FrontJournalの解説
この研究分野について
金属を混ぜ合わせた「合金」の中には、相図(どの温度でどんな結晶ができるかを示す図)に載っていない組み合わせがあります。熱平衡(時間をかけて安定した状態)では作られにくい構造で、これを「準安定相」と呼びます。もし作ることができれば、既存の材料にはない性質を引き出せる可能性があるため、材料開発の重要テーマとされています。
今回の研究は、この準安定相を熱ではなく電気化学反応で作り分けるアプローチを示したものです。対象となったのは銅(Cu)とインジウム(In)の金属間化合物CuIn₂で、これをナノ粒子として初めて得たと報告しています。想定される応用先は、CO₂を燃料や化学原料に変える触媒です。
①相図に載らない「CuIn₂」をナノ粒子として初合成
研究グループは、複合金属酸化物を電気化学的に還元することで準安定相のCuIn₂ナノ粒子を得る手法を開発しました。銅とインジウムの組み合わせでは、通常の熱処理で作れる合金組成は限られており、CuIn₂は相図上に現れない準安定相にあたるとしています。電気化学還元は室温付近で進められるため、熱平衡では到達できない構造に届く手段になり得ます。
②CO₂還元反応で水素発生を抑え、選択性が向上
得られたCuIn₂ナノ粒子を触媒に用いてCO₂電解還元を行うと、副反応である水素発生を抑制し、CO₂由来生成物への選択性が高まる特性が示されました。CO₂還元触媒では、水を分解して水素を作る競合反応をいかに抑えるかが実用化のうえで大きな課題であり、その解決に資する結果と位置づけられています。
③掲載誌と関連情報
成果は米国化学会(ACS)が発行する「The Journal of Physical Chemistry Letters」に2026年7月1日付で掲載されました。研究はJSTの戦略的創造研究推進事業などの支援を受けています。準安定相の狙った合成を電気化学で行うという設計指針は、CO₂還元以外の触媒・機能性材料にも展開しうるとしています。
編集部からひとこと
CO₂還元触媒の研究は銅ナノ粒子系を中心に活発で、電荷状態や幾何構造を制御して性能と安定性を高める報告が続いています。今回はそこに「準安定相を電気化学で狙う」という手筋を加えた形です。実装に向けては、触媒の耐久性、生成物の分布制御、既存の熱プロセスとの棲み分けが焦点になりそうです。