2026.07.11 科学技術振興機構(JST)

名古屋大が患部で徐放する生体吸収性ナノファイバーシートを開発(FrontJournal解説)

ニュース紹介

「細胞外小胞などの治療用ナノ粒子を患部で少しずつ放出する生体吸収性ナノファイバーシートの開発~次世代ドラッグデリバリーシステムによる新規治療法の実用化に期待~」

名古屋大学(医学系研究科、医学部附属病院、工学研究科)の鈴木一弘客員研究者(現MDアンダーソンがんセンター)、横井暁講師、梶山広明教授、安井隆雄教授らの研究グループは、手術用吸収糸を用いて脂質ナノ粒子(LNP)や細胞外小胞(EV)を局所的かつ持続的に送達する生体吸収性ナノファイバーシート(BNFシート)を開発しました。乾燥時の毛細管現象を利用してナノ粒子を保持し、生体内で徐々に放出する仕組みです。卵巣がん腹膜播種マウスモデルで、抗がん剤カルボプラチンを搭載したLNPを用いた検証では、少量の薬剤投与にもかかわらず高い抗腫瘍効果を確認。シートは生体内で完全に吸収され、炎症や線維化などの有害反応は認められなかったとしています。

出典:科学技術振興機構(JST) 2026年7月11日 プレスリリース(掲載誌:Cell Reports Physical Science/DOI: 10.1016/j.xcrp.2026.103418)
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20260711-2/index.html

FrontJournalの解説

ドラッグデリバリーシステムとは

今回のテーマである「ドラッグデリバリーシステム(DDS)」とは、薬を必要な場所に必要な量だけ届ける技術のことです。薬を全身に投与すると、患部以外にも作用して副作用を起こしたり、患部に届く前に分解されてしまったりすることがあります。DDS技術は、こうした課題に対して、薬を狙った部位で狙ったタイミング・量だけ放出させることを目指す研究分野です。

①手術用吸収糸を応用したシート

研究グループは、手術で従来から使われている吸収糸(体内で自然に分解・吸収される糸)を応用し、脂質ナノ粒子(LNP:薬を包んで運ぶ微小な脂質の粒)や細胞外小胞(EV:細胞が分泌する微小な小胞で、細胞間の情報伝達に関わる)を患部で局所的・持続的に送達できるシートを開発しました。乾燥時に生じる毛細管現象(細い隙間を液体が移動する物理現象)を利用してナノ粒子をシートに保持し、体内に留置すると徐々に放出される仕組みです。

②卵巣がんモデルでの検証結果

研究グループは、卵巣がんが腹膜に広がった状態を再現したマウスモデルで検証を実施しました。抗がん剤カルボプラチンを搭載したLNPをこのシートで投与したところ、少量の薬剤投与にもかかわらず高い抗腫瘍効果が確認されたとしています。また、シート自体は生体内で完全に吸収され、炎症や線維化といった有害反応は見られなかったとされています。

編集部からひとこと

今回の成果はマウスモデルでの検証段階であり、ヒトでの臨床試験や実用化の時期については発表内容に言及がありません。手術用吸収糸という既存の医療材料を応用した点は、実用化に向けたハードルの一つである安全性評価の観点で意味を持ちうるアプローチです。詳細な実験データ・論文情報はJST公式ページおよびCell Reports Physical Science掲載論文をご参照ください。

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