マイクロ波化学株式会社|製造の熱をマイクロ波に置き換える大阪大学発スタートアップ

マイクロ波化学株式会社(Microwave Chemical)

マイクロ波化学の研究領域・強み・将来性

企業紹介|マイクロ波化学とは?

マイクロ波化学株式会社は、大阪大学発のディープテックスタートアップです。ものづくりの現場では「燃やして熱と圧力で反応させる」化学プロセスが当たり前でした。同社はこれをマイクロ波で原料を直接あたためる方式へ置き換えようとしています。電子レンジと同じ電磁波です。省エネルギーで効率が高く、設備も小さくできます。この点が評価され、2022年には東証グロース市場に上場しました。

キーワード「マイクロ波プロセス」

従来法は、炎やボイラーで反応容器の外側から間接的に熱を伝えます。「マイクロ波プロセス」は違います。目的の分子だけを内側から直接あたためる加熱方法です。大阪大学の塚原保徳 氏と吉野巌 氏が2007年に共同創業しました。大学で積み上げた基礎研究を、工場で使える製造技術へと発展させてきました。マイクロ波は実験室では便利です。ただし工場の規模で安定して動かすのは難しいとされてきました。それを量産のプロセスまで育てた点が同社の歩みの中心です。

化学プロセスの課題|熱と圧力に頼る製造の限界

現状の化学プロセスの課題|外から熱するためエネルギーを多く使いCO₂も排出される

外部加熱は溶媒や容器まで加熱

医薬品や樹脂、化粧品原料、燃料の多くは液相合成で作られています。原料を有機溶媒に溶かし、大きな釜の外側から高温・高圧で熱して反応させる方法です。長年使われてきた確実なやり方です。ただし容器や液体の全体をあたためます。そのため目的の反応に使われない余分な熱が大量に必要になります。その熱の多くは化石燃料を燃やして生み出されています。少しの反応のために多くのエネルギーを投入せざるを得ません。

加熱用の燃焼でCO₂排出が増加

外側から加熱する方式では、熱が目的の反応に届く前に容器や有機溶媒をあたためます。その分だけ余分なエネルギーが必要です。燃焼にともなうCO₂排出や高い製造コストも増えがちです。反応を安定させるために設備も大型になりやすくなります。新しい素材を少量から素早く試したい場面では小回りが利きません。他にも課題があります。原料価格の変動、脱炭素への対応、海外に頼る生産体制などです。

FrontJournalの解説
  • 液相合成原料を液体に溶かし、外から熱を加えて反応させる古くからの製造法。安定して作れる一方、溶媒とエネルギーを多く使う。
  • 有機溶媒アセトンやトルエンなど、原料を溶かすために使う液体薬品。大量に使うと廃液や環境への負荷が増える。

マイクロ波化学の強み|分子を直接あたためる

マイクロ波で省エネ製造を可能に|熱と圧力からマイクロ波へ

目的の分子だけを内部から加熱

同社の技術は狙った分子だけを直接あたためる点に特徴があります。容器や溶媒の全体を熱する必要がありません。熱が目的の反応にまっすぐ届きます。公開情報によると反応時間は約10分の1になります。消費エネルギーは約3分の1とされています。ただし数値は原料や反応の条件で変わります。①の「エネルギーが多く必要」という課題に、加熱のしくみを変えることで答えます。従来の設備をそのまま使うわけではありません。マイクロ波が届きやすい形へ、装置ごと設計し直しています。ここに長年の実証で積み上げた知見が生きています。

CO₂を抑え設備も小さくできる

マイクロ波は電気から生み出せます。再生可能エネルギーと組み合わせれば燃焼に由来するCO₂を抑えた製造に近づきます。反応に必要な設備も小さくできます。大きな工場に頼らず必要な場所で必要な量だけつくる分散型の生産にもつながります。これは①の「CO₂と設備が増える」という課題に対する答えになります。脱炭素と国内でのものづくりの両立という、化学産業の大きなテーマにも重なります。

FrontJournalの解説
  • 再生可能エネルギー太陽光や風力など、燃やさずに繰り返し得られる電気。マイクロ波の電源に使うとCO₂をさらに抑えられる。
  • 分散型の生産大きな工場に集約せず、必要な場所で必要な量だけつくる方式。輸送の負担や在庫を減らしやすい。

マイクロ波が変える未来|素材づくりとリサイクル

マイクロ波が変える未来|素材づくりから資源リサイクルまで

基礎化成品を少ない熱で作る

マイクロ波プロセスは特定の製品に限りません。基礎化成品・機能性化成品・燃料など幅広い分野に応用できます。少ないエネルギーで狙った反応を進められます。そのため環境に配慮した「つくり方」への置き換えが期待されています。

廃プラを原料に戻す

同社は横河電機ケミカルリサイクルのシステムを共同開発しています。廃プラスチックを化学的に分解し、原料に戻す技術です。事業化を目指す段階です。マイクロ波は狙った物質を選んであたためられます。そのため、混ざった廃棄物から必要な成分だけを取り出す用途と相性がよいとされます。

金属を捨てずに活かす

2025年には低濃度の貴金属を回収する事業を引き継ぎました。京都大学発スタートアップからの譲受です。使い終えた製品や廃液には、金属がわずかに含まれています。それを取り出せれば輸入に頼ってきた資源を国内で循環させられます。狙った物質を選んであたためられるマイクロ波の特性が、ここでも生きています。

FrontJournalの解説
  • ケミカルリサイクル使い終えたプラスチックを化学的に分解し、原料に戻して再び使う再生法。燃やさずに資源として循環できる。
  • 基礎化成品樹脂や薬品、繊維などのもとになる基本的な化学品。さまざまな工業製品の土台となる素材。

会社概要|マイクロ波化学の設立背景と事業

大学の研究を工場の技術へ

同社は2007年に創業しました。大阪大学の塚原保徳 氏と吉野巌 氏による共同創業です。マイクロ波は実験室では古くから使われてきました。ただし工場の規模で安定して動かすのは難しい技術でした。同社は大学の基礎研究量産に耐えるプロセスへ育てることを目指してきました。創業から一貫して、マイクロ波を化学の量産に使うという一点に取り組んでいます。

大手企業と組んで実装を進める

同社の土台はプロセス開発とエンジニアリングです。実験室の成果を工場へ橋渡しします。装置の設計から反応条件の作り込みまでを一貫して手がけます。自社での製造に加えて、技術を他社に提供するライセンス事業も展開しています。連携先も広がっています。三井物産との協業や、太陽化学との合弁会社ティエムティの設立。横河電機とのケミカルリサイクル共同開発もあります。既にものづくりの現場を持つ企業と組むことで、実装までの距離を縮めています。

上場で開発を加速する

同社は2022年6月に東証グロース市場へ上場しました(証券コード9227)。公開情報によると、新規上場時におよそ11億円を調達しています。研究開発型のスタートアップが上場まで到達した事例として注目されました。調達した資金はプロセス開発と量産に向けた設備に充てられています。

会社情報

会社名マイクロ波化学株式会社(Microwave Chemical Co., Ltd.)
所在地大阪府
設立2007年
代表吉野 巌(共同創業)。塚原 保徳(大阪大学)
上場東京証券取引所グロース市場(2022年6月・証券コード 9227)
技術領域マイクロ波を用いた化学プロセス。省エネ製造とケミカルリサイクル
連携三井物産、横河電機、太陽化学(合弁ティエムティ)ほか
URLhttps://mwcc.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

化学産業は、医薬品や電子材料など、社会に欠かせない素材を生み出してきた基盤産業です。一方で、その多くは化石燃料を燃やす熱と圧力」に支えられてきました。エネルギーとCO₂の負担も抱えています。マイクロ波化学は、この「つくり方」の前提を変えようとしています。電気由来のマイクロ波分子を直接あたためる方式です。

注目したいのは、これが単なる省エネ技術にとどまらない点です。廃プラや金属を資源として循環させる取り組みへと広がっています。大阪大学の基礎研究を出発点に、上場企業として大手との協業や実証を重ねてきました。その姿は日本発のGX(脱炭素に向けた産業の転換)の一つのモデルになり得ます。

「燃やしてつくる化学」から「電気であたためてつくる化学」へ。同社が描く未来は、製造現場の環境負荷と、ものづくりの自由度を同時に動かします。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

この企業の方へ

内容に誤り・更新が必要な点があれば、可能な限り速やかに修正します。お気づきの点はお問い合わせまでご連絡ください。

掲載情報の修正・写真の追加・更新はこちら

この企業について、
もっと深く知りたい方へ

パートナーシップ・お問い合わせはこちらから。