株式会社MOLCUREは進化分子工学とAIで抗体候補を探索する慶應義塾大学発の企業

株式会社MOLCURE(モルキュア)

株式会社MOLCURE「進化分子工学」を研究|研究領域=大量の候補から結合するものを選抜/強み=結合が弱い分子もAIが学習に活用/将来性=抗体からペプチドへ設計を拡大

企業紹介|株式会社MOLCUREとは?

膨大な分子から医薬品になる候補を選び抜く手法として、注目を集める「進化分子工学」。株式会社MOLCUREは、その社会実装を目指す、慶應義塾大学発のバイオ系ディープテック企業です。抗体やペプチドの候補分子を設計するAI創薬プラットフォーム「Abtracer」を、国内外の製薬企業へ提供しています。

キーワード「進化分子工学」

進化分子工学」は、生物の進化をまねた操作で、多数の分子から目的の性質を持つものを選び抜く手法です。特徴は、分子の設計図を人が描かなくても、標的(薬で狙う体内のタンパク質など)に結合する分子を実験で絞り込める点にあります。抗体医薬ペプチド医薬(アミノ酸が数十個つながった小さな分子の薬)の候補探索で使われています。

市場課題|抗体医薬の候補探索が長期化

現状の抗体医薬の課題|候補探索が長引き開発費が増加/結合が弱い分子の記録は未活用

候補探索の長期化で費用が増加

抗体医薬の開発では、候補となる分子を見つける工程に時間を要し、費用が増加します。体内の標的に強く結合する抗体を得るには、実験室で用意した膨大な分子の集団から、結合するものを繰り返し選び出す作業が必要だからです。工程が長引くほど、薬が患者のもとへ届く時期も遠のきます。

実験だけでは有望候補が埋もれる

実験による選抜だけでは、有望な候補が見つからないまま埋もれることがあります。選抜で残るのは結合の強い少数の分子で、そこに至らなかった配列の情報は、実験のたびに捨てられてきたからです。さらに、従来の手法では届きにくい標的への対応も求められますが、候補の幅を広げる手段は限られます。

他にも、分子の集団に無い配列は探索から外れること、実験の条件で結果がばらつくことがあります。安定して製造できるかの見極めや、各段階で積み上がる費用、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 抗体医薬体内の特定の分子に結合するタンパク質である抗体を、そのまま医薬品として用いるものを指す。標的を狙って作用するため副作用を抑えやすく、がんや自己免疫疾患の治療で広く使われている。

MOLCUREの強み|配列データをAIが学ぶ

MOLCUREが「進化分子工学」を開発|捨てていた配列もAIが学習/言語モデルが分子の並びを設計

捨てていた配列もAIが学習

従来の選抜は結合の強い少数の分子だけを取り出す方法で、残りの配列に含まれる情報は使われないまま失われてきました。

同社は、選抜の過程をまるごと配列データとして残します。使う道具は、指向性進化実験(性質の異なる分子を大量に作り、標的に結合するものを選ぶ実験)と、次世代シーケンサー(DNAの並びを大量に読み取る装置)の組み合わせです。読み取った配列は、結合の強さと対応づけてAIの学習データにします。蓄えた抗体・ペプチドのデータは10億件以上です。これらとAIを統合した創薬プラットフォームが「Abtracer」です。

言語モデルが抗体配列を設計

実験で見つかる分子は、あらかじめ用意した分子の集団に含まれていたものに限られます。

同社は、抗体の配列を専門に学習させた大規模言語モデル(大量のデータから規則性を学び、続きを生成するAI)で、標的に合う配列を新たに設計します。文章の続きを予測するのと同じ要領で、これまでに無い並びを生成します。絞り込みに使うのは、分子どうしに働く力を計算で再現する物理ベースのシミュレーションです。標的との結合しやすさを、実験の前に計算で見積もります。既存の抗体を仕上げるリード最適化(結合の強さや製造しやすさを整える工程)にも、同じ基盤を用います。

FrontJournalの解説
  • 大規模言語モデル大量のデータから規則性を学習し、次に来る要素を予測するAIを指す。抗体のアミノ酸配列を学習させると、標的に結合しやすい並びを新たに生成できる。実験の前に候補を絞り込む土台となる。

進化分子工学の未来|共同研究が実用へ

AIと進化分子工学が変える未来|製薬企業と組みリード抗体を創出/小さなペプチドの医薬にも応用/届きにくい標的へ候補分子を届ける

共同研究でリード抗体を創出

同社の技術は、製薬企業との共同研究リード抗体(開発の出発点となる有望な候補抗体)の創出に至っています。帝人ファーマとは2025年1月に、中枢疾患(脳や脊髄などの中枢神経の病気)の標的で共同研究契約を結び、同年9月には新規のリード抗体の創出に成功しました。ファーマフーズとの共同研究でも、2025年5月にマイルストーン(契約で定めた節目)の達成が公表されています。2026年9月の時点では、19社と28件の共同プロジェクトが進んでいます。

ペプチド医薬と海外へ拡大

抗体で培った設計の技術は、ペプチド医薬へも広がっています。富士フイルムとは2025年10月に、非天然アミノ酸(自然界のタンパク質には使われないアミノ酸)を含むペプチドの探索技術で共同研究契約を締結しました。ベーリンガーインゲルハイムとも、複数の標的で複数年の共同研究契約を2025年10月に結んでいます。日立製作所とは、研究データとAIモデルを開示せずに扱う「秘匿AI基盤」の共同開発を進めています。

届きにくい標的への到達を目指す

MOLCUREが目指すのは、従来の手法では届きにくかった標的へ医薬品の候補分子を届けることです。そのために、実験とAIを往復させる学習の循環を回し、データの質と量を同時に高めます。抗体とペプチドの設計手法は、核酸医薬(DNAやRNAを使う医薬品)など他の分子種へも広がる余地があるといわれています。創薬にかかる期間を短縮し、患者の治療の選択肢を増やす基盤となることが目標です。

会社概要|MOLCUREの事業内容・設立背景

慶應義塾大学の研究から創業

株式会社MOLCUREは、2013年5月に設立されました。創業の中心となったのは、慶應義塾大学先端生命科学研究所で研究に携わってきた小川隆氏です。小川氏は同研究所で、エピジェネティクス(遺伝子の働きが切り替わる仕組みを扱う分野)の研究チームを率いてきました。研究で培った知見を医薬品の設計へ応用することが、同社の出発点です。2024年4月からは玉木聡志氏が代表取締役CEO兼CSOを務め、小川氏は取締役CIOに就いています。

小野薬品と創薬提携を締結

2023年3月には小野薬品工業と、複数の標的に対する抗体医薬品の創製で創薬提携契約を締結しました。製薬企業や研究機関との連携は、そこから着実に広がっています。2022年4月には東京工業大学地球生命研究所と「MOLCURE・AIロボット合成生物学プログラム」を2年間にわたり設置しました。2021年7月には米国のTwist BioscienceへAI技術を提供し、がんの標的に結合する抗体の取得に至っています。

第三者割当増資で8億円を調達

MOLCUREは2021年8月に、第三者割当増資(特定の相手に新株を引き受けてもらう資金調達)により総額8億円の調達を完了しました。引受先は、ジャフコグループ、STRIVE、SBIインベストメント、日本郵政キャピタル、GMOベンチャーパートナーズ、日本ケミファなどです。

会社情報

会社名株式会社MOLCURE(MOLCURE Inc.)
所在地神奈川県川崎市幸区新川崎7-7 AIRBIC。バイオラボ:山形県鶴岡市覚岸寺字水上246-2
設立2013年5月
代表代表取締役CEO兼CSO:玉木 聡志。創業者・取締役CIO:小川 隆
調達第三者割当増資で総額8億円(2021年8月)。引受先:ジャフコグループ、STRIVE、SBIインベストメント、日本郵政キャピタル、GMOベンチャーパートナーズ、日本ケミファなど
事業AI創薬プラットフォーム「Abtracer」による抗体・ペプチドの候補分子の探索と設計。スクリーニングと次世代シーケンサー解析。de novo 設計のAI解析。リード最適化のAI解析
技術領域進化分子工学(指向性進化)、次世代シーケンサー、バイオインフォマティクス、抗体専用の大規模言語モデル、物理ベースのシミュレーション
連携帝人ファーマ(2025年1月)。小野薬品工業(2023年3月)。ベーリンガーインゲルハイム(2025年10月)。富士フイルム(2025年10月)。日立製作所(2026年4月)
URLhttps://molcure.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

AIによる創薬は、計算だけで新薬が生まれる話として語られがちです。MOLCUREが向き合うのは、その計算を支える実験データを自分たちの手で作り続ける工程です。選抜で捨てられてきた配列まで読み取り、結合の強さと対応づけて学習に回します。

注目したいのは、実験する工程と設計する工程の両方を、同じ会社が持っている点です。単なる解析の受託ではなく、使うほどデータが増える基盤を自社に積み上げています。製薬企業との共同研究では、リード抗体の創出という形で成果も出はじめました。

慶應義塾大学の研究から生まれた技術が、これまで薬の届かなかった標的にどこまで迫れるのか。今後の展開を注視したいところです。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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