株式会社KOALA Tech(コアラテック)|「有機半導体レーザー」を研究

株式会社KOALA Tech(コアラテック)

KOALA Tech「有機半導体レーザー」を研究|研究領域=有機材料でレーザーを発振/強み=分子設計で波長を選べる/将来性=スマートグラスの光源を担う

企業紹介|株式会社KOALA Techとは?

スマートグラスの表示を明るく保つ技術として、注目を集める「有機半導体レーザー」。株式会社KOALA Techは、その「有機半導体レーザー」の社会実装を目指す、九州大学発のディープテックスタートアップです。有機材料によるレーザー光源の開発を、ディスプレイや素材の企業と共同で進めています。

キーワード「OSLD」(有機半導体レーザー)

「OSLD」は、有機ELと同じ工程の素子に光を増幅する構造を持ち、電流でレーザー光を発振(色と方向のそろった光になること)させる光源です。特徴は、可視光から近赤外(赤より長い見えない波長)までを分子設計(分子構造を決めること)で選べる点です。スマートグラスやセンサーの現場で、小さな素子から色純度の高い光を取り出せます。

市場課題|色と発振に残る技術の壁

現状のレーザー光源の課題|現状は、材料の制約で色を選びにくい/結晶の組成で波長が決まる(無機半導体の結晶・発振波長)/有機材料は熱で発振しにくい(自然放出・発熱)

結晶の組成で波長が決まる

レーザー光源の色を決めているのは、無機半導体の結晶がもつ性質です。半導体レーザーは結晶の組成で発振波長(レーザーが出す光の波長)が決まり、狙った色には別の材料が必要です。実用になる結晶材料は限られるため、可視光には効率のよい光源が得にくい波長域が残ります。

有機材料は熱で発振しにくい

有機材料でレーザーを発振させる構想は、1989年の提案から長く実証に届きませんでした。電流を強く流すほど素子の内部に光を吸収する分子の状態が増え、発熱も重なって損失が増幅を上回るからです。その結果、有機材料の発光は、自然放出を利用する有機ELの用途が中心でした。

素子の寿命や量産の再現性にも課題があります。他にも、電流を流し続けたときに生じる発熱の処理、光を往復させる共振器の微細加工、求められる出力と安定性の両立、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 半導体レーザー半導体に電流を流し、増幅した光を一定の方向へ取り出す光源。光通信や光ディスク、計測機器などで広く使われている。
  • 自然放出励起された分子や原子が、ばらばらの方向と位相で光を放つ現象。有機ELの発光がこれにあたり、向きのそろったレーザー光とは異なる。

KOALA Techの強み|有機材料で発振

KOALA Techが「有機半導体レーザー」を開発|今後は、材料と共振器で色の選択が可能に/有機材料で発振波長を選べる(有機材料の分子・回折格子(共振器))/熱と損失を抑える素子設計(パルス駆動・発光領域)

有機材料で発振波長を選べる

無機半導体レーザーでは、狙った波長ごとに結晶の格子が合う材料系を選ぶ必要があり、選べる色は既存の化合物半導体(2種類以上の元素からなる半導体)の範囲に限られていました。

「OSLD」は、有機ELと同じ工程で成膜(薄い膜にして重ねること)した素子に、光を往復させる回折格子(DFB共振器=分布帰還型)を組み込んだ光源です。発振する色は共振器の周期と有機材料の組み合わせで決まり、分子設計で波長を選べます。九州大学の安達千波矢教授らは、2019年に波長480.3ナノメートル(100万分の1ミリ)の青色発振を報告し、その成果は「Applied Physics Express」に掲載されました。同社はこの成果を基盤に、有機材料と共振器の設計に取り組んでいます。

熱と損失を抑える素子設計

有機材料の素子では、駆動に必要な電流が大きくなるほど熱がたまり、連続した動作が難しくなります。

同社が取り組むのは、損失を抑えたまま電流を注入する素子構造の設計です。電流を流す領域を小さく絞り、時間を短く区切って熱の蓄積を抑えます。2019年に報告された青色発振では、発光領域を30マイクロメートル(1000分の1ミリ)×90マイクロメートルとし、パルス幅400ナノ秒で駆動しています。このとき報告された閾値電流密度は600アンペア毎平方センチメートル(1平方センチあたりに流す電流の大きさ)です。素子に用いる有機色素は、2021年4月から三井化学と共同で開発しています。

FrontJournalの解説
  • 共振器光を素子の内部で往復させ、特定の波長だけを強め合わせる構造。レーザーが決まった色と方向の光を出すための土台となる。
  • 有機EL有機材料の薄膜に電流を流して発光させる素子。スマートフォンやテレビの画面に使われ、薄く曲げられる点が特徴である。
  • 閾値電流密度レーザーが発振を始めるのに必要な、単位面積あたりの電流の大きさ。値が小さいほど、少ない電力で光を取り出せる。

有機半導体レーザーの未来|表示と計測へ

有機半導体レーザーが変える未来|表示から計測まで用途が広がる/スマートグラスの光源に応用/センサーや医療機器へ広がる/3色の発光素子の実用化を目指す

スマートグラスの光源に応用

同社が主な用途に据えるのは、スマートグラスやVRゴーグルのマイクロディスプレイです。これらの機器では、レンズや導光板(光を目まで導く薄い板)を通るあいだに光の多くが失われ、屋外でも明るい表示が課題です。レーザー光は指向性(一方向にまっすぐ進む度合い)と色純度(色が一つの波長に絞られている度合い)が高く、光を効率よく目へ届けられます。同社は、太陽光の下でも明るい虚像表示(目の前に浮かんで見える像)を可能にする光源として「OSLD」を位置づけています。

センサーや医療機器へ広がる

用途は表示にとどまらず、計測や医療の分野にも広がります。レーザー光は、生体認証(指紋や静脈で本人を確かめる仕組み)や視線追跡、動きを捉えるセンサーの光としてすでに使われています。有機材料は分子設計で波長を選べるため、対象に合わせた光源を設計しやすい点が強みです。バイオセンサーやレーザー治療への展開も期待されています。

3色の発光素子の実用化を目指す

フルカラーの表示を実現するには、光の三原色(赤・緑・青)をそろえた光源が必要です。同社は、2024年11月に完了した資金調達の使途として、3色の発光素子の開発を早期に完了させることを挙げています。ディスプレイソリューションとしての検証と、発光寿命などの特性向上も、同じ使途です。同社は、有機材料の自由度を生かした光源の実用化を目指しています。

FrontJournalの解説
  • マイクロディスプレイ数センチ以下の小さな表示素子。レンズで拡大して目に映すため、スマートグラスやVRゴーグルの心臓部にあたる。
  • 視線追跡目に光を当て、その反射から視線の向きを推定する技術。機器の操作や、表示の解像度を視線の先へ集める制御に使われる。

会社概要|KOALA Techの事業内容

九州大学の研究から創業

株式会社KOALA Techは、2019年3月に福岡市で設立されました。創業の中心となったのは、九州大学の安達千波矢教授らです。同大学の最先端有機光エレクトロニクス研究センター(OPERA)で進めてきた研究を産業へ応用することが、創業の目的です。代表取締役CEO兼CTOをFatima Bencheikh氏が務めています。

NEDO採択と大手との連携

同社は、公的機関の支援と事業会社との連携で開発を進めてきました。2019年にはNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「STSプログラム」に採択され、2022年4月には「J-Startup KYUSHU」の第1回33社に選ばれています。共同研究は三井化学とは2021年4月、ソニーグループとは2021年10月に始まり、2024年には「SID Display Week」で「Distinguished Paper Award」を受けました。

シリーズBで累計9.2億円

シリーズBの調達額は、2024年11月時点で累計約9.2億円です。シリーズBは、開発した技術を製品へ近づけていく段階の資金調達です。この調達には、九州広域復興支援ファンドやPropagator Ventures、九州電力等が参加しました。

会社情報

会社名株式会社KOALA Tech(KOALA Tech Inc.)
所在地福岡県福岡市西区九大新町4-1 福岡市産学連携交流センター215号室
設立2019年3月22日
代表代表取締役CEO兼CTO Fatima Bencheikh
調達2020年3月に約1.5億円。2021年6月に4億円。2023年12月にシリーズB 3.5億円。2024年11月に追加5.7億円(シリーズB累計約9.2億円)。Beyond Next Ventures、Sony Innovation Fund、QBキャピタル、田中藍ホールディングス、FFGベンチャービジネスパートナーズ、九州広域復興支援ファンド、Propagator Ventures、京都大学イノベーションキャピタル、九州電力等
技術領域有機半導体レーザー(OSLD)向けの有機材料と共振器の設計。スマートグラス・VRゴーグル向けマイクロディスプレイ光源
連携三井化学(2021年4月開始。有機色素の共同研究開発)。ソニーグループ(2021年10月開始)。九州大学 最先端有機光エレクトロニクス研究センター(OPERA)
採択NEDO シード期の研究開発型スタートアップ支援(2019年)。「J-Startup KYUSHU」第1回33社に選定(2022年4月)。SID Display Week 2024「Distinguished Paper Award」受賞
URLhttps://www.koalatech.co.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

レーザーは、結晶成長の技術の上に成り立ってきました。KOALA Techが挑んでいるのは、その前提を有機材料へ置き換える試みです。有機ELで培われた薄膜の技術が、光源の設計自由度につながります。

スマートグラスの表示は、光をどれだけ効率よく目へ届けられるかで決まります。この会社の面白さは、材料の分子設計から光源の性能を決められる点です。必要な色を必要な明るさで用意できる光源への期待が高まっています。

身につける機器の見え方が、材料の設計から変わろうとしています。今後の広がりが楽しみです。

FrontJournal編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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