FrontJournalの解説
この研究分野について
触媒プロセスの開発では、これまで「既知の反応に対して触媒を改良する」または「既知の触媒に対して反応条件を最適化する」という進め方が中心でした。しかし、思いがけない触媒と条件の組み合わせから新しい反応が生まれる可能性は、探索の外側に置かれてきました。触媒と反応を同時に探索するという考え方は、実験点数が膨大になるうえ、想定外の生成物を検出する分析系が必要になるため、方法論としての確立が課題でした。
①ハイスループット実験と質量分析で100万点規模のデータを取得
研究グループは、メタン・酸素・二酸化炭素からなる反応系を舞台に、200種類の触媒と50種類の反応条件を組み合わせるハイスループット実験を実施しました。さらに、生成物を限定しない質量分析を組み合わせることで、想定していなかった副生成物の情報まで拾い上げ、100万点規模の反応データを取得しました。これにより、条件と生成物の関係を広い探索空間で網羅的に俯瞰できる基盤が整いました。
②高いメタン転換収率と未知反応の芽の発見
取得した100万点規模のデータを解析した結果、研究グループは従来手法では到達困難だった高いメタン転換収率を示す触媒・条件の組み合わせを特定しました。同時に、質量分析データからは想定外の生成物に結びつく反応、すなわち未知反応の「芽」も見いだされました。触媒探索と反応探索を分けずに扱うことで、既存の設計指針の外側にある反応系にアクセスできることが実証された形です。
③カーボンニュートラルに向けた触媒プロセス開拓への展開
今回の手法は、メタン転換に限らず幅広い触媒反応系に適用できると位置づけられています。研究グループは、探索する基質・触媒・反応条件の範囲を拡張し、ハイスループット実験と機械学習を組み合わせることで、カーボンニュートラル社会の実現に必要な触媒プロセスの開拓に展開していくと述べています。データ駆動型の反応探索は、素材・エネルギー分野の研究開発を加速させる基盤技術としても注目されそうです。
編集部からひとこと
触媒開発の世界では、「探すべき反応が先にあって、それに合う触媒を最適化する」という手順が長く前提でした。今回の研究は、その前提を組み直し、触媒と反応そのものを同時に探しにいくための方法論を、メタン転換という具体的な系で示した点に意義があります。100万点というデータ量は、機械学習と組み合わせたときに真価が問われる規模でもあり、次に発表される解析結果とその再現性が続報のポイントになりそうです。研究成果はACS Catalysis誌に掲載されました(DOI:10.1021/acscatal.6c03318)。