FrontJournalの解説
この研究分野について
体の中では、たんぱく質を分解したり合成したりする酵素(さまざまな化学反応を触媒する分子)が絶え間なく働いています。その活性は、肝機能や腎機能などを調べる血液検査の指標としても使われており、疾患の兆候を早期に見つける手がかりになります。従来は個々の酵素を1つずつ測る手法が中心で、多種類の酵素を一気に調べる「網羅的解析」には不向きでした。
今回の研究では、酵素が働くと光る「蛍光プローブ」を、これまで手作業だった精製工程を省略して全自動で合成する仕組みを構築。100種類以上のプローブライブラリを用いて、肝障害と関わる血液中の酵素活性を横断的に測る新しい方法論を示しました。
①精製工程を省いた「SCCR戦略」で自動合成を実現
蛍光プローブは通常、合成した後にカラムクロマトグラフィーなどで目的化合物のみを取り出す精製工程が必要で、多品種を作るうえでのボトルネックでした。研究グループは、共有結合による捕捉と放出(Synthesis based on Covalent Capture and Release:SCCR)を軸とした戦略で精製過程を省き、多様な構造の蛍光プローブを自動で得られる合成基盤を構築しました。これにより100種類以上のプローブライブラリを整備できたとしています。
②肝障害関連の血液酵素を網羅的に測る「enzymomics法」を提唱
研究グループは、構築したライブラリを用いて血液中の酵素活性を網羅的に解析するenzymomics(酵素機能のオミクス解析)法を提案しました。肝障害に関わる酵素群を対象とした解析を行い、たんぱく質の量ではなく「活性」の変化を包括的にとらえる新しい階層の情報が得られることを示しています。疾患診断に用いる新しいバイオマーカー探索や、創薬研究の基盤ツールとしての利用が想定されます。
③掲載誌と関連情報
研究成果は米国化学会(ACS)の学術誌「ACS Central Science」に2026年6月29日付で掲載されました。論文の対応著者は東京大学の浦野教授と小松准教授で、本研究はJSTの戦略的創造研究推進事業などの支援を受けています。
編集部からひとこと
血液由来バイオマーカー市場は世界的に拡大が続く分野で、遺伝子や量的情報に偏りがちだった診断のレイヤーに、酵素活性という「動的な機能情報」を加える発想は自然な流れといえます。今回は自動合成というプロセス側の工夫で、探索の裾野を広げた点が実装寄りの意義でしょう。臨床試料での再現性や、既存の血液検査との使い分けが今後の焦点になりそうです。