2026.06.26科学技術振興機構(JST)

神経細胞の品質低下に起因する脳機能障害からの回復―オートファジー再活性化で運動・認知機能が戻ることを実証(FrontJournal解説)

ニュース紹介

「神経細胞の品質低下に起因する脳機能障害からの回復~オートファジーの再活性化による神経細胞の回復力を実証~」

東京大学大学院医学系研究科の水島昇教授・江口智也助教らの研究グループは、オートファジー(細胞内の不要タンパク質やオルガネラを分解・再利用する経路)を任意のタイミングでオン/オフできるマウスを開発し、一時的なオートファジー抑制によって神経細胞に生じた機能障害が、その後の再活性化によって回復することを実証しました。抑制期間中には神経細胞内で異常タンパク質の蓄積・軸索の腫脹・シナプスの形態異常が生じ、マウスの運動機能と認知機能が低下しました。オートファジーを再活性化させると、蓄積した異常タンパク質が分解除去されるとともに、一度失われた運動能力と学習能力が回復することが確認されました。成果は2026年6月25日付の学術誌「Science」にオンライン掲載されました(DOI:10.1126/science.ady3911)。

出典:科学技術振興機構(JST) 2026年6月26日 プレスリリース
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20260626/index.html

FrontJournalの解説

この研究分野について

オートファジー(autophagy)とは、細胞が自身の不要成分(変性タンパク質・古くなったオルガネラなど)を分解・再利用する仕組みです。神経細胞は分裂しにくく長寿命であるため、オートファジーによる細胞内品質の維持が特に重要とされてきました。従来、オートファジーの低下がアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患に関連することは示されていましたが、「一度障害が起きた後でも機能が回復できるか」は明らかでありませんでした。

①オートファジーを自在にオン/オフするマウスを開発

研究グループは、薬剤によってオートファジーを特定のタイミングで抑制・再活性化できるマウスモデルを開発しました。このモデルによって、「抑制→機能低下」と「再活性化→機能回復」という2段階の変化を同一個体で観察することが初めて可能になりました。

②オートファジー抑制で神経障害が生じ、再活性化で機能が回復

オートファジーを抑制すると、神経細胞内で異常タンパク質が蓄積し、軸索の腫脹やシナプスの形態異常が起こり、マウスの運動機能と認知機能が低下しました。その後オートファジーを再活性化させたところ、蓄積した異常タンパク質が除去されるとともに、運動能力と学習能力が回復することが確認されました。

③「発症後でも回復できる」という視点を示す

これまでの神経変性疾患研究は「発症を防ぐ」予防的アプローチが中心でしたが、今回の成果は発症後であっても細胞内品質を回復させることで脳機能が改善できる可能性を示しています。

編集部からひとこと

オートファジーを制御することで一度失われた神経機能が回復するという知見は、治療介入の新たな方向性を示す成果です。マウスモデルでの実証から、ヒトの神経変性疾患への応用に向けては、どの段階でどの程度オートファジーを活性化できるか、また長期的な安全性の検証が今後の課題になるとみられます。

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