静岡大、核融合炉プラズマ対向材料のヘリウム照射影響を評価──タングステン合金の水素滞留を解明
要約
静岡大学理学部の大矢恭久准教授の研究グループは、米国サンディア国立研究所、中国合肥工業大学との共同研究として、核融合炉のプラズマ対向材料であるタングステン(W)およびW-10%レニウム(Re)合金への重水素・ヘリウム混合プラズマ照射実験を実施し、水素同位体の滞留挙動へのヘリウム照射および照射欠陥の影響を評価しました。研究成果は2026年6月7日、Elsevierの国際学術雑誌「Journal of Nuclear Materials」に掲載されました(DOI:10.1016/j.jnucmat.2026.156805)。本共同研究は、日米共同研究FRONTIER計画(代表:東北大学 波多野雄治教授)および中国合肥工業大学との共同研究の一環として実施されました。
研究のポイント
サンディア国立研究所の装置で重水素・ヘリウム混合プラズマ照射
タングステンおよびW-10%Re合金を試料として、日本のイオン照射研究施設(TIARA)でFe²⁺イオン照射により中性子照射で生じる照射欠陥を模擬した後、米国サンディア国立研究所のプラズマ駆動透過装置(DPE)に導入して重水素とヘリウムの混合プラズマを照射しました。その後、サンディア国立研究所と静岡大学の高温昇温脱離法(TDS)で滞留量を計測し、ヘリウム照射および照射欠陥が水素滞留挙動へどのように影響するかを評価しました。
W-10%Re合金は照射欠陥による重水素滞留量の増加が抑制
タングステン単体では照射欠陥が重水素の滞留量を大きく増加させました。一方、W-10%Re合金では照射欠陥の形成と安定性が抑制されるため、重水素滞留量の増加は大幅に抑えられ、すべての損傷レベルで単体タングステンよりも著しく低くなりました。ヘリウム滞留量は両試料とも照射損傷への依存性が弱く、大きな変化は見られませんでした。このことから、ヘリウムは照射欠陥ではなく、ヘリウムバブルなどの安定なトラップに滞留することが示唆されます。
ヘリウムバブルが拡散障壁として機能することを示唆
W-10%Re合金に対してヘリウム濃度を変えたプラズマ照射を行ったところ、ヘリウム濃度が高いほど重水素の滞留量は減少しました。ヘリウム照射により形成されたヘリウムバブルが、重水素の拡散障壁として作用したためと考えられます。ただし、この拡散障壁の効果は照射欠陥による滞留量増加の効果よりも小さく、損傷材の重水素滞留は、プラズマ中のヘリウム濃度よりも照射欠陥の寄与が大きいことが明らかになりました。
静岡大学について
静岡大学は、静岡県内に2キャンパスを構える国立の総合大学です。7学部・5研究科・1研究院を擁し、約1万人以上の学生が学んでいます。今回の研究は、理学部・大矢恭久准教授の研究グループが、米国サンディア国立研究所、中国合肥工業大学との共同で実施しました。
FrontJournalからひとこと
核融合発電では、重水素とトリチウムを核融合反応させて熱を取り出す方式が主流の研究対象です。炉壁に用いるプラズマ対向材料には、高融点で低スパッタ率のタングステンが有力候補とされていますが、実機ではプラズマからの水素同位体・ヘリウム照射と、中性子照射による損傷を同時に受けます。今回の研究は、こうした実機に近い条件で、材料内部にトリチウムがどれだけ残るか(トリチウム管理)を予測するための基盤データを積み上げたものです。W-10%Reという合金化により照射欠陥に伴う水素滞留の増加が抑えられる点は、核融合炉の運転と燃料管理を考える上で示唆に富みます。
