KAICO株式会社(KAICO Ltd.)|「カイコによるタンパク質生産」を研究

KAICO株式会社(KAICO Ltd.)

KAICO「カイコによるタンパク質生産」を研究|研究領域=カイコの体内でタンパク質を生産/強み=複雑な抗原でも高い成功率/将来性=試薬から家畜とヒトのワクチンへ

企業紹介|KAICO株式会社とは?

医薬品やワクチンの原料となるタンパク質を生産する技術として、注目を集める「カイコによるタンパク質生産」。KAICO株式会社は、その「カイコによるタンパク質生産」の社会実装を目指す、九州大学発のライフサイエンス系ディープテック企業です。タンパク質の受託発現や研究用試薬、ブタ用飼料添加物「KAICO Powder」等を、研究機関や畜産の現場へ提供しています。

キーワード「カイコによるタンパク質生産」

「カイコによるタンパク質生産」は、目的の遺伝子を組み込んだバキュロウイルスをカイコに感染させ、その体内で組換えタンパク質を得る生産方法です。特徴は、微生物や培養細胞では生産が難しいタンパク質でも、高い成功率で得られる点にあります。ワクチンや診断薬の開発現場では、必要なタンパク質を確保する手段として利用できます。

市場課題|タンパク質の生産と供給

現状のタンパク質生産の課題|現状は、抗原が作りにくく注射の手間も残る/微生物発現系は複雑な抗原に不向き/注射の投与に人手と低温が要る

作りにくい抗原で開発が遅れる

ワクチンや診断薬の開発では、目的のタンパク質を思うように得られず、計画が滞ることがあります。大腸菌や酵母を使う微生物発現系は扱いやすい一方、複雑な立体構造を持つタンパク質は生産しにくいためです。必要な量と品質が揃わなければ、動物試験も臨床評価も進みにくくなります。

冷蔵と人手が要り普及しにくい

家畜の感染症対策で使われてきた注射ワクチンは、投与に手間と設備を要します。1頭ずつ注射する人手が必要なうえ、接種まで低温を保つ流通、いわゆるコールドチェーンも欠かせないためです。獣医や設備の整わない地域ほど、必要な予防が行き渡りにくくなります。

発生する感染症は地域や年で変わり、必要な抗原を速やかに用意できるかも課題です。他にも、生産設備の増設に要する時間、開発の初期から求められる品質の管理、新しい感染症が現れたときの対応の速さ、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 抗原免疫が目印として認識する物質。ワクチンは病原体の一部を抗原に使い、体内に免疫の反応を起こさせる。
  • 発現導入した遺伝子の情報をもとに、生物にタンパク質を作らせること。目的のタンパク質を得る工程そのものを指す。
  • 組換えタンパク質目的の遺伝子を別の生物に導入して生産させたタンパク質。ワクチンの抗原や診断薬の材料として広く利用される。
  • バキュロウイルス昆虫に感染するウイルスの一群。ヒトには感染せず、目的の遺伝子を運ぶ道具として広く利用される。
  • コールドチェーン製造から使用まで低温を保って運ぶ流通の仕組み。温度で品質が変わるワクチンの輸送に欠かせない。

KAICOの強み|カイコによる生産

KAICOが「カイコによるタンパク質生産」を開発|今後は、カイコの体内で抗原の生産が可能に/生きたカイコが複雑な抗原を合成/カイコの粉末を常温で飼料に混ぜる

カイコの体内で抗原を生産

微生物を使う発現系で生産しにくいタンパク質は、昆虫細胞や動物細胞の培養で作られてきましたが、無菌の設備と継続的な管理が欠かせません。

同社が使うのは「カイコ-バキュロウイルス発現系」です。九州大学が独自に整備したバキュロウイルスゲノムからウイルスを作り、カイコに感染させると、体内で目的のタンパク質が生産されます。生きたカイコそのものが、タンパク質を作るバイオリアクターです。微生物や培養細胞と比べて高い発現成功率が期待でき、翻訳後修飾も糖鎖以外は動物細胞と同様とされています。ノロウイルスのウイルス様粒子(VLP)を高い収量で得たことも、専門誌「Vaccine」で報告されています。

飼料に混ぜて常温で投与

注射は投与のたびに人手を要し、接種まで温度を保つ必要があります。

同社のブタ用飼料添加物「KAICO Powder」は、カイコの蛹を粉砕した粉末です。免疫の維持を支える成分は、蛹の体内で生産させたものです。粉末は常温で保管と流通ができるため、飼料に混ぜて与えれば、注射器やコールドチェーンの体制がなくても投与できます。ベトナムでは2024年9月に飼料添加物として登録され、同年10月からは北部の畜産企業DABACO Groupで、合計2,000頭規模の実証試験が始まりました。試験では、投与の簡便性と、体重の増加などの有効性・安全性を確認するとしています。

FrontJournalの解説
  • カイコ-バキュロウイルス発現系九州大学が独自に整備したバキュロウイルスゲノムを用いる発現系。生きたカイコを生産の場として使う点が特徴。
  • バイオリアクター生物や酵素の働きを利用して物質を作る装置や仕組み。ここでは生きたカイコが生産の場となる。
  • 翻訳後修飾生産された直後のタンパク質に糖や脂質などが付加される変化。修飾の有無で働きや安定性が変わるため重要になる。
  • 糖鎖タンパク質に付く糖のつながり。付き方によって体内での働きや安定性が変わるため、医薬品では重要になる。

タンパク質生産の未来|医療と畜産への応用

カイコのタンパク質が変える未来|試薬からブタ用の粉末まで、用途が広がる/研究の現場へ試薬として届く/ブタ用の粉末がアジアへ広がる/ヒト用の経口ワクチンを目指す

研究用試薬や診断薬に供給

カイコで生産したタンパク質は、すでに研究用試薬や診断薬の材料になっています。同社の事業の柱の一つが、タンパク質の受託発現です。受託では、依頼者が求めるタンパク質をカイコで発現させ、精製した状態で届けます。設備を持たない研究機関でも、微生物発現系では生産が難しかったタンパク質の供給を受けられます。

ブタ用飼料添加物を海外展開

ブタ用の「KAICO Powder」は、アジアでの展開が進んでいます。ベトナムに続き、2026年3月にはタイでも現地企業AMCOVETとの共同で、約300頭規模の農場での評価が始まりました。台湾では現地企業のReber Geneticsと2026年3月に提携の覚書を交わし、同年6月に販売の基本契約を結びました。飼料に混ぜる形なら、専門の人材が限られる地域でも扱いやすくなります。

ヒト用経口ワクチンを目指す

同社が目指すのは、ヒト用の経口ワクチンの実用化です。カイコの蛹で生産した抗原を使い、予防の手段が限られるノロウイルスへの対応を研究しています。投与にかかる負担が小さいことも、飲む形の利点です。同社は、GMP(医薬品の製造と品質管理の基準)に対応した本社の設備と久留米ラボで開発を進め、動物用の知見をヒト用へ広げることを目指します。

FrontJournalの解説
  • 受託発現依頼を受けて目的のタンパク質を発現・精製し、必要な量を供給するサービス。設備を持たない研究機関も利用できる。
  • 経口ワクチン注射ではなく口から投与するワクチン。注射器や打ち手を要さないため、投与の負担を抑えやすい。

会社概要|KAICOの事業内容・設立背景

九州大学の研究から事業化

KAICO株式会社は、2018年4月2日に福岡市で設立されました。技術の源は、九州大学 大学院農学研究院の日下部研究室が進めてきたカイコの研究です。九州大学はカイコの研究を100年以上続け、約450の系統を保有しています。その資源を医薬品や診断薬の材料の生産へつなぐことが、設立の目的です。

公的支援と海外連携で開発

開発を支えているのは、国の支援と海外企業との連携です。同社はNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「ディープテック・スタートアップ支援事業」に採択され、2025年には量産化の実証を行う段階へ進みました。2026年6月には福岡市の「High Growth Program」にも選ばれました。

累計約13.9億円の調達を完了

同社は2025年4月に、シリーズBラウンド(量産の体制を整える段階の資金調達)で5.4億円の資金調達を完了しました。株式の発行による累計の調達額は約13.9億円(2025年4月時点)で、主にブタ用「KAICO Powder」の事業化と量産化に使うとしています。2021年12月には総合商社の双日も出資し、アジアの畜産へ届ける連携を進めています。

会社情報

会社名KAICO株式会社(KAICO Ltd.)
所在地福岡市西区九大新町4-1(本社・GMP生産設備)。同5-5(研究所)。久留米市百年公園1-1(久留米ラボ)。
設立2018年4月2日
代表代表取締役 大和 建太
調達2020年5月にシリーズAで2.6億円、2025年4月にシリーズBで5.4億円等。株式による累計は約13.9億円(2025年4月時点)。
投資家2020年=FFGベンチャービジネスパートナーズ、九州広域復興支援投資事業有限責任組合、東京センチュリーなど。2021年=双日など。2025年=伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、東京センチュリー、アグリビジネス投資育成、DGインキュベーション、肥銀キャピタル、佐銀キャピタル&コンサルティング、JMTCキャピタル。
連携九州大学 日下部研究室。DABACO Group(ベトナム・2,000頭規模の実証)。Reber Genetics(台湾・販売の基本契約)。AMCOVET(タイ・約300頭規模の評価)。
技術領域カイコ-バキュロウイルス発現系による組換えタンパク質の生産。受託発現、試薬・診断薬・医薬品原料の製造販売、動物用とヒト用のワクチン開発等。
採択NEDO「ディープテック・スタートアップ支援事業」(2025年に量産化の実証へ)。中小企業庁 Go-Tech事業。福岡市「High Growth Program」。
URLhttps://www.kaicoltd.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

絹の生産を担ってきたカイコが、医薬品や診断薬の材料を生み出す場になっています。100年以上かけて集めた系統が、そのまま産業の土台になりました。面白いのは、同社が生産の難しさと流通の制約に、一つの生産基盤から手を打っている点です。

カイコで抗原を得るだけでなく、飼料添加物にして届けるところまでが設計の範囲です。だからこそ、粉末は設備が限られる地域にも届きやすくなります。動物用の実績が、ヒトの経口ワクチンへつながる日を楽しみに待ちます。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

この企業の方へ

内容に誤り・更新が必要な点があれば、可能な限り速やかに修正します。お気づきの点はお問い合わせまでご連絡ください。

掲載情報の修正・写真の追加・更新はこちら

この企業について、
もっと深く知りたい方へ

パートナーシップ・お問い合わせはこちらから。