株式会社Thinker|触れる前に対象物の距離と角度を測る近接覚センサーを開発する大阪大学発の企業

株式会社Thinker(シンカー)

Thinker「近接覚センサー」を研究|触れる前に距離と角度を測る装置/3Dカメラが苦手な透明・光沢を測る/工場から食品の現場へ広がる

企業紹介|Thinkerとは?

ロボットが触れる前に対象物との距離と角度を捉える技術として、注目を集める「近接覚センサー」。Thinkerは、その「近接覚センサー」の社会実装を目指す、大阪大学発のロボティクス系ディープテック企業です。近接覚センサー「TK-01」やロボットハンド「Think Hand F」を、自動車部品や食品を扱う製造の現場へ提供しています。

キーワード「近接覚センサー」

「近接覚センサー」は、対象物へ触れる前に距離と角度を測る計測装置です。特徴は、赤外線の反射光をエッジAI(機器の内部で判断まで行う人工知能)が読み解き、指先の位置をロボット自身が調整できる点にあります。部品や食品が向きをそろえずに積まれた現場でも、ロボットが一つずつ取り出せます。

市場課題|ばら積みの部品は自動化しにくい

現状の部品取り出しの課題|現状は、人手に頼り自動化が進みにくい/人手不足でも手作業が残る/透明や光沢の物は捉えにくい

人手不足でも手作業が残る

製造の現場では、人手の確保が難しくなっても、部品を一つずつ取り出す作業が人の手に残っています。箱に積まれた部品を取り出す「ばら積みピッキング」は、対象の位置と向きが毎回変わるため、機械への置き換えが進みにくい工程です。人手が減るほど、生産量の維持は難しくなります。

透明や光沢の物は捉えにくい

ロボットの目として広く使われる、光を当てて距離を測る方式の3Dカメラは、透明な容器や光沢のある金属を捉えにくいといわれています。これらの表面では光が透過したり強く反射したりするため、距離の情報が欠けやすくなります。対象が正しく見えている前提で動作を組めば、つかみ損ねや取り落としが起きやすい状態です。

他にも、対象ごとに動作を教え込む事前設定の負担、箱の壁や影が生む死角、高性能な3Dカメラを備えるための導入費用、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • ばら積みピッキング箱や台の上に向きをそろえずに積まれた部品を、ロボットが一つずつ取り出す工程を指す。対象の位置と向きが毎回変わるため、決めた動作の繰り返しでは対応しにくい領域である。

Thinkerの強み|近接覚センサー

Thinkerが「近接覚センサー」を開発|今後は、指先の計測でつかみ取りが可能に/ハンドが探りつかみ直す/赤外線とAIで距離を測る

ハンドが探りつかみ直す

教え込んだ位置へ動くだけのロボットハンドは、対象がずれていても同じ動きを繰り返すため、つかみ損ねに気づけません。

「Think Hand F」は、指先の近接覚センサーで対象をなぞりながら位置を確かめ、つかむ直前まで指の向きを補正するロボットハンドです。つかんでいる間も指先で対象との距離を測り続けるため、つかみ損ねをその場で判定し、すぐにつかみ直せます。対象ごとに動作を教え込む事前設定の手間が小さく、向きのそろわない部品にも対応できる設計です。本体(対象をつかむ爪の部分を除く)の重量は250グラムと軽く、協働ロボット(人と同じ空間で動くロボット)の先端に取り付けて使います。

赤外線とAIで距離を測る

反射光の強さをそのまま距離に換算する方式は表面の状態に左右されるため、透明な物や鏡のような面では測定値が乱れがちです。

「TK-01」は、4つの赤外線モジュールが受けた反射光のパターンをエッジAIが読み解き、距離と角度(指先が対象の面に対してどれだけ傾いているか)を同時に求めるセンサーです。1点の明るさは表面の状態で変わる一方、4か所の受け取り方の差は変わりにくい手がかりです。粗い位置合わせはカメラに任せ、触れる直前の2センチほどを指先が担います。距離は1.5〜20.0ミリメートルの範囲を分解能0.1ミリメートルで、角度はプラスマイナス20.0度の範囲を分解能0.5度で測ります。

FrontJournalの解説
  • エッジAI機器の内部で判断まで行う人工知能を指す。通信でクラウドへ送らないため応答が速く、現場から情報を持ち出さずに済む。センサーが受けた反射光をその場で解析し、指先の動きへ即座に反映させる用途に向く。

近接覚センサーの未来|現場に広がる指先の計測

指先で測る近接覚センサーが変える未来|現場の負担が減り、扱える対象が広がる/工場ですでに部品を取り出す/食品や樹脂など傷つきやすい物へ/ロボットに詳しくなくても使える形へ

ばら積みの部品を取り出す

近接覚センサーは、すでに工場のばら積みピッキングで使われています。「Thinker Model A」は、協働ロボットと「Think Hand F」、対象を大まかに捉えるカメラ、制御用の機器をまとめた一式の製品です。高価な3Dカメラを前提としない構成のため、導入の費用と立ち上げの工数を抑えられます。2025年6月に公開されたモデルでは、同年1月のモデルと比べて画像処理の仕組みが新しくなり、対象物を登録する時間が20分の1に短縮されたとされています。

傷つきやすい物へ広がる

近接覚センサーは、形や硬さの一定しない対象を扱う現場へ広がります。食品や樹脂の部品のように一つひとつ形の違う物は、押しつける力の加減が必要です。指先で距離と角度を測り続ける方式は、触れる直前に動きを緩められるため、傷つきやすい物にも向きます。2024年6月には兼松フューチャーテックソリューションズが「TK-01」と「Think Hand F」の取り扱いを始めており、こうした現場への展開を後押しするとみられます。

気軽に使えるハンドを目指す

同社が目指すのは、専門の知識がなくても扱えるロボットハンドです。産業用ロボットの導入には、動作を教える技術者とまとまった時間が必要です。機械が自ら対象の位置を確かめる仕組みは、この手間を減らす手立てとされています。その先に見据えるのは、ロボットハンドを家電のように選んで使える状態です。

会社概要|株式会社Thinkerの事業内容

大阪大学の研究から事業化

Thinkerは、2022年8月に大阪府で設立されました。技術の起点となったのは、大阪大学大学院基礎工学研究科の小山佳祐氏による研究です。この研究は小山氏が電気通信大学に在籍していた時期に始まり、実用に足る精度へ到達するまでにおよそ10年を要したといわれています。代表取締役兼CEOには藤本弘道氏が就任しました。共同創業者の小山氏は、フェローとして同社の技術開発を担っています。

ロボット大賞とNEDO採択

同社の技術は公的な制度でも評価されています。近接覚センサー「TK-01」は第11回ロボット大賞の要素技術部門で優秀賞を受け、第13回JR東日本スタートアッププログラムのDEMO DAY(採択企業が実証の成果を発表する催し)では総合グランプリの「スタートアップ大賞」に選ばれました。2024年12月には、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「ディープテック・スタートアップ支援事業」に採択され、2年で最大2.15億円の支援を受けるとされています。

5億円の調達で開発を加速

2025年8月に、第三者割当増資で5億円を調達しました。2024年3月にはシリーズA(製品を市場へ出し始める時期の資金調達)の追加調達として1.4億円を集め、シリーズAの総額は3.7億円で、この時点での累計調達額は約4.7億円と公表されています。2025年8月の調達を含めた累計は9億円を超えたといわれています。直近の引受先は伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、大阪大学ベンチャーキャピタル、池田泉州キャピタル、ミライドアなどです。同社は調達した資金を、扱いやすいロボットハンドの開発へ充てます。

会社情報

会社名株式会社Thinker(シンカー/Thinker Inc.)
所在地大阪府大阪市西区京町堀2-5-16 うつぼGIZAビル9階(2026年7月に大阪市中央区から移転)。開発拠点は奈良県奈良市左京6-5-2
設立2022年8月12日
代表藤本弘道(代表取締役兼CEO・共同創業者)。小山佳祐(共同創業者・フェロー/大阪大学大学院基礎工学研究科)
資本金9.6億円(資本剰余金を含む)
調達第三者割当増資で5億円(2025年8月)。シリーズAの追加調達で1.4億円(2024年3月・シリーズA総額3.7億円・同時点の累計は約4.7億円)。2025年8月の引受先は伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、大阪大学ベンチャーキャピタル、池田泉州キャピタル、ミライドア。2024年3月の引受先はフューチャーベンチャーキャピタル、サンエイトインベストメント、京信ソーシャルキャピタル、りそなキャピタル ほか
事業近接覚センサーとロボットハンドの開発と販売。近接覚センサー「TK-01」シリーズ、ロボットハンド「Think Hand F」、ばら積みピッキングの一式製品「Thinker Model A」
技術領域近接覚センサー、エッジAIによる距離と角度の推論、ロボットハンド、ばら積みピッキング、協働ロボット
連携兼松フューチャーテックソリューションズが「TK-01」「Think Hand F」の取り扱いを開始(2024年6月)
採択NEDO「ディープテック・スタートアップ支援事業」(2024年12月・2年で最大2.15億円)。第11回ロボット大賞 要素技術部門 優秀賞。第13回JR東日本スタートアッププログラム DEMO DAY 総合グランプリ「スタートアップ大賞」
URLhttps://www.thinker-robotics.co.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

ロボットに物をつかませる方法は、長くカメラで見て、教えた通りに動かす組み立てで考えられてきました。見えている前提が崩れると、ロボットの手は止まります。Thinkerが取り組むのは、指先に測る力を持たせて近づきながら確かめるという別の道筋です。

この技術の面白さは、精度の高さよりもやり直せることにあります。人が手探りするように、機械も触れる直前で構え直せる仕組みです。自動化の対象から外れてきた工程を、一つずつ現場の側へ引き寄せていくと期待されます。

電気通信大学で始まり、東京大学を経て大阪大学で実を結んだ計測技術が、工場の手元を静かに変えようとしています。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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