QDレーザ|「量子ドットレーザ」を研究

株式会社QDレーザ(QD Laser, Inc.)

QDレーザ「量子ドットレーザ」を研究|研究領域=電子を閉じ込めて光を出すレーザ/強み=温度が変わっても光の強さが安定/将来性=通信から加工や検査へ広がる

企業紹介|株式会社QDレーザとは?

データセンターの通信量が増えても消費電力を抑える技術として、注目を集める「量子ドットレーザ」。株式会社QDレーザは、その「量子ドットレーザ」の社会実装を目指す、富士通研究所からのスピンオフ企業です。温度変化に強い半導体レーザを主力に、その技術を応用した視覚情報デバイスを、通信機器や産業機械のメーカーへ提供しています。

キーワード「量子ドットレーザ」

「量子ドットレーザ」は、光を発する活性層にナノメートル寸法の結晶「量子ドット」を並べた半導体レーザです。特徴は、周囲の温度が変わってもしきい値電流や出力が安定している点にあります。冷却装置の負担が小さいため、データセンターの光通信や産業機械のように温度が上下する現場でも扱えます。

市場課題|通信量の増加が電力を押し上げる

現状の光通信用レーザの課題|現状は、電力が増え温度対策の部品も要る/通信量が増え電力消費も増大/温度で光の強さが変わる

通信量の増加で電力消費が増大

生成AIの普及でデータセンターを行き交う情報量が増え、通信にかかる電力も増加しています。サーバー同士を結ぶ配線は光ファイバーへ置き換わっており、その両端では電気の信号と光の信号を変換する半導体レーザが絶えず動いているためです。情報量に比例して光源の数も増えるため、1台あたりの電力を抑えなければ設備を広げにくくなります。

温度で光の強さが変わる

従来の量子井戸を用いた半導体レーザは、温度が上がるほど光の強さや波長が変化します。活性層に閉じ込めた電子が、熱を受けると層から抜け出しやすくなるからです。そのため機器側には冷却装置や補正回路が要り、光源を小さくまとめにくくなります。

他にも、戻り光(反射して戻る光が発振を乱す現象)への対応、波長を保つための温度管理、量産したときに波長がそろわず規格に合う製品の割合が上がりにくい点、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • しきい値電流半導体レーザが発振(レーザが光を出し始めること)に至るのに必要な最小の電流。この値が低いほど、同じ光を出すのに使う電力が少なくて済む。
  • 活性層半導体レーザの内部で、流した電流を光へ変える役割を担う層。ここにどのような構造を用いるかで、消費電力や温度特性が決まる。
  • 量子井戸電子を薄い層の厚み方向にだけ閉じ込める構造。従来の半導体レーザの活性層に広く使われ、面内の方向には電子が動ける。

QDレーザの強み|量子ドットレーザ

QDレーザが「量子ドットレーザ」を開発|今後は、閉じ込めで省電力と安定が可能に/量子ドットで消費電力を抑える/高温でも特性が変わりにくい

量子ドットで消費電力を抑える

量子井戸を用いた活性層では、電子が層の面内を自由に動いてエネルギーが散らばるため、光を出せない電子が増え、発振までに多くの電流を要します。

量子ドットを用いると、しきい値電流が下がり、消費電力を抑えられます。量子ドットは、電子を三次元のすべての向きに閉じ込めた微小な結晶です。閉じ込められた電子はとびとびのエネルギーを持つため、発振に使われない電流が減るしくみです。同社はこの活性層を分子線結晶成長で作り込み、結晶成長技術については2006年に東京大学と共同研究契約を結んでいます。省電力の効果は、光源を数多く並べるデータセンターほど大きく積み上がります。

高温でも特性が変わりにくい

量子井戸では電子を閉じ込める向きが厚み方向だけのため、熱を受けた電子は面内へ逃げ道を持ちます。

量子ドットは電子を深く閉じ込めるため、温度が上がっても抜け出しにくく、特性の変化が小さくなります。同社は2008年に、-40〜100℃で動作する光通信用の量子ドットレーザ世界で初めて実現し、翌2009年には10Gbpsの製品を実用量産化しました。専用の設計では200℃での発振も可能で、100℃以上での特性の劣化も少ないとされています。この量子ドットレーザは戻り光にも強いため、光を遮る部品を省いた小型の構成を取りやすくなります。

FrontJournalの解説
  • 量子ドット電子をあらゆる向きに閉じ込めた半導体の微小な結晶。大きさはナノメートル(100万分の1ミリ)の単位で、閉じ込めにより電子のエネルギーがとびとびになる。
  • 分子線結晶成長真空中で原料を分子や原子の流れとして基板へ吹き付け、結晶を1層ずつ積み上げる方法。量子ドットの大きさや密度を精密に制御できる。

量子ドットレーザの未来|加工とチップ内の光源へ

温度に強いレーザが変える未来|加工や検査からチップ内の光源へ広がる/産業機械の加工用光源に展開/検査やセンシングを支える/チップへの光源搭載を目指す

産業機械の加工用光源に展開

同社の半導体レーザは、産業機械の加工用光源としても使われています。金属や樹脂の溶接や切断で使う光源は、熱を持つ環境での連続稼働が前提です。同社のレーザは熱を受けても出力が落ちにくく、冷却の負担を抑えやすくなります。レーザデバイス事業全体の売上高は、2026年3月期に1,173百万円で、照明用光源や研究開発用途の伸びにより前期から4.7%増えました。

検査やセンシングを支える

同社は、センシング(光を当てて距離や成分を測ること)と、製品の欠陥を見つける検査へ、用途を広げています。波長を一定に保つDFBレーザや小型の可視光レーザに加え、半導体検査用の超高速な製品は開発を進めています。研究開発の現場向けでは、量子ドットレーザの売上が前期から76.3%増えました。医療では、「VISIRIUMテクノロジ」(網膜に光で像を描く技術)を用いた「RETISSAメディカル」が、2020年1月に新医療機器として承認されました。

チップへの光源搭載を目指す

その先の目標は、光電融合(電子回路と光回路を1つにまとめること)です。シリコンの上に光源を載せるシリコンフォトニクスでは、チップの発熱を受けても光源の特性が変わらないことが条件といわれています。温度が変わっても発振が安定し、戻り光にも強い量子ドットレーザは、この条件に合う光源の1つです。同社はAIデータセンター向けをはじめ、自動運転や医療、レーザ加工の分野へチップ内の光源を広げることを目指します。

FrontJournalの解説
  • シリコンフォトニクスシリコンの基板の上に光の通り道や部品を作り込み、電子回路と一体で光を扱う技術。配線を光に置き換えて通信の速度と電力を改善する。
  • DFBレーザ内部に細かい溝を刻み、特定の波長だけを選んで発振させる半導体レーザ。波長が安定するため光通信の送信側に使われる。

会社概要|QDレーザの事業内容・設立背景

富士通研究所の成果から創業

株式会社QDレーザは、2006年4月に設立されました。富士通株式会社と三井物産株式会社のベンチャーキャピタル資金を活用し、富士通の量子ドットレーザ技術にもとづく光デバイスの企業として発足しました。同月に富士通研究所と研究委託契約、6月に東京大学と結晶成長技術の共同研究契約を締結しています。創業を主導した菅原充氏はファウンダー兼最高技術顧問を務め、量子ドットを1982年に提唱した一人である東京大学の荒川泰彦特任教授も顧問です。

受賞とNEDO採択を重ねる

同社は設立の年から公的機関の採択と受賞を重ねてきました。2006年9月と2008年9月には、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のイノベーション実用化助成事業に採択され、量子ドットレーザとDFBレーザの実用化開発を進めています。2007年には菅原氏が産学官連携功労者表彰で内閣総理大臣賞を受けました。

上場後は2事業で開発

東京証券取引所マザーズ市場への上場は2021年2月で、2022年4月からはグロース市場です。報告セグメントは「レーザデバイス事業」と「レーザ・オプティカルソリューション事業」の2つです。本社は2026年4月に川崎市から横浜市戸塚区へ移り、現在は同区内の2拠点で稼働しています。2025年7月には中小企業庁の「100億宣言」に参画し、10年間で売上高100億円を目指すビジョン「10 by 10 to 100」を掲げました。

会社情報

会社名株式会社QDレーザ(QD Laser, Inc.)
所在地〒244-0816 神奈川県横浜市戸塚区上倉田町206-1。レーザ・オプティカルソリューション事業部は横浜戸塚サイト(同区上倉田町481-1)
設立2006年4月
代表代表取締役社長 大久保潔。ファウンダー兼最高技術顧問 菅原充。顧問 荒川泰彦(東京大学特任教授)
上場東京証券取引所グロース市場(証券コード6613)
業績2026年3月期の売上高1,372百万円(前期比4.9%増)。レーザデバイス事業1,173百万円、レーザ・オプティカルソリューション事業199百万円。営業損失326百万円、当期純損失357百万円
連携株式会社富士通研究所と研究委託契約(2006年4月)。東京大学と量子ドットの結晶成長技術で共同研究契約(2006年6月)
技術領域「量子ドットレーザ」。分子線結晶成長、グレーティング形成(内部に溝を刻んで波長を決める技術)、レーザ設計、モジュール小型化(レーザと光学部品を1つにまとめた部品)、レーザ網膜走査技術「VISIRIUMテクノロジ」(赤・緑・青のレーザで網膜に像を描く)
採択NEDOイノベーション実用化助成事業(2006年9月・2008年9月)。中小企業庁「100億宣言」参画(2025年7月)。中小企業成長加速化補助金 採択(2025年9月)
URLhttps://www.qdlaser.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

レーザの性能は、光を生む活性層で決まります。薄い層だけの量子井戸から、あらゆる向きの量子ドットへ。この一歩が、冷却が前提の光源を、置いた温度に任せられる部品へ変えます。

売るのは装置ではなく、光を生む部品です。データセンターにも加工機にも同じ技術が入ります。用途の流行に左右されない土台が、20年の開発を支えたようです。

光と電子が1つのチップで交わるとき、中心で光を生むのは何か。注目します。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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