ヴェルヌクリスタル「結晶材料」を研究

ヴェルヌクリスタル株式会社

ヴェルヌクリスタル「結晶材料」を研究|研究領域=形と大きさを・そろえた結晶/強み=有害物質を選び・溶媒なしで製造/将来性=水と電池の・現場へ応用

企業紹介|ヴェルヌクリスタル株式会社とは?

水の浄化から電池の製造まで、素材の性質を起点に課題を解決する手段となる「結晶材料」。ヴェルヌクリスタル株式会社は、その社会実装を目指す、信州大学発の素材系ディープテック企業です。結晶の性質を設計して有害物質を選んで取り除く水処理システムと、有機溶媒なしの電池電極の製造プロセスを、水の確保が課題となる事業者や電池メーカーに向けて開発しています。

キーワード「結晶材料」

「結晶材料」は、原子が規則正しく並んだ固体で、大きさや形をそろえることで、用途に応じて特定の機能を最大化できる材料です。同社は、「フラックス法」(原料粉末をフラックスと呼ぶ物質に加熱して溶かし、冷却などで結晶を育てる方法)で、大きさと形をそろえた結晶を育てています。容器と加熱源があれば結晶を育てられる点が、この方法の特徴です。

市場課題|水処理と電池の製造に残る、設備と溶媒の負担

現状の浄水と電極の課題|現状は、設備と溶媒の負担で、水処理と電極製造が重い|有害物質の除去が・水の利用を左右/電極の製造は・溶媒の乾燥が重い

有害物質の除去が水の利用を左右

水に含まれる有害物質を除去できるかが、使える水源を左右します。深井戸の地下水では鉄やマンガンの除去が、飲み水ではフッ素やヒ素を含む陰イオン(負の電気を帯びたイオン)の除去が課題になります。フッ素やヒ素は、長期に摂取すると健康被害が出るとされる物質です。

電極の製造は溶媒の乾燥が重い

リチウムイオン電池の電極製造では、有機溶媒の乾燥に大きな設備とエネルギーが必要になる点が課題です。主流の方式は、材料を有機溶媒に混ぜたスラリー(液体に粒子を混ぜた泥状の材料)を塗って乾かすものです。毎分100 mの速さで塗り、乾燥に約1分を要する生産では、100 m以上の炉と溶媒の回収設備が要ります。このため、電池のコストと製造時のCO2排出を下げにくくなります。

他にも、緊急時に事業継続に必要な水を確保する難しさ、水処理設備の重量作業や点検作業の負担、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • スラリー固体の粒子を液体に分散させた泥状の混合物である。電池の電極製造では、活物質などを有機溶媒に混ぜたものを金属箔に塗り、乾燥させて電極にする。

ヴェルヌクリスタルの強み|「結晶材料」を研究

ヴェルヌクリスタルが「結晶材料」を研究|今後は、設備と溶媒の負担軽減が可能に|結晶の設計で・有害物質を除去/溶媒なしで・電極を製造

結晶設計で有害物質を選び除去

従来法に比べ、同社は、深井戸で問題になる鉄やマンガンの除去を、よりコンパクトでシンプルなシステムで実現できるとしています。

同社は、結晶のイオン交換特性(結晶が内部のイオンを放出し、水中の別のイオンを取り込む性質)を設計します。この結晶は、取り除きたい物質(鉄やマンガン、フッ素やヒ素を含む陰イオンなど)を選択的に取り込みます。同社は、化学薬品を使用しないプロセスを構築できるとのことです。電気やガスなどの負荷が低く、使う場所や環境を選びません。専門知識や資格を伴う複雑な作業を削減でき、重量作業や点検作業を削減できるケースもあります。

有機溶媒なしで電極を製造

従来の方式は、有機溶媒で材料を混ぜて塗り、乾燥炉で溶媒を飛ばして回収するため、炉と回収設備が欠かせません。

同社は、溶媒なしで、従来法と同じ電池特性が得られるとする電極の製造プロセス(ドライプロセス)を開発しました。中心となる工程は、正極活物質(電気を蓄える主材料)とバインダー(粒子を結びつける接着成分)の複合化(溶媒を介さずに粉末どうしを結びつける工程)です。この方式は、乾燥炉と溶媒回収設備を不要にすることを目指しています。同社は現在、量産に向けた加工性の向上に取り組んでいます。製造に使うエネルギーとCO2排出量を減らし、電池の価格を抑えやすくする狙いです。

FrontJournalの解説
  • イオン交換固体が内部のイオンを放出し、代わりに水中の別のイオンを取り込む現象である。結晶の構造によって取り込むイオンの種類が決まり、特定の物質を選択的に除去できる。

結晶材料の未来|水と電池の現場への応用

結晶材料が変える未来|水と蓄電池の課題解決を目指す|1日10kgの・製造量を検証/2027年度に・加工受託を計画/安全な水と・蓄電の普及へ

1日10kgの製造量を検証

同社は、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)の事業で、ドライプロセス向けの複合材料について、1日10 kgの製造量の検証を前倒しで達成しました。複合材料は、正極活物質とバインダーを複合化した材料で、電極の原料になります。同事業は、生産量の目標をフェーズAの1日1 kgからフェーズBの1日10 kgへ引き上げ、最終的に連続方式へ移行する計画です。フェーズAは2024年10月から2025年9月まで、フェーズBは2025年11月から2027年10月までの事業期間です。

2027年度に少量を加工受託

ドライプロセス向けの複合材料(前述の正極活物質とバインダーを複合化した材料)の少量の加工受託は、2027年度に始める計画です。2028年度は、加工を依頼する企業の状況を見て量産設備への投資を判断します。2029年度には、小規模な事業化へ進む計画です。

安全な水と蓄電の普及を目指す

同社は、「結晶材料による社会課題の解決と価値の創造」を掲げ、水と蓄電池の両方で事業を進めています。水処理の目標は、フッ素やヒ素などを水源から取り除き、どのような地域にも安全・安心な水を提供することです。蓄電池では、シリコン系負極材料を使う環境省の研究開発事業に参画し、再生可能エネルギーの出力変動を平準化する蓄電システムの社会実装を目指します。同事業の期間は、2025年10月から2.5年です。

会社概要|ヴェルヌクリスタルの事業内容・設立背景

信州大学の結晶育成研究から設立

同社は2022年1月11日に設立され、信州大学発ベンチャーに認定されました。CTOの手嶋勝弥は、様々な機能性結晶材料の実践的な研究開発実績を持つ創業者の一人です。代表取締役の田中厚志は、富士通で材料研究に携わり、大学発のイノベーション創出プロジェクトのマネージャーを務めた経歴を持ちます。社名は、フランスの作家ジュール・ヴェルヌの言葉「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」に由来します。

公的事業の採択と表彰

2023年に内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で「マテリアルユニコーン予備軍」に採択され、2024年にはNEDOの新エネルギーベンチャー向け事業の社会課題解決枠フェーズAに採択されました。2025年9月にはフェーズBに採択され、同年10月には、信州大学が代表機関を務める環境省の研究開発事業に、鳥取大学、早稲田大学、TDK株式会社とともに参画しています。2024年と2025年は、スタートアップと大手企業、投資家が集う催し「ILS」のTop100に選ばれました。

実験データを活用した材料創製

同社は、10万点を超える結晶育成の実験データを持ち、インフォマティクス(情報科学を材料開発に使う手法)を用いて、目的の機能を持つ材料の創製に取り組んでいます。事業内容は、機能性材料の開発・製造・販売、材料を用いた機器や部品の設計・製造・販売、関連するソフトウェアやデータサービスの提供、技術やノウハウの供与とコンサルティングです。2026年6月1日には、ヴェルヌアクア株式会社とヴェルヌエナジー株式会社を吸収合併し、存続会社となりました。

会社情報

会社名ヴェルヌクリスタル株式会社(Verne Crystal Inc.)
所在地長野県長野市若里4丁目17番1号 信州大学工学部内 UFO405
設立2022年1月11日
代表代表取締役 田中 厚志。CTO 手嶋 勝弥
資本金1,000万円
従業員10名(2025年9月時点)。公式サイトでは、業務委託等を含め18名(2025年1月時点)
事業水処理事業。エネルギー事業。機能性材料の開発・製造・販売。技術やノウハウの供与とコンサルティング
技術領域フラックス法による結晶育成。イオン交換体(水処理)。リチウムイオン電池電極のドライプロセス
連携信州大学(2022年に信州大学発ベンチャーに認定)。環境省の研究開発事業で鳥取大学、早稲田大学、TDK株式会社と参画
採択内閣府SIP「マテリアルユニコーン予備軍」(2023年)。NEDO新エネルギーベンチャー向け事業フェーズA(2024年)・フェーズB(2025年)。環境省 令和7年度「地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」(2025年)
URLhttps://vernecrystal.co.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

水処理装置も電池の製造工場も、使う素材が変われば、設備や作業の負担が変わります。「結晶材料」は、その負担に素材の側から取り組む技術領域です。素材の変更が現場の重量作業や溶媒の回収を減らせるかが、評価の焦点になります。

同社は、水処理と電池という異なる現場で、結晶材料の設計と電極のドライプロセスに取り組んでいます。事業は、機能性結晶材料の研究開発実績を持つCTOと、材料研究の経歴を持つ代表が率いる体制です。研究室の成果を事業へ橋渡しする方法の一例でもあります。

溶媒なしの電極製造が量産へ進む日を、期待しています。安全な水が設備や環境に左右されず届く日も、編集部は待っています。公的事業の成果報告が続く今後の動きも、引き続き確認対象です。

FrontJournal編集部

出典:経済産業省 大学発ベンチャーデータベース2026

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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