原子で計算する中性原子量子コンピュータを研究するInfleqtion(米国発)

新素材探索への応用を目指す「中性原子量子コンピュータ」を研究【Infleqtion|米国発】

新素材や新薬の探索への応用が期待される量子コンピュータでは、計算の誤りが実用化の壁になっています。この課題に挑むのが、米国のインフレクション(Infleqtion)です。レーザーで保持した原子を計算に使う「中性原子量子コンピュータ」を開発しています。同社は2026年2月に特別買収目的会社との合併を完了してニューヨーク証券取引所に上場し、同年3月には英国の国立量子計算センターへ100量子ビットの装置を納入したと発表しました。

量子コンピュータの課題

Infleqtionの紹介と、量子ビットが乱れに弱く計算に誤りが出やすいこと、誤り訂正に多くの量子ビットが必要なことを示す図

量子ビットの誤りが多い

量子ビットは、熱や電磁波、装置の振動といったわずかな乱れで情報が崩れ、計算に誤りが出やすい部品です。高精度の装置でも、2つの量子ビットを組み合わせる操作では、1,000回に約3回の誤りが出ます。計算は数多くの操作を積み重ねて進むため、途中で誤りが重なると正しい答えが得られず、分子や材料の性質を調べるような長い計算ほど実行しにくくなります。

量子ビットが大量に必要

誤りを補うには、複数の量子ビットに情報を分けて持たせ、誤りを見つけて直す「誤り訂正」が必要です。こうして束ねた1組を論理量子ビット、組を構成する1つ1つを物理量子ビットと呼びます。実用的な計算には論理量子ビットが多数必要になるため、物理量子ビットはその何倍も用意しなければならず、装置の大型化が課題になります。

FrontJournalの解説
  • 量子ビット量子コンピュータが情報を扱う単位。従来のコンピュータのビットが0か1のどちらかを表すのに対し、0と1の状態を一定の割合で重ね合わせた状態を持てる。
  • 論理量子ビット誤りの起きやすい物理量子ビットを複数まとめ、誤りを検出・訂正しながら1つの量子ビットとして扱うもの。実用的な計算の土台になる。

Infleqtionが中性原子量子コンピュータを研究

中性原子量子コンピュータの研究を示す図。レーザーで保持した原子を量子ビットに使い、高い精度の操作とクラウドでの実験利用を進める

課題解決に挑むInfleqtion

Infleqtionは、レーザーで保持した原子を量子ビットに使う「中性原子量子コンピュータ」を研究しています。2007年にColdQuantaの社名で創業し、米国コロラド州に本社を置いています。コロラド大学ボルダー校から生まれた企業で、同大学と米国立標準技術研究所(NIST)の共同研究機関「JILA」に所属するダナ・アンダーソン氏が共同創業しました。

高精度の操作で誤りを削減

同社は、ゲート忠実度(2つの量子ビットを組み合わせる操作の正確さ)が99.73%に達したと発表しています。「中性原子量子コンピュータ」は、真空中の原子を1個ずつレーザーで決まった位置に保持し、光を当てて状態を変えながら計算します。操作の誤りが少ないほど、1つの論理量子ビットに必要な物理量子ビットの数を減らせると同社は説明しています。量子ビットの数に限りがある装置でも、必要数が減ればより多くの論理量子ビットを扱えます。

クラウドで実験を遠隔利用

同社は、極低温の原子を使う実験装置をオンラインで操作できるクラウドサービス「Oqtant(オクタント)」も提供しています。装置を持たない研究者でも、原子を冷やして生成するボース・アインシュタイン凝縮体(BEC)の実験を行えます。近畿大学と中央大学の研究グループはOqtantを使い、約20年前から理論で予測されていたBECの異常トンネル効果の影響を実験で観測しました。これは量子計算ではなく原子の物理現象を調べた研究で、成果は2026年7月に学術誌「Communications Physics」に掲載されています。

FrontJournalの解説
  • 中性原子電子を失っていない、電気的に中性の原子。イオン(電気を帯びた原子)を使う方式と区別するための呼び方である。
  • ゲート忠実度量子ビットへの操作が、狙いどおりに行われた割合。100%に近いほど誤りが少ない。
  • ボース・アインシュタイン凝縮体(BEC)原子を絶対零度近くまで冷やしたとき、多数の原子が1つの波のようにそろって振る舞う状態。

中性原子量子コンピュータの未来

中性原子量子コンピュータの未来を示す図。英国の研究拠点で100量子ビット機が使われ、誤りに強い量子計算を目指し、上場で資金を確保した

先端材料研究で試用が可能に

英国の研究者や企業は、100量子ビットの「中性原子量子コンピュータ」で応用研究に使えるようになりました。同社は2026年3月、英国の国立量子計算センター(NQCC)へこの装置を納入したと発表し、稼働は2025年12月に達成したとしています。同社によると、先端材料やエネルギーシステム、複雑な最適化の分野で使い道を探り始められます。日本でも、東陽テクニカが産業技術総合研究所の拠点に他社製の20量子ビット機を設置する計画を発表しています。

誤りに強い計算を目指す

同社は、誤り耐性(誤りを訂正しながら計算を続けられる性質)を持つ量子コンピュータを目指しています。具体的には、2026年に30個超、2028年に100個超の論理量子ビットを掲げています。実現すれば、材料の性質や化学反応を原子の振る舞いから計算で調べる研究の幅が広がります。日本では、日立製作所がシリコン量子ビットを使う量子コンピュータの研究開発を進めるなど、別の方式の取り組みも続いています。

SPAC合併で825億円超を調達

Infleqtionは2026年2月、特別買収目的会社(SPAC)のChurchill Capital Corp Xとの合併を完了し、2月17日にニューヨーク証券取引所で株式の売買が始まりました。合併に伴う調達総額(費用を差し引く前)は5.5億ドル超(1ドル=150円換算で825億円超)と発表されています。同社は2026年4月時点で、同年の売上高見通しを4,000万ドル(約60億円)としています。この資金をもとに、2028年に向けて論理量子ビットをどこまで増やせるかが今後の焦点になります。

FrontJournalの解説
  • 最適化膨大な組み合わせの中から、最も条件のよい答えを探す計算。配送ルートの決定や材料の配合設計などが例である。
  • 特別買収目的会社(SPAC)企業と合併することを目的に、先に上場して資金を集めておく会社。合併により、相手の企業は通常の新規上場より短い期間で上場できる。

まとめ

Infleqtionは、レーザーで保持した原子を使う「中性原子量子コンピュータ」で、量子ビットの誤りという課題に取り組んでいます。英国の国立量子計算センターへの100量子ビット機の納入と、ニューヨーク証券取引所への上場で、技術開発と事業の両方を進めています。クラウドの実験サービスは、日本の研究グループが理論の予測を実験で確かめる場にもなりました。日本でも2026年11月に、量子技術の専門展「量子コンピューティングEXPO」が開かれます。FrontJournal編集部は、誤りに強い量子計算が新素材の探索を支える道具になることに期待しています。

※ 本記事は各社の公式発表・主要報道をもとに、FrontJournal編集部が再構成したものです。数値は各社・各媒体の公表値です。ドルの円換算は1ドル=約150円で概算しています。
主な出典:Infleqtion 公式ニュースリリース(2026年3月16日・2026年4月8日)、Business Wire(2026年2月13日)、コロラド大学ボルダー校 Venture Partners、科学技術振興機構(JST)2026年8月4日プレスリリース。

この記事の作者

FrontJournal編集部

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本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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