FrontJournalの解説
宇宙機器向け材料の「軌道上実証」とは
人工衛星やロケットなどの宇宙機器は、真空・放射線・大きな温度変化といった過酷な環境にさらされます。そのため、使われる材料・部品が実際の宇宙環境で所定の性能を発揮するかを確かめる「軌道上実証」(宇宙空間で実験・稼働試験を行うこと)が欠かせません。ただし、宇宙で使った材料を地上に持ち帰って詳しく調べる機会は、これまで国際宇宙ステーション(ISS)の物資帰還時などに限られてきました。今回の提携は、この「宇宙で試す→地上で回収して分析する」という一連の流れをサービスとして提供しようとするものです。
①ElevationSpaceが持つ再突入・回収技術
ElevationSpaceは、東北大学発の宇宙スタートアップで、大学で開発された複数の小型人工衛星の技術をもとに2021年2月に設立されました。同社は、宇宙で実験した物資を大気圏再突入によって地上へ持ち帰る小型の宇宙利用・回収プラットフォーム「ELS-R」の開発を進めています。報道によれば、回収カプセルは直径約1メートル規模で、微小重力を利用した実験キットや創薬用の反応容器、半導体材料のサンプルなどを搭載して持ち帰ることが想定されています。今回のDNPとの提携では、こうした軌道上実証・回収の仕組みが役割を担うことになります。
②拡大する宇宙経済と国産サプライチェーンの課題
提携の背景には、世界的に広がる「宇宙経済(スペースエコノミー)」の成長があります。世界経済フォーラムがマッキンゼー・アンド・カンパニーの協力を得てまとめた報告書では、宇宙経済の規模は2023年の約6,300億ドルから、2035年には約1兆8,000億ドルへと拡大すると予想されています(年平均成長率は約9%)。一方で、宇宙環境での使用実績を持つ材料・部品は限られ、一部は海外製品への依存が続いているとされます。国内で実証・分析の機会を増やす取り組みは、宇宙産業に新規参入する企業を支える基盤づくりとして位置づけられます。
編集部からひとこと
宇宙空間の特殊な環境を材料開発や製造に生かそうとする動きは、世界的に広がっています。米国のVarda Space Industriesは、微小重力で医薬品の結晶などを製造し、再突入カプセルで地上に回収する試みを重ねています。国内でもレゾナックが米Axiom Spaceと宇宙での半導体製造に関する覚書を締結するなど、宇宙を材料の製造・実証の場として活用する事例が増えています。一方で、実証に利用できる国際宇宙ステーション(ISS)は2030年代の退役が見込まれており、材料・部品を宇宙で試して地上に回収する機会をどう確保するかは、各国に共通する課題となっています。DNPとElevationSpaceの今回の提携は、こうした実証から分析までを国内で一貫して担う体制の整備を目指すものです。国内で宇宙実証・回収の選択肢が広がることは、宇宙産業への参入を目指す企業にとって新たな後押しとなりそうです。今後の展開が注目されます。