アイクリスタル株式会社はプロセスインフォマティクスで製造条件を最適化する名古屋大学発スタートアップ

アイクリスタル株式会社

アイクリスタル「プロセスインフォマティクス」を研究|研究領域=製造条件をAIで探索最適化する技術/強み=計算時間を約1/1,000に短縮/将来性=工場全体を再現し仮想空間で最適化

企業紹介|アイクリスタル株式会社とは?

試作の回数を減らし、最適な製造条件を短期間で見つける技術として、注目を集める「プロセスインフォマティクス」。アイクリスタル株式会社は、その「プロセスインフォマティクス」の社会実装を目指す、名古屋大学発のディープテックスタートアップです。製造条件を解析するコンサルティングを製造の現場へ提供し、工場全体を最適化する「メタファクトリー」を開発中です。

キーワード「プロセスインフォマティクス」

「プロセスインフォマティクス」は、物理シミュレーションと機械学習を組み合わせて、最適な製造条件を探索する情報技術です。特徴は、材料そのものではなく「どう作るか」という工程を対象にする点にあります。半導体ウェーハや電子部品の現場で、試作の回数を抑えながら、温度や時間の条件を絞り込めます。

市場課題|製造条件の探索に要する時間

現状の製造条件の決め方の課題|試作を繰り返すため開発が長期化/熟練者の判断に依存し継承が難しい

試作の繰り返しで開発が長期化

半導体や電子部品の製造では、量産の条件を決めるプロセス開発(どう作るかを設計する工程)が、試作の繰り返しで進むため長期化します。装置の構造、温度、時間、消耗部材の違いによって結果が変わり、条件の組み合わせは膨大です。試作の回数が増えるほど、材料費と装置の稼働時間の負担が大きくなります。

製造条件の決定が属人化

製造条件の決定は熟練技術者の判断に委ねられており、技術の継承が困難です。その条件が良い根拠は数値として残りにくく、担当者が交代すると同じ品質を再現しにくくなります。熟練技術者の退職が進むと、長年かけて積み上げた条件の知見が失われかねません。

他にも、工程ごとに担当部署が分かれることで生じる部分最適、メーカーごとに形式が異なる製造データの整備、精度を上げるほど長い計算時間を要する物理シミュレーション、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • プロセス開発材料や製品そのものではなく、それをどの装置で、どの温度と時間で製造するかを決める工程を指す。量産の品質と生産効率を左右するため、半導体や材料の分野では開発期間の多くを占める。

アイクリスタルの強み|製造条件の高速探索

アイクリスタルが「プロセスインフォマティクス」を研究|数時間の計算を代替し高速に条件探索/熟練者の意図を学習し品質を再現する

計算の代替で条件探索を高速化

物理シミュレーションは現象を精密に再現できる一方、条件を1つ変えるたびに数時間の計算を要することがあります。

同社が使うのは、シミュレーションの入力と出力の関係を機械学習で近似したサロゲートモデル(代理モデル)です。実験と計算のデータを学習させると、条件を入れるだけで結果の予測値が返ります。同社の実証では、従来のプロセスシミュレーターに比べて計算時間を約1/1,000に短縮しました。さらにベイズ最適化(確率モデルの予測をもとに次に試す条件を選ぶ手法)を重ね、少ない試行で目標の性能に届く条件を絞り込む仕組みです。試作の前に計算の上で条件を絞り込めるため、試作の回数を減らせます。

熟練者の意図を学習し品質を再現

製造の現場で集まるデータは限られており、機械学習だけでは十分な精度に届きにくいという制約があります。

同社は、限られた実験データに熟練技術者の意図を組み合わせて学習させ、デジタルツイン(仮想空間に再現した製造工程)の精度を高めています。工程ごとのデジタルツインを相互に接続し、工場全体を一つの系として最適化する基盤が「メタファクトリー」です。実証では、シリコンウェーハの製造からCMOSイメージセンサー(光を電気信号に変える半導体素子)の完成までの合計30工程を、仮想空間で接続しました。この実証の試作品では、従来品と比べてノイズ特性が約70%改善しました。

FrontJournalの解説
  • サロゲートモデル物理シミュレーションの入力と出力の関係を、機械学習で近似したモデル。本来は数時間を要することもある計算を短時間で代替できるため、膨大な条件の組み合わせを比較できる。

製造最適化の未来|産業への広がり

最適な製造条件が変える未来|排ガス浄化の部材を短い期間で評価/量産条件を決める半導体の工程へ/工程をつないで工場全体を最適化

排ガス浄化部材の評価を短縮

自動車の排ガス浄化に使うセラミック部材の開発では、同社の解析が評価にかかる時間を短縮しています。NGK(旧・日本ガイシ)との取り組みでは、従来1〜2週間を要していた評価期間が最短1日に短縮されました。解析が速いほど、設計の見直しを同じ期間により多く重ねられる点が利点です。浄化の性能を保ちながら、部材の設計を詰める作業を進めやすくなります。

半導体の量産条件へ展開

同社の解析は、半導体の量産条件を決める工程へ広がっています。2026年4月末までの実績は、累計63社・140件のプロジェクトです。試作の回数が減れば、量産までの期間も短縮できます。工程ごとの条件が数値として残るため、担当者が交代しても品質を再現しやすくなります。

工場全体の最適化を目指す

同社が目指すのは、「工程ごとの部分最適を超えて、工場全体を一つの系として最適化すること」です。「メタファクトリー」では、複数の工程のデジタルツインを接続し、仮想空間で製造を試せます。上流の条件が下流の品質にどう効くかを、量産に入る前に確かめられる点が利点です。製造業の開発期間と資源の消費を抑える基盤として、対象の産業を広げることを目指しています。

会社概要|アイクリスタルの事業内容

名古屋大学の研究から創業

アイクリスタル株式会社は、2019年11月に名古屋市で設立されました。代表取締役の髙石将輝氏が、名古屋大学在学中の研究を発展させて事業化したことが出発点です。本社は、名古屋大学東山キャンパスの産学融合拠点(大学と企業が共同で研究する施設)「TOIC」に置かれています。取締役には、名古屋大学未来材料・システム研究所で結晶成長を研究する宇治原徹教授が加わっています。

採択・連携

2023年度から2024年度にかけて、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託事業に参画しました。名古屋大学未来材料・システム研究所、グローバルウェーハズ・ジャパン、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリングとの共同研究です。テーマは、シリコンウェーハからCMOSイメージセンサーまでの工程の最適化でした。2024年には、週刊東洋経済(ビジネス週刊誌)の「すごいベンチャー100」に選ばれました。

資金調達の経緯

2024年2月に、第三者割当増資(新たに株式を発行して出資を受ける方法)で2.7億円を調達しました。引受先は、SBIインベストメント、ディープコア、STATION Ai等です。2025年9月には、ジャフコ グループ、SBIインベストメント、ディープコアを引受先として総額4.5億円を調達しました。2025年9月の調達資金は、「メタファクトリー」の開発・販売の強化と、人材採用に充てられます。

会社情報

会社名アイクリスタル株式会社(aixtal)
所在地愛知県名古屋市千種区不老町1番 名古屋大学TOIC
設立2019年11月8日
代表代表取締役:髙石 将輝
取締役:宇治原 徹(名古屋大学未来材料・システム研究所 教授)
調達2024年2月 第三者割当増資 2.7億円(SBIインベストメント/ディープコア/STATION Ai等)。2025年9月 第三者割当増資 総額4.5億円(ジャフコ グループ/SBIインベストメント/ディープコア)
事業プロセスインフォマティクスによるコンサルティング(受託解析)。PI教育。プロセス全体最適化プラットフォーム「メタファクトリー」の開発
技術領域プロセスインフォマティクス、サロゲートモデル、ベイズ最適化、デジタルツイン、結晶成長
連携名古屋大学未来材料・システム研究所/グローバルウェーハズ・ジャパン株式会社/ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング株式会社/NGK株式会社(旧・日本ガイシ株式会社)
採択NEDO委託事業(2023〜2024年度)/週刊東洋経済「すごいベンチャー100」2024年版
URLhttps://aixtal.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

製造の条件を決める作業は、長いあいだ熟練技術者の経験とともに積み上げられてきました。アイクリスタルが手がける「プロセスインフォマティクス」は、その経験を、計算とデータで扱える形に翻訳する試みです。名古屋大学の結晶成長研究を起点にしながら、対象がセラミック部材や半導体の量産工程まで広がっている点に、技術の応用の幅がうかがえます。

注目したいのは、単なる解析の受託ではなく、工程をつないで全体を最適化する基盤へ踏み出している点です。工程ごとに最適でも全体では最適にならない、という製造業の長年の課題に、仮想空間の接続という方法で向き合っています。仮想空間で試せる範囲が広がるほど、現場での試作は減らせます。

名古屋から生まれた技術が、日本の製造業における開発の進め方をどこまで変えていくのか。今後の展開を注視したいところです。

FrontJournal編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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