株式会社ワンセルは加熱した後も働きを保つ白金DNA錯体触媒を研究する広島大学発の企業

株式会社ワンセル

ワンセル「白金DNA錯体触媒」を研究|研究領域=検査で色を出す・白金とDNAの触媒/強み=触媒は加熱後も・働きを保つ/将来性=研究用試薬や・診断薬へ

企業紹介|株式会社ワンセルとは?

加熱した後も働きを保ち、検査の発色反応を進める触媒「白金DNA錯体触媒」。株式会社ワンセルは、その社会実装を目指す、広島大学発のバイオ系ディープテック企業です。この触媒を用いた研究用試薬や診断薬の開発を進めるほか、使い捨ての細胞計数盤「ワンセルカウンター」を研究の現場へ提供しています。

キーワード「白金DNA錯体触媒」

「白金DNA錯体触媒」は、ヌクレオチド(DNAの構成単位)に白金を結びつけた錯体(金属と分子が結合した化合物)で、酸化反応を進める触媒です。特徴は、検査用の酵素と同じ発色反応を、加熱した後も進められる点にあります。病気の診断や食品・環境の検査で、目的の物質を色の変化として捉える試薬への応用が期待されています。

市場課題|検査薬の酵素は温度管理と標識に手間がかかる

現状の検査薬の酵素の課題|現状は、熱への弱さとつなぐ工程で保管と製造に手間|熱で働きが落ち・冷蔵での保管が必要/抗体と酵素をつなぐ・手間と生物原料

酵素は熱で働きを失いやすい

ELISA(抗体を使って微量の物質を測る検査法)では、抗体にペルオキシダーゼ(過酸化水素を使って物質を酸化する酵素)を結びつけ、目的の物質を色で示します。この酵素はタンパク質でできており、高温で働きを大きく失い、常温でも活性が低下します。そのため試薬は冷蔵での保管が必要で、管理を誤ると測定の精度が落ちかねません。

標識の工程と生物原料が負担

抗体などに酵素を付ける標識(検出の目印となる物質を付けること)には、化学反応で直接結合させるか、ビオチン(ビタミンの一種)を介して結合させる工程が必要です。抗体は動物、ペルオキシダーゼは西洋ワサビに由来します。このままでは、試薬の製造で生物由来の原料の用意と標識の工程にかかる手間は減りません。

他にも、冷蔵でも長期保存で進む活性の低下、活性を保つための専用の安定化剤タンパク質分解酵素による分解、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • ペルオキシダーゼ過酸化水素を使って別の物質を酸化する酵素を指す。ELISAでは抗体に結びつけて使い、無色の試薬を酸化して色を出させることで、目的の物質の量を色の濃さとして読み取る。

ワンセルの強み|「白金DNA錯体触媒」を研究

ワンセルが「白金DNA錯体触媒」を研究|今後は、錯体触媒で熱に強い発色が可能に|熱に強い・白金DNA錯体触媒/標的をつかみ・色も出す複合体

熱に強い白金DNA錯体触媒

ペルオキシダーゼはタンパク質でできた酵素のため、熱で変性(タンパク質の立体構造が壊れること)を起こし、酸化反応を進める働きが大きく低下します。

同社の「白金DNA錯体触媒」は、ヌクレオチドに白金を結びつけた錯体で、ペルオキシダーゼと同じく過酸化水素を使った酸化反応を進めます。この反応で無色の試薬が酸化されて色が付くため、色の濃さから目的の物質の量を読み取れます。タンパク質を含まないため、80℃で30分加熱した後も働きを保ち、タンパク質分解酵素でも分解されません。化学的な安定性も高く、長期間保存しても働きを失いにくい性質があります。そのため、試薬のうち発色を担う部分の温度管理にかかる負担を軽くできます。

標的をつかみ色も出す複合体

従来の検出試薬は、標的に結びつく抗体と色を出す酵素を別々に用意し、化学的な処理でつなぎ合わせて作られてきました。

同社の技術では、アプタマー(特定の物質に結びつくように選んだDNAの鎖)を白金の化合物と60〜90℃の溶液で反応させると、白金がDNAに結合します。できた複合体は、標的に結びつく性質を保ったまま発色反応も進める、標的の捕捉と発色を1つで担う検出材料です。この仕組みで、血液の凝固に関わるタンパク質のトロンビンを色の変化で検出できることが確かめられています。抗体も西洋ワサビ由来の酵素も使わないこの方式では、酵素を用意して抗体に結合させる工程が要らなくなります。

FrontJournalの解説
  • アプタマー特定の分子に強く結びつくように選び出した、短いDNAやRNAの鎖を指す。抗体と同じく標的を見分けて結合する働きを持ち、化学合成で作れるため、動物の体を使わずに用意できる。

ワンセルの未来|研究用の器具と試薬から予防医療へ

計数盤・試薬・機能性分子が変える未来|研究用の器具と試薬から予防医療へ|使い捨て器具で・細胞を数える/触媒を使う・試薬の製品化へ/機能性分子で・予防医療を目指す

使い捨て計数盤で細胞を数える

同社は、細胞の数を数える使い捨ての計数盤「ワンセルカウンター」を研究の現場へ提供しています。カバーグラスを載せる手間や洗浄が要らず1枚で2つの試料を数えられる構造です。使い捨てのため、感染の恐れがある試料を扱う作業でも安全を保ちやすく、BSL3(感染性の高い病原体を扱う実験施設の安全段階)での使用にも適しています。細胞を数える部分の格子線は凸型の構造で光を反射しにくく、観察で目が疲れにくい設計です。

触媒を使う試薬の製品化へ

「白金DNA錯体触媒」を使う検出系やアッセイ系(物質の量を測る試験の手順)について、同社は開発と製品化を進めています。検出の対象はDNAや抗体、ペプチド(アミノ酸が短くつながった分子)のほか、特定の化合物に結びつく物質で、研究用試薬や診断薬としての利用を想定しています。同社が挙げる応用先は、医療に加えて食品や環境の分野です。特許第5256026号でも、ELISAのような検査で物質を検出・定量する試薬への利用が示されています。

機能性分子で病気の予防を目指す

同社は、組織の再生や体質の改善を目的とした機能性分子を含む商品群を開発し、治りにくい病気の予防と治療への貢献を目指しています。対象として見据えるのは、糖尿病やがん、認知症といった病気です。あわせて、予防医療を含むヘルスケアや再生医療の分野を統合し、健康な暮らしのための新しい医療を提供する構想も掲げています。再生医療に必要な基盤技術の開拓も、事業の1つです。

会社概要|ワンセルの事業内容と設立背景

製薬会社出身の代表が設立

株式会社ワンセルは、2002年4月に広島市で設立された企業です。代表取締役の福嶋久氏は、製薬会社で21年間勤務したのちに同社を設立し、2002年10月から2005年9月まで、広島大学大学院医歯薬学総合研究科の幹細胞生物医学寄附講座(企業などの寄付で大学に設けられた講座)で客員助教授を務めました。同社は広島大学発のベンチャー企業に数えられ、現在は広島市中区に本社を置き、大阪府箕面市にもオフィスを構えています。

大学教授と触媒を共同研究

「白金DNA錯体触媒」は、同社と、成蹊大学を経て台湾の国立中央大学に在籍する樋口亜紺教授との共同研究から生まれた技術です。同社は2007年4月にこの触媒の特許「ヌクレオチド−遷移金属錯体触媒」を出願し、2013年4月に登録されました。研究の成果は、米国化学会の学術誌『Biomacromolecules』(2007年)と『Analytical Chemistry』(2008年)に論文として掲載され、福嶋氏も著者に名を連ねています。

計数盤は販売会社経由で提供

細胞計数盤「ワンセルカウンター」は、理化学研究機器を扱う株式会社バイオメディカルサイエンスが、品番「BMS-OCC01」として販売しています。同社はこの販売会社を通じて、研究の現場へ計数盤を届けています。「白金DNA錯体触媒」を使う製品は、同社が販売まで手がける方針です。

会社情報

会社名株式会社ワンセル(OneCell, Inc.)
所在地広島県広島市中区白島北町3番14号。大阪オフィス:大阪府箕面市新稲7-17-4
設立2002年4月10日
代表代表取締役:福嶋 久
資本金4,025万円
事業白金DNA錯体触媒を用いた検出系・アッセイ系の開発。細胞計数盤「ワンセルカウンター」。機能性分子を含む商品群の開発・製造・販売
技術領域ヌクレオチド−遷移金属錯体触媒(特許第5256026号・2013年4月登録)。使い捨ての細胞計数盤
連携樋口亜紺教授(台湾・国立中央大学、元成蹊大学)との共同研究。株式会社バイオメディカルサイエンス(ワンセルカウンターの販売)
URLhttps://www.onecell.co.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

検査薬の性能を支えてきた酵素は、生物が作り出すタンパク質であるため、熱や保存の条件に左右されやすい材料でした。そのため検査の試薬は、冷蔵での保管を前提に作られてきました。ワンセルは、DNAと白金を組み合わせることで、この性質を材料の側から変えようとしている企業です。

注目したいのは、標的をつかむ働きと色を出す働きを1つの分子にまとめた点です。抗体も酵素も使わない試薬は、生物に由来する原料から離れた検査の形を示しています。使い捨ての計数盤で研究現場の手間を減らしてきた同社が、この触媒をどの製品へ広げていくのかにも注目しています。

温度管理の負担が少ない検査試薬が、研究や診断の現場で当たり前になる日を期待しています。

FrontJournal編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

この企業の方へ

内容に誤り・更新が必要な点があれば、可能な限り速やかに修正します。お気づきの点はお問い合わせまでご連絡ください。

掲載情報の修正・写真の追加・更新はこちら

この企業について、
もっと深く知りたい方へ

パートナーシップ・お問い合わせはこちらから。