株式会社UJ-Crystalは溶液成長法でSiCウェハを開発する名古屋大学発スタートアップ

株式会社UJ-Crystal(ユージェイクリスタル)

UJ-Crystal|研究領域=半導体材料のSiCをシリコン融液から育成/強み=欠陥が少ないまま大口径化できる/将来性=電気自動車や送電網の電力損失を削減

企業紹介|株式会社UJ-Crystalとは?

電気自動車や鉄道の電力損失を左右する半導体材料の製法として、注目を集める「溶液成長法」。株式会社UJ-Crystalは、その「溶液成長法」の社会実装を目指す、名古屋大学発の半導体系ディープテック企業です。同社が育てたSiC単結晶「ソリューションSiC」のウェハ(半導体の土台となる円板)を、パワー半導体メーカーへ向けて開発・製造しています。

キーワード「溶液成長法」

溶液成長法」は、炭素を溶かしたシリコン融液から、SiC(炭化ケイ素)の単結晶をゆっくり析出させる手法です。特徴は、結晶の内部の温度をそろえたまま成長させられるため、原子の並びの乱れが少ない結晶を得られる点にあります。電気自動車のインバーターなど、大きな電力を扱う機器の心臓部で、損失の小さい半導体の材料になります。

市場課題|SiCの品質と大口径化

現状のSiCウェハ製造の課題|現状は温度差で育てるため欠陥が残る/電動化で電力損失の削減が急務/昇華法は大口径化で欠陥が増加

電動化で電力損失の削減が急務

電気自動車や再生可能エネルギーの普及で、電力を変換するときに熱として失われる損失の削減が急務です。パワー半導体(電力用の半導体素子)の材料には長くシリコンが使われてきました。シリコンの素子は発熱が大きく、動作温度の上限も低いため、大型の冷却機構が必要です。

昇華法は大口径化で欠陥が増加

主流の「昇華法」(原料を高温で気体に変え種結晶に積もらせる手法)でSiCを育てると、口径を大きくするほど欠陥が増えやすくなります。昇華法が温度差を駆動力とするため、口径が広がるほど内部の温度差も大きくなるからです。チップを多く取れる大口径化と、欠陥の少なさの両立は困難です。

SiCは硬く割れやすく、薄く平らに削る工程の負担も小さくありません。他にも、結晶を1本育てるのに要する長い時間、量産に必要な大きな設備投資、口径ごとの加工装置の入れ替え、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 昇華法SiCの単結晶を製造する主流の手法。原料の粉末を高温で昇華させ、気体になったケイ素と炭素を種結晶の表面で固体に戻して積み上げる。温度差を駆動力とするため、口径が大きいほど結晶内の温度差も広がる。

UJ-Crystalの強み|溶液成長法

UJ-Crystalが「溶液成長法」を開発|今後は濃度差で低欠陥の育成が可能に/炭素の濃度差で欠陥を減らす/AI予測で条件を絞り大口径化を進める

濃度差で育て欠陥を減らす

温度差を駆動力とする昇華法では、結晶の内部に温度のむらが残り、転位(原子の並びのずれ)が生じやすくなります。転位は、素子にしたときの漏れ電流の増加や、絶縁膜の信頼性の低下につながるとされています。

溶液成長法」は、シリコンの融液に炭素を溶かし込み、種結晶の近くで過飽和(溶けきれる量を超えた状態)にしてSiCを析出させる手法です。結晶が育つ駆動力は溶液中の炭素の濃度差であるため、内部を均一な温度に保ったまま結晶を成長させられます。原子が熱平衡(出入りがつり合った落ち着いた状態)に近い条件で並ぶため、基底面転位(結晶の面に沿って伸びるずれ)がほとんど無い結晶を得られるとされています。この手法で育てた結晶が、同社の「ソリューションSiC」です。

AI予測で条件を絞り大口径化

結晶を育てる炉の中は高温で見通しが利かず、温度や溶液の流れをどう設定すれば良い結晶が育つのか、条件の絞り込みに時間がかかります。

同社が用いるのは、炉の中の温度・濃度・流れを計算で再現する「デジタルツイン」(実物を仮想空間に写した模型)と、生成AIによる予測を組み合わせる方法です。従来は数日を要した計算の結果をAIが即座に予測するため、育成の条件を短期間で絞り込めます。同社はこの方法で、結晶を育てる基本の条件を確立しました。2025年9月には、共同開発の成果として6インチのp型(正孔が電気を運ぶ型)ウェハと、6インチ・8インチのn型(電子が電気を運ぶ型)ウェハの試作が、国際会議「ICSCRM2025」で公開されています。

FrontJournalの解説
  • デジタルツイン実物の装置や現象を、計算機の中に写し取って再現する模型。結晶育成では炉の内部の温度や溶液の流れを計算で再現し、実際に育てる前に条件の良し悪しを評価できる。試作の回数を減らせる点に価値がある。

SiCウェハの未来|電動化を支える

溶液成長法が変える未来|車載から送電網の脱炭素へ広がる/電気自動車の電力損失を低減/p型ウェハで超高耐圧に対応/電力機器の損失削減を目指す

電気自動車の電力損失を低減

SiCのパワー半導体は、電気自動車のインバーター(直流を交流に変換する装置)ですでに使われています。シリコンの素子に比べて変換のときの損失が小さいため、同じ電池でも走行できる距離が伸びるとされています。採用は鉄道の車両や、太陽光発電・風力発電の電気を送り出す装置にも広がりました。欠陥の少ないウェハは、こうした機器の信頼性を支える土台です。

p型ウェハで超高耐圧に対応

溶液成長法は、これまで大口径化が難しかったp型のSiCウェハを、実用的な大きさへ広げる手法として期待されています。6500Vを超える超高耐圧の領域では、現在もシリコンの素子が主流です。p型のSiCウェハが手に入れば、この領域で使われるIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)をSiCへ置き換えやすくなるとされています。同社は、この超高耐圧向けのp型ウェハの開発を進めています。

電力機器の損失削減を目指す

同社が目指すのは、「電力を扱うあらゆる機器で損失を減らすこと」です。損失を削減する効果が大きいのは、送電網や産業用のモーター、データセンターの電源など、大きな電力を扱う場面です。溶液成長法によるSiCウェハの量産は、早ければ2027年になるといわれています。高品質なウェハを安定して供給し、電力の消費とそれにともなう二酸化炭素の排出を抑えることを目指しています。

会社概要|UJ-Crystalの事業内容

名古屋大学の研究から事業化

株式会社UJ-Crystalは、2021年6月に名古屋市で設立されました。創業の中心となったのは、名古屋大学未来材料・システム研究所の宇治原徹教授です。同研究室が積み重ねてきた溶液成長法の研究成果を、産業へ応用することを目的としています。代表取締役は宇治原教授、取締役 最高技術責任者(CTO)は古庄智明氏です。

採択と共同開発の広がり

同社の技術は、公的な研究開発事業と企業との共同開発で実用化が進んでいます。名古屋大学の技術を基盤とする「次世代パワー半導体に用いるウェハ技術開発」は、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のグリーンイノベーション基金事業に採択されたテーマです。この事業では、幹事企業の株式会社オキサイドのほか、オキサイドパワークリスタル、Mipox、アイクリスタル、名古屋大学、産業技術総合研究所などと共同で開発を進めています。同社が担うのは、結晶を育てる基本となる条件の確立です。

約4.3億円の資金調達を完了

同社は2026年7月に、第三者割当増資(新しく株式を発行して特定の相手に引き受けてもらう資金調達)により、総額約4.3億円の調達を完了したと発表しました。引受先は、SBIインベストメント、京都大学イノベーションキャピタル、地域と人と未来のほか、機関投資家や個人投資家です。調達した資金は、超高耐圧のパワーデバイス向けのp型SiCウェハの開発を加速するために充てられます。この約4.3億円とは別に、年内に一定の条件を満たした場合には、追加の調達も検討するとされています。

会社情報

会社名株式会社UJ-Crystal(UJ-Crystal Inc.)
所在地愛知県名古屋市千種区不老町 名古屋大学インキュベーション施設
設立2021年6月25日
代表代表取締役:宇治原 徹(名古屋大学未来材料・システム研究所 教授)
取締役 最高技術責任者(CTO):古庄 智明
調達2026年7月 第三者割当増資により総額約4.3億円(SBIインベストメント/京都大学イノベーションキャピタル/地域と人と未来 ほか)
事業パワー半導体向けSiC(炭化ケイ素)ウェハの開発・製造・販売
技術領域SiCの溶液成長法。p型・n型SiC単結晶の育成。デジタルツインと生成AIによる結晶成長条件の最適化
連携名古屋大学未来材料・システム研究所(宇治原研究室)。株式会社オキサイド/オキサイドパワークリスタル株式会社/Mipox株式会社/アイクリスタル株式会社/産業技術総合研究所
採択NEDO グリーンイノベーション基金事業「次世代パワー半導体に用いるウェハ技術開発」(幹事企業:株式会社オキサイド)
URLhttps://ujcrystal.co.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

パワー半導体の性能は、素子の設計だけでなく、その土台となる結晶の品質に大きく左右されます。UJ-Crystalが取り組む「溶液成長法」は、結晶を育てる駆動力そのものを、温度差から炭素の濃度差へ置き換える発想です。大口径化と品質の両立という長年の課題に、材料の側から向き合っています。

単に大きなウェハを実現する技術ではなく、これまで大口径化が難しかったp型という領域を開く点に、この技術の価値があります。6500Vを超える超高耐圧の機器がSiCへ置き換わっていけば、送電網や産業設備の電力損失にも効いてくるはずです。電動化の話題は車両に集まりがちですが、効果が大きいのは電気を大量に扱う社会基盤の側です。

名古屋大学の研究室で積み重ねられた結晶成長の知見が、電力インフラの土台を静かに支える日を期待しています。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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