マイクロ波化学株式会社|マイクロ波で原料そのものを発熱させ化学品を製造する大阪大学発ディープテック

マイクロ波化学(Microwave Chemical)

マイクロ波化学「マイクロ波プロセス」を研究|研究領域=原料そのものを発熱させる/強み=大型の設備でも量産できる/将来性=樹脂の再生から鉱石の製錬へ

企業紹介|マイクロ波化学とは?

化学品の製造に使う熱を、燃料の燃焼から電気へ置き換える技術として注目を集める「マイクロ波プロセス」。マイクロ波化学は、その「マイクロ波プロセス」の社会実装を目指す、大阪大学発の素材・化学系ディープテック企業です。マイクロ波を用いる商業設備と技術パッケージを、化学品や金属を製造する現場へ提供しています。

キーワード「マイクロ波プロセス」

マイクロ波プロセスは、電子レンジと同じマイクロ波で原料そのものを発熱させ、化学品を製造する手法です。特徴は、狙った物質へ集中してエネルギーを届けられる点にあります。医薬品や樹脂の原料を製造する工程や、金属の製錬といった現場で、燃料を燃やさずに加熱できます。

市場課題|化学産業の加熱が抱える負荷

現状の化学品製造の課題|現状は、外から熱を伝え中心まで届きにくい/燃料の燃焼で二酸化炭素の排出/大型化するほど時間が延びる

燃料の燃焼が二酸化炭素を増やす

化学品の製造で高い温度を保つために燃やす大量の燃料が、二酸化炭素の排出につながっています。医薬品や樹脂、化粧品の原料で一般的なのは、溶媒に溶かして釜ごと加熱する製造法です。加熱に要する熱量は生産量に応じて増えるため、増産するほど排出量も積み上がります。

外部加熱は大型化で効率が低下

容器の外から熱を伝える外部加熱は、装置を大きくするほど中心まで熱が届きにくくなります。バーナーや蒸気で外壁を熱する方式は、伝わる熱量が伝熱面積と温度差で決まるためです。反応器(原料を反応させる容器)の容積を増やすと表面積の比は小さくなり、加熱に要する時間も延びやすくなります。

他にも、目的の物質以外まで加熱する熱の無駄や、反応時間が延びて生産量を増やしにくくなることがあります。燃焼設備を置くために必要な広い用地、燃料価格の変動を受けやすい製造コスト、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 外部加熱容器の外側から熱を与え、壁を通して中身へ伝える加熱方法である。バーナーや蒸気で外壁を熱する方式が代表例で、化学品の製造では長く標準的な手段として使われてきた。

マイクロ波化学の強み|マイクロ波プロセス

マイクロ波化学が「マイクロ波プロセス」を開発|今後は、電気の加熱で大型でも量産が可能に/狙った物質へ熱を集める/横型の反応器で大型でも量産

反応物を狙って直接加熱

外部加熱では、容器も溶媒も目的の物質も、まとめて温度を上げることになります。

マイクロ波加熱は、マイクロ波のエネルギーを物質へ直接届け、分子の回転とイオンの移動によって物質そのものを発熱させる方法です。発熱量を決めるのは、その物質がマイクロ波を熱に変える度合いを示す誘電損失係数と、かけた電界(電気の力が働く場)の強さです。この度合いは物質ごとに異なるため、溶媒ではなく反応させたい物質へエネルギーが集まります。これが選択加熱です。マイクロ波は電力から作るため、容器の外壁を高温に保つ必要がなく、燃料を燃やさずに加熱できます。

横型構造で量産を実現

壁を介して熱を送る方式では、反応器を大きくするほど容積に対する表面積の比が小さくなり、生産量に見合う伝熱面積を確保しにくくなります。

マイクロ波が液の内部へ届く深さは、物質の性質と周波数で決まります。電子レンジと同じ2.45ギガヘルツでは、その強さが水中の数センチメートルで半減します。同社は槽を深くせず、溶媒を高所から低所へ流す「横型」の反応器を発案しました。液面と天井の間の空間をマイクロ波の通り道に使い、炉内を仕切って撹拌します。2014年には世界初のマイクロ波による量産プラントを大阪市に完成させ、脂肪酸エステル(油脂を原料とする化学品で、新聞印刷インキの溶剤に使う)の量産を始めています(生産能力は年産3,200トン)。

FrontJournalの解説
  • 選択加熱マイクロ波を吸収しやすい物質ほど強く発熱させる加熱方法である。物質ごとに吸収しやすさが異なる性質を利用し、溶媒や容器を高温にせずに目的の反応を進められる。

マイクロ波プロセスの未来|製造業への応用

マイクロ波プロセスが変える未来|加熱を電気で行い用途が広がる/再生アクリルが車の部品に/鉱石の製錬へ試験が進む/大型の建造物も加熱を目指す

再生アクリルが車の部品に

同社の技術で再生したアクリル樹脂は、すでに市販車の部品に採用されています。2021年から三菱ケミカルと、使用済み自動車のアクリル樹脂を原料へ戻すケミカルリサイクル(化学的に分解して原料へ戻す再生方法)に取り組んできました。2025年9月に採用されたのは、本田技研工業の軽乗用EV「N-ONE e:」のドアバイザーです。原料へ戻して再び使うため、再生したMMA(メタクリル酸メチル)を100%使ったアクリル樹脂は、ライフサイクル全体の二酸化炭素排出量を従来品より50%程度削減できると見込まれています。

鉱石の製錬を電気で行う

マイクロ波による加熱は、金属の製錬にも広がりつつあります。同社は2026年5月、標準ベンチ装置(小規模な試験装置)で鉄鉱石の還元に成功しています。リチウム鉱石では2025年9月に実証を始め、2026年6月にはPMET Resources、三井物産と商業化を検討する覚書を結びました。海底のマンガンノジュール(多金属の団塊)でも、高温で加熱する試験を数十キログラム規模で終えています。

大型建造物の加熱を目指す

同社は、マイクロ波の利用を閉じた装置の外へ広げることを目指しています。マイクロ波の利用では、電磁波の漏洩を防ぐために閉鎖空間が一般的でした。2026年7月に発表した技術は特殊な線路構造(マイクロ波を通す導線)の周辺へ電界を集め、遠くへ広がりにくくすることで密閉した箱で囲わずに使えます。複雑な構造物や大型建造物をその場で加熱する使い方が視野に入ります。

会社概要|マイクロ波化学の事業内容と設立背景

大阪大学の研究から事業化

マイクロ波化学は、2007年8月に京都市で設立されました。創業の中心となったのは、三井物産出身の吉野巌氏と、大阪大学大学院工学研究科でマイクロ波化学を研究してきた塚原保徳氏です。設立時の商号はマイクロ波環境化学で、2011年11月に現在の社名へ変更し、2012年10月には本社を大阪大学吹田キャンパスへ移しました。代表取締役社長CEOを吉野氏が、代表取締役CSOを塚原氏が務めています。

公的支援と企業連携

開発は、公的機関の支援と事業会社との連携に支えられています。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の戦略的省エネルギー技術革新プログラムなどに採択され、2023年6月には「日本スタートアップ大賞2023」で大学発スタートアップ賞を受賞しました。三井化学、三菱ケミカル、量子科学技術研究開発機構(QST)などと共同開発を進めており、2026年5月には「Amazon Devices Climate Tech Accelerator」にも採択されました。

上場と設備ライセンスで展開

同社は2022年6月に東京証券取引所グロース市場へ上場しました(証券コード9227)。上場前は、事業アイデアを製品として量産・実証していく初期の段階から、シリーズAからシリーズGまで7回の増資を重ねました。調達した資金は、研究開発と実証設備の整備に充てています。事業の形は、顧客の製造現場へ商業設備と安全制御システムを納め、操業に必要な技術パッケージをライセンスする方式です。

会社情報

会社名マイクロ波化学株式会社(Microwave Chemical Co., Ltd.)
所在地大阪府吹田市山田丘2番1号 フォトニクスセンター5階
設立2007年8月15日(設立時の商号はマイクロ波環境化学。2011年11月に現社名へ変更)
代表吉野 巌(代表取締役社長CEO)。塚原 保徳(代表取締役CSO)
上場東京証券取引所グロース市場(2022年6月24日・証券コード9227)
従業員51名(2026年6月末時点)
事業マイクロ波化学技術プラットフォームを活用した研究開発からエンジニアリングまでのソリューション提供。顧客の製造サイトへ商業設備・オペレーションシステム・安全制御システムを納め、操業に必要な技術パッケージをライセンスする
技術領域マイクロ波プロセス、マイクロ波加熱、選択加熱、ケミカルリサイクル、脂肪酸エステル製造、金属製錬・鉱山プロセス
連携三井化学。三菱ケミカル。量子科学技術研究開発機構(QST)。三井物産。PMET Resources。BASF。三井金属鉱業。フタムラ化学。岩谷産業
採択NEDO 戦略的省エネルギー技術革新プログラムほか。日本スタートアップ大賞2023 大学発スタートアップ賞(文部科学大臣賞・2023年6月)。Amazon Devices Climate Tech Accelerator(2026年5月)
URLhttps://mwcc.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

化学品の製造は、長らく燃料を燃やして熱を得ることを前提に組み立てられてきました。釜を熱し、壁を通して中身へ伝える方法は確立された手段ですが、装置が大きくなるほど熱は中心へ届きにくくなります。マイクロ波化学が取り組むのは、その前提を組み替える研究です。

製造現場の脱炭素には、排出された二酸化炭素を回収するJCCLのような取り組みもあります。マイクロ波化学が選んだのは、熱が生まれる場所を燃焼炉から原料へ移す道です。単なる省エネルギーの工夫ではなく、熱源を電気へ移す試みである点に、この技術の核心があります。

2007年に京都のマンションで始まった研究が、樹脂の再生から鉱石の製錬まで届こうとしています。

FrontJournal編集部

出典:経済産業省 大学発ベンチャーデータベース2026

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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