2026.07.06科学技術振興機構(JST)

名古屋大が細胞内の「油」の中で分子集合を精密制御する新原理を発見(FrontJournal解説)

ニュース紹介

「細胞内の「油」が分子の並び方を制御する新原理を発見~脂肪滴が関与する疾患の理解と治療に向けて~」

名古屋大学大学院理学研究科・学際統合物質科学研究機構(IRCCS)およびトランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の大城宗一郎准教授、山口茂弘教授らの研究グループは、中性脂肪の主成分であるトリアシルグリセロール(TAG)の一種「トリオレイン」の中で、分子が自発的に集まってひも状につながる「超分子ポリマー」の形成を精密に制御できることを明らかにしました。トリオレインが分子の自発的な集合の開始や集合体どうしの凝集を抑えるため、種となる集合体から制御して分子を伸ばす「シード重合」が可能になり、異なる発光色の分子を段階的につないだ多層構造の超分子ポリマーを作り分けられたとしています。研究成果は国際学術誌「Nature Communications」に2026年7月6日付で掲載されました。

出典:科学技術振興機構(JST) 2026年7月6日 プレスリリース
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20260706/index.html

FrontJournalの解説

この研究分野について

超分子ポリマーは、分子どうしが弱い力でつながって、ひも状の大きな構造をつくったものです。プラスチックのように原子が強く結びついた通常のポリマーと違い、条件によってつながったりほどけたりする柔軟さがあります。ただし、水や有機溶媒の中では分子が勝手に集まり始めてしまい、どこから・どの向きに伸ばすかを人が思い通りに操ることが難しいという課題がありました。

①細胞内にもある「油」の中で分子集合を制御

研究グループが着目したのは、トリオレインという油です。これは中性脂肪の主成分で、細胞が脂質をためこむ「脂肪滴」にも多く含まれます。この油の中では、分子が自発的に集まり始める動きや、集合体どうしがくっつく凝集が抑えられることを見いだしました。集合の暴走が起きにくいため、狙った通りに構造を組み立てやすくなります。

②「種」から伸ばすシード重合で多層構造を作り分け

この性質を利用すると、あらかじめ用意した種となる集合体から分子を継ぎ足していく「シード重合」が可能になります。研究グループは、異なる発光色を持つ分子を段階的につなぎ、色の層が並んだ多層構造の超分子ポリマーを作り分けることに成功しました。どの分子を、どの順番で、どれだけつなぐかを制御できることを示した結果です。

③脂肪滴が関わる疾患の理解・治療への応用に期待

脂肪滴は、肥満や脂肪肝、動脈硬化などさまざまな疾患との関わりが指摘されている細胞内の構造です。油の中で分子集合を制御できる今回の原理は、生体内の脂質環境で働く分子集合システムの設計や、脂肪滴の機能を狙って制御する分子技術への応用が期待されるとしています。

編集部からひとこと

超分子ポリマーの研究は水や有機溶媒を舞台に進んできましたが、今回は細胞にも存在する油を反応の場に選んだ点が特徴です。集合の暴走が抑えられるという油の性質を、構造を精密に作り分ける手段へと転換した発想が興味深い成果です。生体内に近い環境で分子を組み立てられる可能性を示しており、脂肪滴という疾患との関わりが深い対象に結びつけている点も応用の幅を感じさせます。実際の細胞内でどこまで同じ制御が働くかの検証が、今後の焦点になりそうです。なお本研究は、JSTの戦略的創造研究推進事業などの支援を受けています。

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