株式会社LIFESCAPESは脳卒中リハビリの医療用BMIを開発する慶應義塾大学発スタートアップ

株式会社LIFESCAPES(ライフスケープス)

LIFESCAPES「医療用BMI」を研究|研究領域=脳波で手指の装具を動かす機器/強み=動かせない手指でも訓練を反復できる/将来性=脳卒中リハビリの選択肢を広げる

企業紹介|株式会社LIFESCAPESとは?

脳卒中で麻痺した手指の動きを取り戻す訓練として、注目を集める「医療用BMI」。株式会社LIFESCAPESは、その社会実装を目指す、慶應義塾大学発のディープテックスタートアップです。「LIFESCAPES 医療用BMI(手指タイプ)」を、リハビリテーションに取り組む医療機関へ提供しています。

キーワード「BMI」(ブレイン・マシン・インターフェース)

BMI」は、頭に着けたセンサ脳の活動を読み取り、その信号で機器を動かす技術です。特徴は、手を動かそうと考えた瞬間を捉えて、麻痺した手指の装具を動かせる点にあります。リハビリテーションの現場では、思いどおりに動かない手指の訓練に使えます。

市場課題|脳卒中後に残る手指の麻痺

現状の脳卒中リハビリの課題|現状は、動かない手指ほど訓練が進みにくい/脳卒中の発症後に片麻痺が残る/重度の麻痺ほど回復が長期化

片麻痺が残り日常動作が困難に

脳卒中は国内で患者数の多い病気で、発症後には体の片側が動かしにくくなる片麻痺(体の片側に生じる運動の麻痺)が残ることがあります。厚生労働省の令和5年患者調査によると、脳卒中を含む脳血管疾患の総患者数は188万4,000人です。このうち手指に麻痺が残った場合、食事や着替えといった日常の動作が難しくなります。

重度の麻痺は回復が長期化

発症から時間が経った重度の麻痺では、訓練を重ねても回復が長期化します。従来の運動療法は、患者が自分で手指をわずかでも動かせることを前提としており、動きの出ない段階では反復の回数が限られるためです。手を使う機会が減るほど、意思と実際の動きを結ぶ神経のつながりは弱まります。

他にも、退院後も訓練を続ける通院や送迎の負担、手指の回復の度合いを数値で確かめにくい評価の難しさ、訓練の時間を左右する療法士の人数、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 片麻痺脳卒中などで脳の片側が損傷したとき、その反対側の手足に運動の麻痺が生じる状態を指す。損傷を受けた脳の領域と、麻痺が現れる体の部位が左右で入れ替わる点に特徴がある。

LIFESCAPESの強み|脳波で装具を動かす

LIFESCAPESが「医療用BMI」を開発|今後は、脳波を合図に手指の訓練が可能に/動かす意思を脳波から検出する/意思を捉えるたび装具が指を開く

動かせない手指でも訓練可能

動かそうとする意思そのものは、外から見て取れません。従来の訓練では、手指が動かない段階でその意思を捉える手立てが限られます。

LIFESCAPES 医療用BMI(手指タイプ)」が読み取るのは、手を動かそうとしたときに頭皮上へ現れる脳波の変化です。これは、運動をつかさどる大脳皮質で特定のリズムが弱まる事象関連脱同期(意思のしるしとして使える変化)です。ヘッドセットがこの変化を捉えた瞬間に、麻痺した手指の電動装具と神経筋電気刺激が働き、指が開きます。手を動かそうとした意思と、指が動いた感覚が同じタイミングでそろうため、脳と手指をつなぐ代償回路(傷ついた部位を迂回して働く神経の経路)が働きやすくなるとされています。

脳波を合図に反復を積む

動きの出ない手指では、訓練が正しく行えているかを患者自身が確かめにくく、集中を保つことが困難です。

同社の機器では、制御用コンピュータが脳波を解析し、意思ありと判定するしきい値を患者ごとに自動で設定します。脳波の変化がしきい値を超えるたびに装具が動き、動かせた手応えが1回ごとに返る仕組みです。これを重ねると、装具を外しても自分の意思で手を開く動作ができるようになると期待されています。慶應義塾大学の研究グループは、慢性期の重度片麻痺を対象とする無作為化比較試験の計画を『JMIR Research Protocols』で報告しています。BMIによる訓練40分と作業療法40分を1日に行う設計です。

FrontJournalの解説
  • 事象関連脱同期手を動かそうとしたときに、運動をつかさどる大脳皮質で特定の周波数帯の脳波が弱まる現象を指す。頭皮上の電極で捉えられるため、運動しようとする意思を機器の操作信号として使える。

医療用BMIの未来|リハビリの広がり

医療用BMIが変える未来|脳波の訓練が、リハビリの選択肢を広げる/保険診療のなかですでに実用化/治療用BMIの治験が始動へ/国内から海外へ普及を目指す

保険診療での訓練が実現

LIFESCAPES 医療用BMI(手指タイプ)」は、保険診療のなかで使える医療機器として、すでに医療機関で使われています。2024年3月26日に管理医療機器としての認証を取得し、同年6月1日から公的医療保険の適用対象になりました。診療報酬上の区分は運動量増加機器で、脳血管疾患のリハビリテーションが対象です。発売から約2か月後の2024年7月31日時点で累計の受注は20台となり、北海道から鹿児島まで導入されました。

治療用BMIの治験を準備

同社が次に実用化を目指すのは、手指タイプとは別の製品にあたる「LIFESCAPES 治療用BMI」です。2025年12月12日には、厚生労働大臣から先駆的医療機器に指定されました。先駆的医療機器の指定は、治療の方法が乏しい疾患を対象に、世界に先駆けて日本で承認申請される機器を支援する制度です。2026年6月には日本医療研究開発機構(AMED)の橋渡し研究プログラムへの採択を発表し、北海道大学を支援機関として医師主導治験の準備が進んでいます。

国内外への普及を目指す

次の目標は、脳卒中後のリハビリテーションで医療用BMIを標準的な選択肢に広げることです。国内での後押しとなるのが、脳卒中治療ガイドラインへのBMIを用いた上肢訓練の収載です。海外に向けては、経済産業省のヘルスケア産業国際展開推進事業に採択され、販売の体制づくりを進めています。発症から時間が経った患者にも、手指を動かす機会を届けることを目指します。

会社概要|LIFESCAPESの事業内容

慶應義塾大学の研究から創業

株式会社LIFESCAPESは、2018年5月30日Connect株式会社として設立され、2022年6月に現在の社名へ変更しました。創業したのは、慶應義塾大学理工学部生命情報学科の牛場潤一氏(現・同学部教授)です。牛場氏は、脳と機械をつなぐBMIによる神経リハビリテーションを研究し、基礎研究から医療機器の開発までを一貫して手がけてきました。2026年6月26日付で代表取締役社長は林正彬氏に交代し、牛場氏は取締役会長として経営と技術開発を担っています。

採択と認証の実績

同社は、国の研究開発事業に繰り返し採択されています。2020年には、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の研究開発型ベンチャー支援事業に採択されました。2024年5月28日には、医療機器の品質管理の規格であるISO 13485の認証を取得しています。2024年12月17日には、ウェルエイジング経済フォーラムで経済産業大臣賞を受けました。2026年7月には、NEDOのフロンティア育成事業への採択も発表しました。

複数回の資金調達を実施

設立以降、複数回の資金調達を重ねてきました。2022年6月には、慶應イノベーション・イニシアティブをはじめとする複数の投資家から7億2,000万円を調達しています。2026年6月には、三井住友海上キャピタルなどを引受先とする第三者割当増資で6億円の調達を発表しました。

会社情報

会社名株式会社LIFESCAPES(ライフスケープス/LIFESCAPES Inc.)。旧社名:Connect株式会社
所在地東京都港区南麻布5-2-37
設立2018年5月30日
代表代表取締役社長:林 正彬
取締役会長(創業者):牛場 潤一
COO/CMO:鈴木 良
CTO:森川 幸治
資本金1億円
調達2020年11月 2.1億円(Beyond Next Ventures、慶應イノベーション・イニシアティブほか)。2022年6月 7.2億円。2022年11月 2億円(塩野義製薬、三井住友海上キャピタル)。2026年6月 6億円(第三者割当増資)
事業BMI技術を応用したリハビリテーション機器の開発・製造・販売。「LIFESCAPES 医療用BMI(手指タイプ)」(認証番号306AABZX00021000/管理医療機器)。「LIFESCAPES 機能訓練用BMI(手指タイプ)」。「LIFESCAPES 治療用BMI」(開発中)
技術領域医療用BMI、事象関連脱同期の検出、電動装具と神経筋電気刺激の複合フィードバック
連携慶應義塾大学(理工学部 生命情報学科 牛場研究室)。北海道大学(AMED橋渡し研究プログラム)
採択NEDO 研究開発型ベンチャー支援事業(2020年)。先駆的医療機器 指定(2025年12月)。AMED 橋渡し研究プログラム(2026年)。NEDO フロンティア育成事業(2026年)。経済産業省 ヘルスケア産業国際展開推進事業(2025年)。ウェルエイジング経済フォーラム 経済産業大臣賞(2024年12月)
URLhttps://lifescapes.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

脳卒中のリハビリテーションは長いあいだ、動かせる部分をどう鍛えるかを軸に組み立てられてきました。LIFESCAPESが取り組む医療用BMIは、その軸に「動かそうとする意思」という手がかりを加える試みです。大学の研究室で積み上げられた脳波の解析が、病室に置かれる機器として形になりました。

注目したいのは、単なる動作の補助ではなく、意思と感覚を結び直す訓練そのものを設計している点です。保険診療のなかで使える状態まで到達したことは、研究の成果が現場の手順に組み込まれたことを意味します。治療用BMIの医師主導治験が控えるいま、機器の役割は訓練の支援から治療そのものへと広がろうとしています。

慶應義塾大学で生まれた技術が、回復が難しいとされてきた手指にどこまで選択肢を広げるのか。今後の展開を注視したいところです。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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