TENSORVERSE株式会社は社内文書を根拠に答えるRAGを開発する筑波大学発スタートアップ

TENSORVERSE株式会社(テンソルバース)

TENSORVERSE|研究領域=検索した文書を回答の根拠にする/強み=根拠の資料とともに回答が返る/将来性=帳票のデータ化と文書の変更点の検出へ

企業紹介|TENSORVERSE株式会社とは?

生成AIに社内の情報を答えさせる手段として、広がりつつある「RAG」。TENSORVERSE株式会社は、その「RAG」を中核に据える筑波大学発のスタートアップです。社内のPDFや資料を検索して回答の根拠にする「RagicX」を開発し、AIの受託開発やAI-OCRとあわせて企業へ提供しています。

キーワード「RAG」

RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、生成AIが回答を作る前に外部のデータを検索させ、その結果を根拠に文章を生成させる方式です。日本語では検索拡張生成と訳します。学習した範囲の知識だけで答える場合と違い、社内にしかない文書を検索対象に加えれば、その内容を根拠として回答できます。

市場課題|生成AIと社内知識の隔たり

現状の生成AI活用の課題|社内知識と教師データの不足で足踏みし、社内の事情に答えにくく教師データの整備にも人手がかかる

社内の事情には答えにくい

生成AIは、社内の事情に関わる質問には答えにくい状態が続いています。学習に使われたのは公開されている文章が中心で、各社の規程や業務マニュアルは含まれていないためです。根拠を持たないまま文章を組み立てると、事実と異なる内容をもっともらしく返すハルシネーションが起こり、確認の手間が増えます。

教師データの整備に人手が要る

自社のデータでモデルを学習させる用途では、教師データの整備が負担です。正しくラベルを付けるアノテーション(AIに学習させるデータへ正解の情報を付ける作業)は、対象が数万点に及ぶこともあり、担当者ごとに判断が割れて基準がばらつきます。作業量と期間を見積もりにくいため、導入する企業では試験導入の段階で計画が止まりやすくなります。

他にも、担当者に依存する属人化、機密文書を社外のAIへ入力しにくい制約、導入後に使われない状態、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • ハルシネーション生成AIが、学習した範囲に根拠がない事柄を、事実であるかのような文章で出力する現象を指す。文章としては自然に読めるため、読み手が誤りに気づきにくい点が問題とされる。

TENSORVERSEの強み|RAGと教師データ

TENSORVERSEが「RAG」を開発|社内文書を検索して回答の根拠にし、段階的学習で教師データ整備の人手の工数を圧縮する

社内文書を根拠に回答を生成

従来の生成AIは、学習した範囲の知識で答えるため、社内にしかない規程やマニュアルの内容までは反映されません。

同社のRAGプロダクト「RagicX」は、回答を作る前に社内の文書を検索する仕組みです。社内に蓄積されたPDFやドキュメントを検索の対象として登録し、質問と関連する箇所を取り出したうえで、生成AIがその内容を根拠として回答を組み立てます。利用者の操作は、チャット形式で質問を入力するだけです。関連するナレッジは図やスクリーンショットを含む画像付きで示されるため、元の資料のどこに書かれていたかを、文字だけの検索結果より確かめやすくなります。

教師データを段階的に整備

教師データの整備では、対象すべてに人手でラベルを付ける進め方が一般的なため、工数と期間はデータ量に比例します。

同社は、段階的学習(インクリメンタルラベリング)でこの工数を圧縮します。まず全体の5〜10%程度に人手で正確なラベルを付け、そのデータで初期のAIモデルを構築します。この初期モデルと基礎モデル(大量のデータで事前に学習させた汎用のAIモデル)を組み合わせ、残るデータへラベルを一括で付与する手順です。基礎モデルが汎用の判断力を備えるため、人手のラベルが少量でも大部分に対応できます。人手による修正は随時再学習へ取り込むため、処理が進むほど自動付与の精度が上がり、担当者ごとの判断の差も抑えられます。

FrontJournalの解説
  • 基礎モデル大量のデータで事前に学習させた汎用のAIモデルを指す。個別の用途ごとに一から学習させる必要がなく、少量のデータを追加するだけで目的の処理へ転用できる。

AI実装の未来|業務の自動化を広げる

TENSORVERSEのAI実装が変える未来|帳票のデータ化を自動化し、文書の変更点を自動で検出し、AI教育でAIを使う人材を育てる

帳票のデータ化を自動化

紙の帳票をデータに変える作業は、すでに自動化が実現しています。同社は2026年4月19日に、クラウド型のAI-OCRサービス「Recolt」の提供を始めました。読み取った内容を文字列にするだけでなく、表の構造を保ったまま、他のシステムが読み取りやすいMarkdownやJSONの形式へ再構成します。REST API(外部のシステムから機能を呼び出す接続口)も用意され、既存の業務システムへ組み込んだ大量処理にも対応できる設計です。

文書の変更点を自動で検出

文書の版を比べる作業も、自動化が進みつつある領域です。同社は2025年6月に、文書と画像の変更点を検出する差分検出ロジックを公開しました。文字の追加や削除に加え、図やレイアウトのわずかな変更も強調して表示します。契約書のレビューや技術文書の版管理では、目視で追ってきた変更箇所の確認をこの機能が担うといわれています。

社会課題の解決を目指す

同社は、AI技術による社会課題の解決を目指しています。2025年7月に筑波大学から「筑波大学発ベンチャー」の称号を受け、大学との連携や産学官の協働を視野に入れる方針を示しました。AI教育事業では、企業や自治体に向けた研修を通じて、AIを使う側の人材を育てる取り組みも進行中です。秋田県男鹿市との連携など、地域へも広がりつつあります。

会社概要|TENSORVERSEの事業と設立背景

筑波大学の出身者が起業

TENSORVERSE株式会社は、筑波大学の出身者が中心となって立ち上げたAI企業です。2024年1月にTENSORVERSE合同会社として設立し、筑波大学で応用理工を学んだ鈴木裕太郎氏が代表社員に就任しました。2026年1月1日付で株式会社へ組織変更し、鈴木氏が代表取締役を務めています。社員の8割が同大学の出身で、平均年齢は27.2歳です。

採択・連携

同社は2025年7月1日付で、国立大学法人筑波大学から「筑波大学発ベンチャー」の称号を授与されました。この称号は、筑波大学から輩出された人材や研究成果によって生まれた企業に対し、国際産学連携本部長の認定を経て与えられるものです。連携先として、グループ会社に株式会社オルトローグがあります。

受託開発とプロダクト

事業の柱は、AIソリューション事業・AI教育事業・RAGプロダクト事業です。AIソリューション事業では、要件定義から設計・実装・運用までを一括で請け負い、生成AI・画像認識・OCRの案件を扱います。年間の開発実績は100件を超え、導入は最短2週間・平均1か月といわれています。AI-OCRの「Recolt」は従量課金制で、初期費用と月額固定費を設けていません。

会社情報

会社名TENSORVERSE株式会社(TENSORVERSE, Inc.)
所在地東京都港区虎ノ門1丁目17-1 虎ノ門ヒルズビジネスタワー15階
設立2024年1月17日(2026年1月1日にTENSORVERSE合同会社から株式会社へ組織変更)
代表鈴木 裕太郎(代表取締役)
資本金500万円
事業AIソリューション事業(受託開発)。AI教育事業。RAGプロダクト事業。AI-OCRサービス「Recolt」(2026年4月19日提供開始)。動画フィードバックツール「Clipt」
技術領域RAG(検索拡張生成)。生成AI、画像認識、OCR。段階的学習によるアノテーション自動化。文書と画像の差分検出
連携グループ会社=株式会社オルトローグ
採択筑波大学発ベンチャー 称号授与(2025年7月1日付・国立大学法人筑波大学)
URLhttps://tensorverse.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

生成AIをめぐる議論は、モデルそのものの性能に集まりがちです。しかし業務で使えるかどうかを決めるのは、手元の情報をどう渡すかという設計の部分でした。RAGが多くの企業で採り入れられるようになった背景には、この気づきの共有があります。

TENSORVERSEの取り組みで目を引くのは、RAGと教師データの整備という、性格の異なる2つを同じ課題として扱っている点です。どちらも「AIに何を根拠として渡すか」を整える仕事であり、モデルを作る話ではありません。試験導入で止まる案件が多いなかで、この地点に力を割く判断は理にかなっています。

筑波大学の出身者が集まった若い組織が、受託の現場で積んだ知見を自社プロダクトへ還元していけるのか。虎ノ門から始まった挑戦の行方に注目したいところです。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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