役:鈴木 孝征
最高技術責任者(CTO):西谷 智博
資本金1億円
上場未上場
調達2026年3月 約9億円(第三者割当増資/累計 約40億円)。引受先:芝浦メカトロニクス株式会社/肥銀ベンチャー3号投資事業有限責任組合/Hotung Venture Capital Corporation。2023年9月 約7.3億円。引受先:ウシオ電機株式会社(リード)/株式会社みずほ銀行/りそなキャピタル株式会社など
事業電子ビーム発生装置および素子の研究、開発、製造、販売。主力製品:PES-2020 e-Beam System(加速電圧 50kVまで/SEMI S2 適合)
技術領域半導体フォトカソード、光電子ビーム、GaNフォトカソード、選択的電子ビーム照射技術(DSeB)、収量制御電子ビーム技術(YCeB)
連携名古屋大学未来材料・システム研究所「Photo electron Soul GaN電子ビームデバイス産学協同研究部門」(2021年4月〜)。ウシオ電機株式会社(2023年 総代理店契約)。キオクシア岩手株式会社(2025年9月 導入評価)。芝浦メカトロニクス株式会社(量産・メンテナンスの業務提携)
採択NEDO 支援事業(半導体製造装置向け電子ビーム生成システムの開発)
URLhttps://photoelectronsoul.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

電子ビームを生む部品は装置の奥にあり、外から見えません。それでも、その細さと明るさが検査装置の速度と見える範囲を決めています。Photo electron Soulが取り組むのは、半世紀ほど大きく変わらなかった電子源を、光で駆動する方式へ置き換える仕事です。

速く走査できることだけが注目点ではありません。光の当て方でビームを操れる性質が、探針を当てずに回路の動作を確かめるなど、これまで難しかった検査の形を生んでいます。部品の置き換えにとどまらず、検査の方法そのものを増やす技術である点が、この会社の面白さです。

名古屋大学の30年の研究が、量産ラインでどこまで実力を示すか。その先には、検査を超えた用途が広がります。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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