電気自動車の充電時間の短縮をめざす全固体電池を研究する QuantumScape(米国発)

電気自動車の充電時間の短縮をめざす「全固体電池」を研究【QuantumScape|米国発】

電気自動車(EV)の普及にともない、電池を大きくせずに航続距離を延ばし、充電時間を短くすることが自動車業界の課題になっています。この課題に挑むのが、米国のクアンタムスケープ(以下QuantumScape)です。同社が「全固体電池」と呼ぶ電池は、正極と負極をセラミックの固体の膜で隔て、充電すると負極側にリチウム金属の層ができる仕組みで、現在は試作電池の段階にあります。2026年6月には本田技術研究所との共同研究契約を発表し、フォルクスワーゲングループの電池会社PowerCoとも量産に向けて協業しています。

リチウムイオン電池の課題

QuantumScapeの紹介と、負極の黒鉛が電池を大きく重くし、黒鉛に代わる金属負極は短絡しやすいという課題を示す図

負極の黒鉛で電池が大きく重い

EVのリチウムイオン電池は、負極(マイナス極)にリチウムを蓄える黒鉛などのホスト材料を使い、この材料が電池の体積と重さを増やしています。ホスト材料は電池のコストを押し上げ、リチウムが負極の中を移動する速さが電池の出力の上限を決めます。このままでは、航続距離を延ばそうとするほど電池が大きく重くなります。

黒鉛に代わる金属負極は短絡しやすい

黒鉛に代えて負極をリチウム金属にするとエネルギー密度を大きく高められますが、充電を繰り返すとデンドライト(樹枝状の結晶)が成長します。液体の電解液と多孔質のセパレータ(正極と負極を隔てる膜)を使う従来の構造では、デンドライトが膜を貫いて短絡(ショート)を起こすおそれがあります。短絡は発熱や発火につながる場合があり、このままではリチウム金属負極を車載用に使いにくい状態が続きます。

FrontJournalの解説
  • エネルギー密度電池の体積や重さあたりに蓄えられるエネルギーの量。値が大きいほど、同じ大きさの電池でEVが長く走れる。
  • デンドライト充電のときに負極の表面でリチウムが木の枝のように伸びた結晶。正極まで届くと電池の内部で短絡が起きる。

QuantumScapeが「全固体電池」を研究

全固体電池の研究を示す図。不燃性のセラミック膜を採用し、製造時に負極を持たないアノードレス構造でエネルギー密度と急速充電を両立する

課題解決に挑むQuantumScape

QuantumScapeは、リチウム金属を負極に使う「全固体電池」を研究し、EV向けの電池セルを開発している企業です。2010年に設立され、米国カリフォルニア州サンノゼに本社を置き、2020年に上場して2025年12月に上場先をナスダックへ移しました。出発点はスタンフォード大学で、米国証券取引委員会(SEC)に提出された上場時の投資家向け資料によれば、同大学のフリッツ・プリンツ氏、ティム・ホーム氏と、ジャグディープ・シン氏の3人が大学から独立する形で創業しました。

不燃性のセラミック膜を採用

中核技術は、セパレータをセラミックの薄い膜にした固体電解質セパレータです。この膜はリチウムイオンを通しながら、デンドライトが膜を貫通するのを抑え、リチウム金属の負極を充放電で繰り返し使えるようにします。同社はこのセラミックを不燃性と説明し、従来のリチウムイオン電池より安全性を高められるとしています。なお、現在の試作電池は正極側に有機系の液体電解質を使っており、正極側の固体化は研究段階です。

アノードレスで高密度と急速充電

製造時に負極を持たない「アノードレス」構造では、ホスト材料が要らないため、負極の材料費を減らしながら体積あたりのエネルギーを高められます。最初の充電で正極から移動したリチウムが負極側の集電体(電気を取り出す金属箔)の上に析出し、これが負極になります。2024年10月に出荷を始めた電池セル「QSE-5」の試作品(Bサンプル)は、同年12月の発表で体積エネルギー密度約844Wh/L、10%から80%までの充電約12分を示しました。

FrontJournalの解説
  • アノードレスアノードは負極のこと。製造時には負極の材料を入れず、最初の充電で正極から来たリチウムが負極になる構造を指す。
  • Wh/L電池1リットルあたりに蓄えられる電力量(ワット時)。体積エネルギー密度の単位で、値が大きいほど電池を小さくできる。

全固体電池の未来

全固体電池の未来を示す図。試作電池を載せた電動バイクが走行し、提携先の工場での大規模生産をめざし、本田技術研究所と共同研究契約を結んだ

試作電池でバイク走行が可能に

2025年9月、ドイツで開かれた「IAA Mobility」(国際モビリティ見本市)で、「QSE-5」の試作品を載せたドゥカティの電動バイクが走行しました。フォルクスワーゲングループとPowerCoとの共同の実演で、同社の電池で車両を動かす初めての公開デモでした。車載用の量産が実現すれば、充電の待ち時間が短いEVが選択肢に加わる可能性があります。

提携先の工場での大規模生産を目指す

同社はライセンス方式で、提携先の電池工場での大規模生産を目指しています。膜を製造する新工程「Cobra」は2025年6月に試作の標準工程へ組み込まれ、従来の工程と比べて熱処理(膜を高温で加熱する工程)の速さが約25倍になりました。2026年2月には「Cobra」を組み込んだ自動化試作ライン「Eagle Line」をサンノゼで開所し、村田製作所や米コーニングとも膜の量産に向けて協業しています。製造工程の検証が進めば、提携先がそれぞれの工場で「全固体電池」を生産する道が開けます。

本田技術研究所と共同研究で提携

QuantumScapeは2026年6月、本田技術研究所との複数年の共同研究契約を発表しました。ホンダによる技術評価を経た契約で、電池と製造工程の開発に取り組みます。PowerCoとは2024年から量産に向けて協業しており、2026年7月の契約改定で、電池の納入と検証などの節目に応じて最大約7,540万ドル(約113億円)を受け取る形に改めました。同社は日本と欧州の自動車メーカーとの開発を通じて、「全固体電池」の車載化を進める計画です。

FrontJournalの解説
  • ライセンス自社が持つ特許やノウハウを他社が使うことを認める契約。技術を使う側は、販売量などに応じた使用料(ロイヤルティ)を支払う。

まとめ

「全固体電池」は、EVの航続距離の延長と充電時間の短縮に向けて開発が進む段階にあります。QuantumScapeはセラミックの膜とアノードレス構造を組み合わせ、試作ライン「Eagle Line」で量産に向けた製造工程を検証しています。同社は本田技術研究所やPowerCoとそれぞれ契約を結び、日本の村田製作所も膜の量産に向けた協業先の一社です。FrontJournal編集部は、「全固体電池」がEVの充電の待ち時間を短くする選択肢として実用化されることに期待しています。

※ 本記事は同社の公式発表とSECへの提出書類をもとに、FrontJournal編集部が再構成したものです。性能の数値は試作品の公表値です。ドルの円換算は1ドル=約150円で概算しています。
主な出典:QuantumScape ニュースリリース、Form 10-K(2025年度)、Form 10-Q(2026年6月期)、株主向けレター、上場時の投資家向け資料(2020年)。

この記事の作者

FrontJournal編集部

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本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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