株式会社PURMX Therapeuticsは天然型マイクロRNAでがん細胞に老化を起こす核酸医薬を開発する広島大学発の企業

株式会社PURMX Therapeutics(パームエックス・セラピューティックス)

PURMX Therapeutics「マイクロRNA医薬」を研究|研究領域=マイクロRNAを・補うがん治療薬/強み=がん細胞に・老化を起こす/将来性=中皮腫から・他のがんへ応用

企業紹介|株式会社PURMX Therapeuticsとは?

がん細胞で減ったマイクロRNAを補い、増殖を抑える狙いで開発が進む「マイクロRNA医薬」。株式会社PURMX Therapeuticsは、その社会実装を目指す、広島大学発の創薬系ディープテック企業です。マイクロRNAを有効成分とする薬を悪性胸膜中皮腫(石綿が主な原因の、肺を包む膜のがん)や頭頸部がん(口やのどなどにできるがん)に向けて開発しています。

キーワード「マイクロRNA医薬」

「マイクロRNA医薬」は、遺伝子の働きを調節する小さなRNAであるマイクロRNAを有効成分とする核酸医薬(DNAやRNAの材料である核酸で作る薬)です。特徴は、1種類のマイクロRNAでがんの増殖に関わる複数の経路をまとめて抑えられる点にあります。実用化されれば、治療法が限られるがんに新しい選択肢が加わると期待されます。

市場課題|中皮腫は再発しやすく、マイクロRNA医薬は届けにくい

現状の中皮腫の治療の課題|現状は、再発が多く、薬のマイクロRNAも体内で分解|再発が多く・治療が困難/マイクロRNAは・体内ですぐ分解

中皮腫は再発が多く治療が困難

アスベスト(石綿)の吸入が主な原因の悪性胸膜中皮腫は、再発しやすいがんの一つです。手術や抗がん剤などを組み合わせても再発率は高く、発症後の余命は約1年ともいわれています。国内の中皮腫による死亡数は1995年の500人から2024年の1,562人へ増え、発症のピークは2030年頃と予測されています。

マイクロRNAは体内ですぐ分解

天然型(化学的な加工を施さない形)のマイクロRNAは体内ですぐに分解され、がん細胞に届きにくいことが課題です。他社の米国での先行試験では、全身への投与で重い免疫関連の有害事象(投与後に起きた、免疫が関わる不調)が報告されています。マイクロRNAを補う核酸医薬は、2025年5月時点で承認例がありません。

他にも、患者数が少なく有効な治療法が限られること、臨床データの不足、中皮腫が進行後に見つかった場合の5年生存率の低さ、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 悪性胸膜中皮腫肺と胸の壁を覆う胸膜にできるがんを指す。主な原因はアスベスト(石綿)の吸入で、吸い込んでから発症までに25〜50年かかるため、長い期間をおいて患者が現れる。

PURMX Therapeuticsの強み|「マイクロRNA医薬」を開発

PURMX Therapeuticsが「マイクロRNA医薬」を開発|今後は、分解を抑え胸腔へ直接投与が可能に|がん細胞を・老化させ増殖を抑制/ペプチドで守り・胸腔へ直接投与

がん細胞を老化させ増殖を抑制

従来の治療を組み合わせても、再発を抑えるのは難しいとされてきました。

同社の「MIRX002」は、がん細胞で不足しているマイクロRNA「miR-3140-3p」を補い、細胞老化(細胞が分裂をやめ、増えなくなった状態)を起こして増殖を止める核酸医薬です。この成分は、細胞が老化するときに増えるマイクロRNAの中から選ばれ、細胞や動物を使った実験では、再発の元になるがん幹細胞(がん細胞を生み出す元の細胞)や、抗がん剤が効きにくい細胞にも効果を示すことが分かっています。人でも確かめられれば、再発を抑える治療ができるようになる可能性があります。

ペプチドで守り胸腔へ直接投与

天然型のマイクロRNAは、そのまま体内に入れると短時間で分解され、がん細胞に届く前に働きを失いやすくなります。

「MIRX002」は、「miR-3140-3p」に界面活性剤ペプチド(水と油の両方になじむ、アミノ酸がつながった分子)の「A6K」を混ぜた製剤です。「A6K」は水中で集まって細い管状の構造を作り、マイクロRNAと結びついて分解を抑えます。そのため、マイクロRNAを天然型のまま使えます。投与先は、肺を包む膜と胸の壁のすき間である胸腔です。病変のそばで薬を働かせるため、全身への副作用を抑えられる可能性があります。

FrontJournalの解説
  • 細胞老化細胞が分裂をやめ、それ以上増えなくなった状態を指す。がん化を防ぐ仕組みの一つと考えられており、悪性胸膜中皮腫のがん細胞では、細胞老化を起こすマイクロRNAの一つが減っていることが確認されている。

マイクロRNA医薬の未来|中皮腫から他のがんへの応用

がん細胞を老化させるマイクロRNA医薬が変える未来|中皮腫から始め、より多くのがんの治療へ|人での安全性を・臨床試験で確認/頭頸部がんと・海外の試験へ/より多くのがんへ・応用を目指す

人での安全性を臨床試験で確認

2026年6月、中皮腫を対象とした「MIRX002」の第I相試験(安全性を確かめる最初の試験)で、安全性忍容性(副作用に患者が耐えられる度合い)が確認されました。試験は2022〜2025年に2本行われ、1回だけ投与する試験で9人、繰り返し投与する試験で4人に最大3回まで投与しました。両試験の主要評価項目(試験で最も重視する項目)は、この安全性と忍容性です。天然型マイクロRNAのがん治療薬として、人で安全性を示した世界初の例とされています。

頭頸部がんと海外の試験へ

2025年3月には頭頸部がんの第I相試験で最初の投与が行われました。同年5月には、「miR-3140-3p」による中皮腫の治療が、米国食品医薬品局(FDA)からオーファンドラッグ(患者数が少ない病気の薬として開発支援を受けられる医薬品)に指定されました。指定薬は、承認後7年間の市場独占などの支援を受けられます。今後は、中皮腫を対象に海外を含む第I/II相試験(効き目の兆しも見る試験)を準備中です。

より多くのがんへ応用を目指す

同社は、マイクロRNA医薬をより多くのがんへ広げることを目指します。「miR-3140-3p」は、動物実験で頭頸部がんや食道がんなどでも腫瘍を抑える効果が確認されています。開発中の「MIRX006」は、「miR-3140-3p」を脂質ナノ粒子(脂質でできた微小な粒)に包み、全身へ投与する設計です。2026年8月からは、FRONTEOと組み、AIで論文を解析し、「miR-3140-3p」が働きかける標的分子(薬が結びつく体内の分子)を探る検証も始めました。

会社概要|PURMX Therapeuticsの事業内容と設立背景

広島大学の老化研究から創業

株式会社PURMX Therapeuticsは、2021年1月に広島市で設立された広島大学発スタートアップです。創業者で代表の田原 栄俊氏は、広島大学大学院医系科学研究科の教授で、細胞老化とがんの研究に長く取り組んできました。「MIRX002」はAMED(日本医療研究開発機構)の支援のもと、広島大学とスリー・ディー・マトリックス(「A6K」を開発した企業)が共同で開発してきた薬で、同社はその臨床開発を担う会社として設立されました。

特許の譲渡と資本提携

2021年8月、同社はスリー・ディー・マトリックスから「MIRX002」に関する特許の持分を譲り受け、「A6K」の特許の実施許諾(ライセンス)も受けています。同じ契約で、スリー・ディー・マトリックスはPURMX Therapeuticsの株式の10%を取得しました。2022年9月には、JST(科学技術振興機構)とNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「大学発ベンチャー表彰」で特別賞を受け、2026年8月にはAI創薬支援のFRONTEOと資本提携を結んでいます。

累計約12億円を調達

2022年5月、同社はシリーズA(製品の開発を本格化させる段階の資金調達)として、複数の投資家から総額約8億5,000万円を調達しました。2024年5月には、慶應イノベーション・イニシアティブが運営するファンドを引受先とする第三者割当増資(特定の相手に新株を引き受けてもらう調達)を行い、累計の調達額は約12億円になりました。資金は、海外での臨床試験や他のがんへの対象拡大に充てる方針です。

会社情報

会社名株式会社PURMX Therapeutics(パームエックス・セラピューティックス)
所在地広島県広島市南区霞一丁目2番3号(本社)。東京都中央区日本橋堀留町一丁目9番10号(東京オフィス)
設立2021年1月27日
代表CEO/代表取締役社長:田原 栄俊(広島大学大学院医系科学研究科 教授)
資本金1億円
調達2022年5月:シリーズA 総額約8億5,000万円(UTEC5号、QB第二号、OUVC2号、三菱UFJライフサイエンス3号ほか)。2024年5月:KII3号インパクト投資事業有限責任組合、累計約12億円。2026年8月:FRONTEOが第三者割当増資を引き受け
事業天然型マイクロRNAを有効成分とする核酸医薬の研究開発。「MIRX002」(悪性胸膜中皮腫・頭頸部がん)。全身投与型の「MIRX006」
技術領域「miR-3140-3p」による細胞老化の誘導。界面活性剤ペプチド「A6K」を用いたマイクロRNAの保護と送達
連携スリー・ディー・マトリックス(2021年8月・特許譲渡とライセンス、資本提携)。FRONTEO(2026年8月・資本提携、AIによる作用の仕組みの解析)
採択大学発ベンチャー表彰2022 特別賞(JST・NEDO)。米国FDA オーファンドラッグ指定(2025年5月・「miR-3140-3p」による中皮腫の治療)
URLhttps://www.purmx.com/ja

編集後記|FrontJournal編集部より

多くのがんの治療薬は、がん細胞を直接攻撃する方向で発展してきました。PURMX Therapeuticsは、失われた老化の仕組みを取り戻すという別の方向から挑んでいます。その土台にあるのは、細胞の老化とがんの関係を追ってきた基礎研究です。

注目したいのは、薬になりにくかった天然型のマイクロRNAを、人に投与できる薬へ近づけた点です。第I相試験で確かめた安全性は、その最初の関門でした。効き目の確認へ進めば、中皮腫の患者に新しい道が開けるかもしれません。

広島で生まれたマイクロRNA医薬が、がん治療の選択肢に加わる日を期待しています。

FrontJournal編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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