TNAX Biopharma株式会社は免疫受容体を標的とする抗体医薬を開発する筑波大学発スタートアップです

TNAX Biopharma株式会社(ティーナックス)

TNAX Biopharmaが「免疫受容体」を研究|研究領域=免疫の受容体を狙う抗体医薬/強み=死細胞の除去を促して炎症を抑制/将来性=脳梗塞や腎障害の治療薬を目指す

企業紹介|TNAX Biopharma株式会社とは?

脳梗塞や心臓手術のあとに広がる炎症を抑える標的として、注目を集める「免疫受容体」。TNAX Biopharma株式会社は、その「免疫受容体」を標的とする抗体医薬の実用化を目指す、筑波大学発のディープテックスタートアップです。ヒト化抗体「TNAX103」を、急性期脳梗塞や急性腎障害などの治療薬候補として開発しています。

キーワード「CD300a」(免疫抑制性受容体)

CD300a」は、白血球の表面にあり、死んだ細胞を片づける働きにブレーキをかける受容体です。特徴は、免疫の攻撃力を下げるのではなく、死んだ細胞を片づける速さを高められる点にあります。脳梗塞や心臓手術のあとの治療で、免疫の働き全体を抑えずに炎症を和らげる方法として研究されています。

市場課題|脳梗塞は再開通後も傷が広がりやすい

現状の急性期医療の課題|現状は、炎症を抑える薬が乏しく傷が広がる|血流を戻した後も傷が広がる/炎症を抑える薬が限られる傾向

再開通の後に組織障害が広がる

脳梗塞や心筋梗塞では、詰まった血管に血流を戻したあとにも組織の傷が広がりやすくなります。血流が途絶えた場所では細胞が死に、その内容物が漏れ出して、感染がないのに炎症が起きるためです。この炎症が長引くと臓器の線維化(組織が硬くなる変化)が進み、慢性の機能低下につながりかねません。

組織障害を抑える薬が乏しい

急性期の治療は血流の再開を優先しており、その後の炎症へ働く薬は限られます。脳梗塞では、発症から4.5時間以内に行う血栓溶解療法と、条件を満たせば24時間以内まで行える血栓回収療法が標準ですが、いずれも時間の制約があり対象は一部の患者です。免疫の働きを広く抑える薬は感染症のリスクを伴うため、急性期の全身投与には不向きです。

他にも、治療を始めるまでの時間の制約、救急の体制が整う病院への搬送、退院後に続く長期のリハビリ、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 線維化炎症が続いた組織で、コラーゲンなどの線維成分が過剰にたまり、硬く置き換わる変化。心臓や腎臓では収縮やろ過の働きが落ち、慢性の機能低下の原因となる。

TNAXの強み|死細胞の除去を促す抗体

TNAX Biopharmaが「免疫受容体」を狙う抗体を開発|今後は、死細胞の除去を促す治療が可能に|受容体のブレーキを抗体で外す/炎症のもとが出る前に死細胞を除去

受容体のブレーキを外す抗体

炎症を抑える薬の多くは免疫の働きそのものを広く弱めるため、感染症への抵抗力まで下げてしまいます。

TNAX103」は、白血球の表面にある「CD300a」だけに結合するヒト化抗体(人の抗体に近づけた治療用の抗体)です。体には、死んだ細胞をマクロファージなどが取り込んで片づけるエフェロサイトーシスという仕組みがあり、「CD300a」は、この片づけを止めるように細胞へ伝える受容体です。抗体でこの受容体をふさぐとブレーキが外れ、死細胞の除去が進みます。速やかに片づけば、そこから漏れ出すDAMPs(傷んだ細胞から出て炎症を起こす物質)が減り、炎症の引き金そのものが小さくなる仕組みです。

免疫を抑えずに炎症だけ抑制

炎症の信号だけを抑える薬は、炎症のもとが出続ける限り効果が限られます。

「TNAX103」が働きかけるのは、炎症が始まる前の段階にあたる死細胞の処理です。免疫の攻撃力そのものは残したまま、片づけの速さだけを上げる点が、免疫抑制薬との違いです。マウスの脳梗塞での効果は『Science Immunology』に、心臓と腎臓の虚血再灌流障害(血流が戻るときに起きる組織の傷)を抑えた結果は『Journal of Clinical Investigation』に報告されています。脊髄損傷での後肢の機能回復も『Journal of Neurotrauma』に報告されています。

FrontJournalの解説
  • エフェロサイトーシスマクロファージなどの食細胞が、死んだ細胞を認識して丸ごと取り込み、静かに処理する仕組み。処理が遅れると細胞の内容物が漏れ出し、感染のない炎症の引き金になる。

抗体医薬の未来|脳から心臓・腎臓・脊髄へ

免疫受容体が変える急性期医療の未来|脳から心臓・腎臓・脊髄へ広がる|動物モデルで機能の改善を確認/製造の提携で治験の準備へ/急性期医療への実装を目指す

動物モデルで機能の改善を確認

「TNAX103」の効果は、複数の臓器の動物モデルで確かめられています。ヒトの「CD300a」をもつマウスの脳梗塞では、抗体の投与によって神経の症状が軽くなり、生存期間が延びました。心臓では梗塞後の心機能が改善し、線維化が軽くなっています。腎臓では急性腎障害のあとに起きる慢性腎臓病への移行が抑えられました。

製造の提携で治験の準備へ

同社は2025年12月、Chime Biologics(中国の医薬品受託開発製造企業)と戦略的な提携を結びました。開発の方針は同社が決め、抗体の製造と品質管理はChime Biologicsが担います。この提携により、治験に使う抗体を国際的な基準で安定して製造する体制づくりが進みます。「TNAX103」はまだ臨床試験に入る前の段階で、対象は脊髄損傷、心臓手術に伴う急性腎障害、急性期脳梗塞です。

急性期医療への実装を目指す

同社が目指すのは、「急性期に起きた臓器の傷を、慢性の機能低下へ進ませないこと」です。血流を戻す治療を受けた患者について、その後の後遺症を軽くできる可能性があります。「CD300a」は炎症や自己免疫の病気にも関わるとされ、応用の広がりも期待できる領域です。同社は、死細胞の処理という共通の仕組みを軸に、急性期医療への実装を目指します。

会社概要|TNAX Biopharmaの事業内容

筑波大学の免疫研究から創業

TNAX Biopharma株式会社は、2018年3月に茨城県つくば市で設立されました。創業したのは、渋谷彰氏と向平隆博氏です。渋谷氏は筑波大学の免疫学の研究者で、免疫受容体とそのリガンド(受容体に結合する相手の分子)を複数発見してきました。向平氏が代表取締役CEOを務め、渋谷氏が最高科学責任者として研究開発を率いています。

大学の知財を独占的に導入

同社は筑波大学発ベンチャーとして大学の承認を受け、渋谷研究室で生まれた知的財産権の実施許諾を独占的に受けています。2025年8月には、急性腎障害とその後の慢性臓器不全を防ぐ新薬候補について、大学とともに発表しました。2025年12月にはChime Biologicsと提携し、抗体の製造で協力する体制を整えています。

初期開発の先を製薬企業へ渡す

同社は2018年に、ジャフコ、三菱UFJキャピタル、ニッセイ・キャピタルなど複数のベンチャーキャピタルから出資を受けました。事業の形は、自社で前臨床(人に投与する前に動物などで確かめる段階)から初期の開発までを進め、その先を製薬企業へ導出(開発や販売の権利を他社へ渡すこと)する方式です。第1号は、「CD300a」とは別の免疫受容体「DNAM-1」を標的とする抗体「TNAX101A」です。この抗体はIMIDomicsへ導出され、2025年7月にはIMIDomicsからFormation Bioへ全世界の権利が渡りました。現在はFormation Bioが、「TNAX101A」の開発を自己免疫疾患で進めています。

会社情報

会社名TNAX Biopharma株式会社(TNAX Biopharma Corporation)
所在地茨城県つくば市天王台1丁目1番地1
設立2018年3月16日
代表代表取締役CEO:向平 隆博(共同創業)
最高科学責任者:渋谷 彰(筑波大学 医学医療系 免疫学・共同創業)
調達2018年 ジャフコ、三菱UFJキャピタル、ニッセイ・キャピタルなどから出資
事業免疫受容体とそのリガンドを標的とする抗体医薬の研究開発。抗CD300a抗体「TNAX103」の開発(脊髄損傷、心臓手術に伴う急性腎障害、急性期脳梗塞)。製薬企業へのライセンス導出
技術領域免疫受容体、抗CD300a抗体、エフェロサイトーシス、虚血再灌流障害、ヒト化抗体
連携筑波大学(知的財産権の独占的実施許諾)。Chime Biologics(抗体の開発製造・2025年12月〜)。IMIDomics(TNAX101Aの導出先)
URLhttps://tnaxbio.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

急性期の医療は、詰まった血管をいかに早く開けるかという一点に多くの力が注がれてきました。TNAX Biopharmaが向き合うのは、その直後に始まる炎症という、これまで手を出しにくかった時間帯です。死んだ細胞を片づける速さという着眼点が、脳・心臓・腎臓・脊髄という異なる臓器を一本の線でつないでいます。

注目したいのは、これが免疫を抑える薬ではなく、片づけを促す薬である点です。攻撃力を残したまま炎症の火種だけを減らせるなら、感染症のリスクを抱えやすい急性期の患者にも使いやすくなります。基礎研究で見つけた受容体を、そのまま治療の標的へ持ち込んだ道筋も明快です。

大学の研究室で見つかった1つの分子が、救急の現場で使える薬になる日を期待したいと思います。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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