エディットフォース株式会社(EditForce)|「RNA編集」を研究

エディットフォース株式会社(EditForce)

エディットフォース「RNA編集」を研究|研究領域=RNAの狙った/一か所を書き換え/強み=タンパク質だけで/配列を見分ける/将来性=遺伝性の難病へ/治療薬を目指す

企業紹介|エディットフォース株式会社とは?

遺伝情報のコピーを一時的に書き換えて病気を抑える技術として、注目を集める「RNA編集」。エディットフォース株式会社は、その「RNA編集」の社会実装を目指す、九州大学発のバイオ系ディープテック企業です。遺伝子治療薬「EF-210」を開発し、「PPRプラットフォーム」を製薬企業や研究機関へ提供しています。

キーワード「RNA編集」

RNA編集」は、DNA(生命の設計図)ではなく、そこから写し取られたRNA(その写し)の塩基を書き換える技術です。特徴は、書き換えが一過性で、必要に応じて元の状態へ戻る点にあります。原因となる遺伝子が分かっていても薬のない遺伝性疾患の治療で、設計図そのものを変えずに症状を抑える方法として研究が進んでいます。

市場課題|遺伝性疾患の治療が届きにくい理由

現状の遺伝性疾患の課題|現状は、薬が乏しくゲノム編集は戻しにくい/原因がわかっても/使える薬が少ない/DNAを変えると/後から戻しにくい

遺伝性疾患は治療薬が限られる

遺伝性疾患には、原因の遺伝子が分かっていても治療薬の乏しい病気が残されています。体の中で働くタンパク質そのものに異常があり、その異常を正す手段が乏しいため、症状をやわらげる対症療法(原因ではなく症状を抑える治療)にとどまります。患者数の限られる希少疾患では開発の優先順位が下がりやすく、選択肢が増えにくい状況です。

ゲノム編集は元に戻しにくい

DNAを書き換えるゲノム編集は、狙った場所以外に変異が生じると、その影響を取り消しにくい性質があります。設計図を恒久的に変えるため、投与後に調整する余地が限られるからです。そのぶん安全性の評価に時間を要し、実用化までの道のりが長くなりやすいとされます。

他にも、標的以外に結合するオフターゲット、体内で異物と見なされる免疫反応、投与を繰り返す核酸医薬(RNAやDNAの断片を薬として用いる)の負担、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • ゲノム編集細胞のDNAの狙った位置を切断・修復して配列を書き換える技術。効果は恒久的に残る一方、意図しない変異が生じた場合は取り消しにくい。
  • 希少疾患患者数が著しく少ない病気の総称。市場が小さく開発費を回収しにくいため、治療薬の開発が進みにくい領域とされる。

エディットフォースの強み|PPRタンパク質

エディットフォースが「RNA編集」を開発|今後は、狙った一か所の書き換えが可能に/1つのタンパク質で/認識から編集まで/効果は一過性で/元の状態へ戻る

タンパク質単独でRNAを狙う

RNAを標的とする従来の手法は、標的の場所を教えるガイドRNAや化学合成した核酸など複数の分子を組み合わせる必要があり、細胞へ届ける設計が複雑になりやすい課題がありました。

植物がもつPPRタンパク質は、35個のアミノ酸(タンパク質の材料)からなるモチーフが連なる構造で、モチーフ1つがRNAの1塩基(遺伝情報を構成する単位)を認識します。結合先はモチーフ内の3つのアミノ酸で決まるため、狙った配列に合わせて設計が可能です。同社の「PPR Editor」は、認識と編集を1つにまとめたタンパク質で、認識した配列の4塩基下流(4つ先)にあるC(シトシン)をU(ウラシル)へ書き換えます。設計図となる遺伝子は4kb(塩基4,000個ぶん)未満で、AAVベクターへ搭載できます。

書き換えが一過性で元に戻る

ゲノムを書き換える方法は、効果が恒久的に残るぶん、投与したあとに加減する余地がありません。

RNA編集」は、設計図であるDNAを変えずに、そこから写し取られたRNAだけを書き換えます。RNAは細胞内で分解されるため、編集の効果は一過性です。同社は2025年に、ガイドRNA不要でタンパク質だけがCからUへの一か所の編集を行う「RECODE」を確立し、『Nucleic Acids Research』で報告しました。2026年には、PPR-DYWタンパク質がRNAを編集する仕組みを立体構造として九州大学との研究で明らかにし、『Nature Communications』に発表しました。

FrontJournalの解説
  • PPRタンパク質植物などが持つRNA結合タンパク質。35アミノ酸のモチーフが連なり、1モチーフがRNAの1塩基を認識するため、狙った配列に合わせて設計できる。
  • モチーフタンパク質の中で繰り返し現れる、決まった形をとる構造単位。同じ単位を並べ替えることで、認識する配列を変えられる。
  • AAVベクターアデノ随伴ウイルスを改変し、治療用の遺伝子を細胞へ運ぶ入れ物として使うもの。搭載できる遺伝子の大きさに制約がある。

RNA編集の未来|筋・神経の難病への応用

RNA編集が変える難病の未来|動物実験から治験へ、応用も広がる/筋の難病で/改善を確認/2027年初頭に/治験の開始を予定/中枢神経の病へ/応用を広げる

動物実験で症状の改善を確認

同社は、開発中の遺伝子治療薬「EF-210」の動物実験で改善を確認しています。対象は筋強直性ジストロフィー1型で、異常に伸びたCUG配列(CUGの繰り返し)のRNAがスプライシングを担うタンパク質を捕らえる疾患です。治療分子「CUG-PPR1」が病的なRNAに先に結合することで、捕らわれていたタンパク質が解放され、スプライシングが本来の形へ戻ります。2025年には、マウスへの1回の投与で筋の症状が長期に改善したと『Science Translational Medicine』で報告しました。

2027年初頭の治験入りを準備

次の段階は、人への投与で安全性と効果を確かめる臨床試験です。マウスと霊長類の非GLP試験は完了し、現在は申請用のGLP(医薬品の安全性試験の国の基準)に沿った試験が進行中です。同社は、IND(治験開始の申請)と初回投与を2027年初頭に予定しています。この開発計画は、AMED(日本医療研究開発機構)の「創薬ベンチャーエコシステム強化事業」に採択されています。

中枢神経疾患への応用を目指す

同社が目指すのは、中枢神経疾患(脳や脊髄の病気)や筋疾患、希少疾患への応用です。PPRタンパク質は、結合させる機能部位を替えることで、RNAの切断や産生量の調節など、多様な制御を行えます。2022年には田辺三菱製薬と特定の中枢神経疾患のライセンス契約を結びました。製薬企業との共同研究や、標的配列に合わせた設計・製造の受託で、適用範囲を広げることを目指しています。

FrontJournalの解説
  • 筋強直性ジストロフィー1型筋力の低下や、力を抜きにくくなる筋強直が全身に生じる遺伝性の疾患。異常に伸びたCUG配列のRNAが原因とされる。
  • スプライシングRNAから不要な部分を取り除き、タンパク質の設計情報をつなぎ合わせる過程。乱れると本来と異なるタンパク質ができる。

会社概要|エディットフォースの事業内容・設立背景

九州大学の研究から事業化

エディットフォース株式会社は、2015年5月に福岡市で設立されました。設立したのは、化学品商社のKISCO株式会社九州大学中村崇裕教授です。基盤にあるのは、中村教授が見いだしたPPRモチーフとRNA塩基の対応関係です。代表取締役社長CEOには小野高が就任し、中村教授は科学諮問委員会の委員長を務めています。

NEDOやAMEDの事業に採択

公的な研究開発事業への採択も重ねています。2016年にNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のゲノム編集基盤の事業を受託しました。2019年には「大学発ベンチャー表彰2019」で科学技術振興機構理事長賞を受けています。2021年にAMEDのRNA標的創薬事業に採択され、2024年には「J-Startup KYUSHU」に選ばれました。

2023年に21億円を調達

同社は2023年の2回の第三者割当増資(特定の相手に新株を割り当てる資金調達)で、あわせて21億円を調達しました。3月の18億円はUTECやNewton Biocapitalなどが、5月の3億円はFFGベンチャーやSMBCベンチャーキャピタル、福岡地所が引き受けています。設立以来、2017年と2021年にも第三者割当増資を実施してきました。

会社情報

会社名エディットフォース株式会社(EditForce, Inc.)
所在地福岡県福岡市早良区百道浜3-8-33
設立2015年5月15日
代表代表取締役社長 CEO 小野 高
資本金90,000,000円
調達2023年3月に18億円、5月に3億円を調達(2回で21億円)。2017年・2021年にも増資
投資家KISCO、UTEC3号、Newton Biocapital I、テクノロジーベンチャーズ4号(伊藤忠テクノロジーベンチャーズ)、MP Healthcare Venture Management、九州広域復興支援組合
連携九州大学とPPR技術の共同研究契約(2015年12月)とRNA関連特許の独占的実施許諾(2016年1月)。広島大学とDNA関連特許の実施許諾(2016年7月)。田辺三菱製薬とライセンス契約(2022年6月)
技術領域PPRによるRNA編集・DNA編集。1モチーフがRNAの1塩基を認識し、3アミノ酸で結合塩基が決まる。「PPR Editor」は認識配列の4塩基下流のCをUへ編集する
採択NEDO「ゲノム編集の国産技術基盤プラットフォーム確立」受託(2016年8月)。AMED「RNA標的創薬技術開発」(2021年6月)と「創薬ベンチャーエコシステム強化事業」(2023年3月)に採択
URLhttps://www.editforce.co.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

遺伝子治療は、長く設計図の書き換えとして語られてきました。同社が選んだのは、コピーであるRNAに手を入れる道です。効果が永続しない性質は、弱点ではなく、後から引き返せる余地です。

面白いのは、その道具が植物由来である点です。アミノ酸と塩基の対応関係が、設計できる仕組みを生みました。編集の道具である以上に、設計できる点に価値があります。

九州大学の基礎研究が、筋や神経の難病に届こうとしています。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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