株式会社IDDK|半導体センサの上に試料を直接置いて観察する顕微観察装置「MID」を開発する株式会社東芝のスピンアウト企業

株式会社IDDK(アイディーディーケー)

IDDKの研究領域・強み・将来性をまとめた図解

企業紹介|株式会社IDDKとは?

半導体センサをそのまま観察装置として使う顕微観察技術MID」が注目を集めています。株式会社IDDKは、この技術の社会実装を目指す株式会社東芝からのスピンアウト企業で、半導体イメージセンサの設計で培った知見を土台としています。手がけるのは、医薬品の開発や水質研究、養殖漁業の現場で使える小型の観察装置です。2017年に東京都江東区で設立し、国の中小企業基盤整備機構の支援を受けています。

キーワード「MID」(マイクロイメージングデバイス)

「MID」は、半導体センサの上に試料(検査の対象となる少量の物質)を直接置いて観察する顕微観察装置です。特徴は半導体センサだけで像を得られる点にあり、画素(光を受け取る最小単位)がとらえた光の分布が、そのまま像になります。水質の管理や養殖の現場では、これまで試料を検査室へ送って結果を待つ必要がありましたが、総重量20〜100kgの生物顕微鏡と同等の観察を、片手に載る装置で行えます。

市場課題|顕微観察の価格と可搬性

現状の顕微観察が抱える価格と可搬性の課題を示した図解

精密レンズが顕微鏡を高額化

光学顕微鏡の価格は、対物レンズの補正性能でほぼ決まります。色収差と像面のゆがみを抑えるプラン仕様では、補正用のレンズ素子(レンズ1本を構成する個々のガラス)が6枚ほど加わり、1枚ずつ研磨して光軸を合わせる工程が必要です。倍率ごとに対物レンズをそろえる前提もあり、導入は設備投資の規模となるため、試料を検査室へ運んでから観察する運用が続いています。

大型装置は現場へ持ち出しにくい

据え置き型の生物顕微鏡は、鏡筒と架台に照明とカメラを組み合わせ、総重量は20〜100kgに達します。微細な振動が像を乱すため、設置に必要なのは振動対策を施した常設スペースと安定した電源です。打ち上げ費用が重量に比例する宇宙では、装置の重量がそのまま実験の実現性を左右します。

他にも、精密レンズの光軸調整、視野外を観察する位置決め機構、枚数増加に伴う光軸ずれ、といった課題が積み重なってきました。

FrontJournalの解説
  • 対物レンズ顕微鏡で試料に最も近い位置に置かれ、像を拡大する主要なレンズである。研磨と組み立ての精度が価格を大きく左右する。
  • 光軸レンズの中心を結び、光が通る基準となる直線を指す。レンズの枚数が増えるほど、この軸をそろえる調整が難しくなる。
  • 色収差色ごとに焦点の位置がずれる現象である。補正には性質の異なるレンズ素子を組み合わせる必要があり、価格に影響する。
  • 鏡筒対物レンズと接眼部をつなぐ筒である。距離を保って光を導くため、一定の長さと剛性が要る。
  • 位置決め機構観察する位置を機械で動かす仕組みである。視野の外を見るため、試料を載せた台を移動させる。

IDDKの強み|半導体センサで観察する

IDDKの顕微観察装置「MID」の仕組みと強みを示した図解

対物レンズ不要で価格を抑える

「MID」は、対物レンズが不要半導体センサ方式の顕微観察装置です。従来の顕微鏡では、レンズを研磨して組み上げる光学系(レンズを組み合わせた光の経路)が費用の多くを占めます。「MID」では試料をセンサ表面に直接配置するため、光軸の調整やレンズ保持機構(レンズを固定する部品)を必要としません。部品点数(製品を構成する部品の数)が減り、価格を押し上げてきた光学系が構成から外れます。視野4.7×3.2mm、分解能1.2μmで、細胞の形や動きを捉えられます。

USBスティック型で持ち運べる

「MID」の装置はUSBスティック型にまとまり、観察したい場所へ持ち運べます。据え置き型では、試料を検査室まで運んで観察する手順が前提でした。IDDKはこの装置を中核に、人工衛星へ搭載する「MBS-LAB」を開発しています。「MBS-LAB」は無人で培養(細胞や微生物を育てること)と観察を続け、データを地上へ送る仕組みです。観察を現場で完結でき、試料を運ぶ手間と待ち時間を減らせます。

FrontJournalの解説
  • MID(マイクロイメージングデバイス)半導体センサの画素で試料を直接観察する装置である。対物レンズが不要なため、小型化と低価格化を両立しやすい。
  • 分解能どれだけ近い2点を別々のものとして見分けられるかを表す値である。値が小さいほど細かい構造まで観察できる。
  • MBS-LAB人工衛星に載せる自動のバイオ実験ユニットである。培養と顕微観察を無人で続け、取得したデータを地上へ送る。

未来|宇宙を実験室として使う

IDDKの顕微観察技術が広がる応用先を示した図解

地球低軌道の実証機へ搭載

「MID」は、微小重力環境での顕微観察を目的とした実証機(性能を実際の環境で確かめる機体)に搭載されました。実証機「MBSLAB-ZERO」の打ち上げは、2025年4月22日のロケット「ファルコン9」(スペースXの主力ロケット)です。搭載先は、ドイツのATMOS Space Cargoが開発した帰還カプセル(軌道から地上へ戻る容器)「PHOENIX」です。地球低軌道(高度2000km以下)の人工衛星による宇宙バイオ実験ユニット(衛星の中で生物実験を行う装置)の実証は、国内初とされています。

醸造や細胞農業へ用途が拡大

対象は、創薬や再生医療から食品の分野へ広がっています。2026年4月には、湯浅醤油有限会社と「宇宙醤油」の実証を始めました。同年5月には、インテグリカルチャー株式会社と細胞農業のインフラ構築で基本合意書を結びました。微小重力での培養は、地上と異なる条件で麹菌(発酵に使うカビ)や細胞を確かめる機会です。

宇宙実験の基盤づくりを目指す

IDDKが描くのは、研究者が宇宙を実験室として使える姿です。2026年6月には、大規模言語モデル(文章を扱う生成AI)で実験手順を組み立てる技術で特許2件を共同出願しました。同年4月には、フランスのATMOS Space France SASと商業ミッションの覚書を締結しました。各社による小型ロケットの開発など宇宙インフラの拡充が進むなか、観察から回収までを一続きで扱える体制の確立を目指します。

FrontJournalの解説
  • 微小重力地球低軌道の衛星内部のように、重力の影響がごく小さく見える状態である。細胞の沈降や対流が起きにくくなる。
  • 細胞農業動物や植物の細胞を培養し、食料や素材を生産する技術である。家畜や農地に依存しない生産手段として研究が進む。

会社概要|IDDKの事業内容・設立背景

東芝の半導体開発から創業

IDDKは、2017年6月に東京都江東区で設立されました。創業したのは、東芝半導体イメージセンサの開発に携わっていた上野宗一郎氏です。東芝からのスピンアウト(社員が技術を引き継いで会社を立ち上げること)にあたります。上野氏は現在も代表取締役を務め、装置開発と宇宙事業の両輪を率いています。

事業会社や研究機関と連携

実証は、事業会社や研究機関との連携を軸に進んできました。KDDI株式会社の宇宙共創プログラム「MUGENLABO UNIVERSE」には、実証パートナーとして参画しています。ElevationSpace(東北大学発の宇宙開発企業)とは「Micro Bio Space LAB」で連携しています。Space Forge社(イギリスの宇宙製造スタートアップ)とも、事業面で協力関係を結びました。拠点は、中小企業基盤整備機構のインキュベーション施設(起業を支援する共同オフィス)です。

プレシリーズAで約3.2億円

プレシリーズAは、試作した製品を実証しながら量産へ進める初期の調達段階です。2024年3月のセカンドクローズ(同じ調達段階の2回目の締め切り)を経て、累計約3.2億円に達しました。この累計額には、同セカンドクローズで調達した約8,000万円が含まれます。引受先(新株予約権を引き受ける投資家)は、株式会社リバネスキャピタルと株式会社パソナグループです。調達した資金は、次世代「MID」の開発と体制の強化に充てられます。

会社情報

会社名株式会社IDDK(IDDK Co., Ltd.)
所在地東京都江東区富岡1-12-8 アサヒビル309
設立2017年6月1日
代表代表取締役:上野 宗一郎(東芝で半導体イメージセンサの開発に従事)
調達プレシリーズA 累計約3.2億円(2024年3月時点・J-KISS型新株予約権〈スタートアップ向けの簡易な投資契約〉を含む)。
セカンドクローズの調達額は約8,000万円。リバネスキャピタル/パソナグループ ほか
技術領域半導体センサによる顕微観察装置「MID」/宇宙バイオ実験ユニット「MBS-LAB」
連携KDDI(MUGENLABO UNIVERSE)/ATMOS Space Cargo/ATMOS Space France SAS/ElevationSpace/Space Forge/湯浅醤油/インテグリカルチャー
採択KDDI MUGENLABO UNIVERSE 実証パートナー/中小企業基盤整備機構 インキュベーション施設 入居
URLhttps://iddk.co.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

光学顕微鏡は、およそ400年にわたってレンズで光を拡大する仕組みを保ってきました。IDDKはその前提を離れ、半導体センサの画素そのものを観察の手段に変えています。装置が小さくなれば、観察できる場所は検査室の外です。培養と観察を自動で続けられれば、人手をかけずに記録を積み上げられる仕組みになります。

注目したいのは、小型化宇宙という新しい実験場を開いた点です。打ち上げ費用が重量で決まる環境では、装置の小ささがそのまま実験の実現性に直結します。醤油の醸造から細胞農業まで、宇宙で試したい対象が具体的に並び始めました。

誰もが顕微観察を手元で行える環境が整えば、研究の裾野はさらに広がっていくはずです。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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