FrontJournalの解説
この研究分野について
細胞膜は、たんぱく質と脂質が組み合わさってできています。細胞の中で情報が伝わったり、物質が運ばれたりするとき、たんぱく質は特定の脂質を「目印」として認識し、必要な場所で働きます。たんぱく質と脂質の結合を網羅的に調べることは、細胞の仕組みを理解するうえでも、創薬の標的を探すうえでも重要な手がかりになります。しかし従来の方法では、実験のステップが多く、一度に調べられる組み合わせは数十通りに限られていました。
①「CLiBアッセイ」で数千種類を一度に解析
研究グループが開発したCLiBアッセイは、少ない実験ステップでたんぱく質と脂質の結合を解析できる手法です。次世代シークエンス解析と組み合わせることで、数千種類のたんぱく質を対象としたハイスループット解析を可能にしました。従来の方法と比べて解析できる組み合わせの規模が桁違いに広がり、脂質を認識するたんぱく質を効率よく探索できるようになります。
②プローブ「PX-SnxAGV」で膜脂質PI(3,5)P2を可視化
研究グループはCLiBアッセイを用いて、細胞内の膜脂質「PI(3,5)P2」(ホスファチジルイノシトール3,5-二リン酸)と強く結合する脂質プローブ「PX-SnxAGV」を作製しました。このプローブをGFP融合たんぱく質として細胞内で発現させると、ストレス条件下でPI(3,5)P2が濃縮した膜ドメインの形成を可視化することができました。これまで見えなかった膜脂質の局所的な分布や動きを観察できるツールになります。
③AI創薬への展開に期待
膜脂質はたんぱく質の働きを支える一方で、その挙動を捉えるツールが限られていました。CLiBアッセイと今回のプローブは、多様な膜脂質環境の理解を進めるとともに、膜脂質を標的としたAI創薬への展開が期待されると発表では述べられています。基礎生命科学だけでなく、創薬や産業への波及効果という点でも意義が大きい成果です。
編集部からひとこと
細胞膜の脂質は、たんぱく質ほど注目されてこなかった領域ですが、細胞の状態や病態と密接に結び付いています。数千種類を一度に解析できる基盤技術と、実際に細胞内で膜脂質を可視化するプローブが同時に示された点が、この研究の大きな意義といえます。今後は、他の膜脂質に対応するプローブへの展開や、疾患モデルでの応用がどこまで進むかが焦点になりそうです。なお本研究は、JSTの創発的研究支援事業、戦略的創造研究推進事業(さきがけ・CREST)、A-STEP、革新的GX技術創出事業などの支援を受けて実施されました。