トウモロコシ由来の糖から化学品を製造するバイオものづくりを実用化した Solugen(米国発)

化学品の脱炭素へ「バイオものづくり」を実用化【Solugen|米国発】

洗剤や水処理剤、肥料などに使う化学品の多くは石油や天然ガスから製造され、製造時のCO2排出が課題になっています。この課題に挑むのが、米国のSolugenです。細胞を使わず、酵素と金属触媒の反応だけでトウモロコシ由来の糖を化学品に変える「バイオものづくり」を実用化し、テキサス州ヒューストンの工場で製品を販売しています。2024年6月には、ミネソタ州の新工場に向けて、米エネルギー省から約2億1,360万ドル(約320億円)の融資保証(借入金の返済を国が保証する仕組み)について条件付き承認を得たと発表しました。

化学品製造の課題

Solugenの紹介と、石油に依存した化学品の製造でCO2が増え、化学産業のエネルギー消費が産業部門で最大である課題を示す図

石油依存の製造でCO2が増加

化学品の多くは石油や天然ガスを原料と燃料に使って製造されており、需要の拡大とともにCO2の排出も増えています。IEA(国際エネルギー機関)の2018年の報告書によると、化学産業の原料の約9割は石油と天然ガスで、世界の石油需要の約14%を化学産業が占めます。同じ報告書は、化学産業を産業部門で3番目にCO2を多く排出する分野とし、石油化学製品が2050年までの石油需要の増加の約半分を占めると見込んでおり、需要が伸びるほど脱炭素が遠のく恐れがあります。

エネルギー消費が産業で最大

IEAは、化学産業を産業部門で最大のエネルギー消費者と位置づけています。その消費の約半分は、燃やさずに製品の原料として使う石油や天然ガスが占めます。原料と燃料の両面で化石資源への依存が続く限り、化学品の脱炭素は進みにくくなります。

FrontJournalの解説
  • IEA国際エネルギー機関。各国のエネルギー需給や排出の統計と見通しを公表する国際機関で、各国政府の政策の参考にされている。
  • 石油化学製品石油や天然ガスを原料として製造するプラスチック、合成繊維、洗剤の原料などの総称。ペットボトルの樹脂や衣類のポリエステルが身近な例である。

Solugenが「バイオものづくり」を実用化

Solugenのバイオものづくりが、酵素と触媒で製造時の加熱を削減し、短い工程で原料から製品へ変えることを示す図

課題解決に挑むSolugen

Solugenは、トウモロコシ由来の糖を原料に、酵素と金属触媒を組み合わせて化学品を製造する米国の企業です。2016年にゴーラブ・チャクラバルティ氏とショーン・ハント氏が創業し、テキサス州ヒューストンに本社を置きます。創業の出発点は2つの大学の研究を組み合わせた発想で、テキサス大学サウスウェスタン医療センターでは過酸化水素を生成する酵素を、マサチューセッツ工科大学(MIT)では金属触媒による過酸化水素の製造を研究していました。

酵素と触媒で製造時の加熱を削減

同社の製造設備「Bioforge(バイオフォージ)」は、まず酵素を入れた反応器で糖を酸化し、続いて金属触媒でほぼ最終製品まで変換します。酵素は生きた細胞から取り出した状態で使うため、微生物を育てる発酵法とは異なり、反応器の中で微生物を培養しません。同社は、最初の酵素反応を少ないエネルギー投入で進められ、後段の金属触媒も低い温度で狙った物質を多く得られるよう設計したとしています。燃料を燃やして高温を得る工程が少なければ、製造時のエネルギーとCO2の排出を抑えやすくなります。

短い工程で原料から製品へ

同社によると、「バイオものづくり」の反応の後の工程は、水を取り除く蒸発器と、固体の製品にする結晶化装置だけです。工程が短いため、設備をモジュール(規格化した単位の設備)として組み立てやすくなります。同社は、この設備を各地に素早く建てられるとしています。

FrontJournalの解説
  • 酵素生物の体内で化学反応を速めるたんぱく質。特定の物質だけに働くため、目的の反応を選んで進めやすい。消化酵素が身近な例である。
  • 金属触媒金属を使い、自らは変化せずに化学反応を速める物質。自動車の排ガスを浄化する装置にも使われている。
  • 発酵法微生物を育て、その働きで原料を目的の物質に変える製法。酒やしょうゆの製造と同じ原理で、工業用の化学品の製造にも使われる。

バイオものづくりの未来

バイオものづくりで身近な化学品の置き換えを見込み、穀倉地帯での化学品製造を目指し、約300億円の資金を調達したことを示す図

身近な化学品を置き換えへ

「バイオものづくり」が広がれば、水処理や農業、洗浄など身近な分野の化学品を低炭素のものへ置き換える選択肢が増えます。同社の発表では、ヒューストンの最初の工場は2022年11月時点で約1年稼働しており、大量に流通する汎用化学品と、特定の用途向けの特殊化学品を販売していました。米エネルギー省の資料によると新工場ではグルコン酸などの有機酸を製造する計画で、有機酸は水処理や農業、建設、パーソナルケアなどに使われます。石油由来の製品と同じ用途で使えれば、利用者は現場の作業を大きく変えずに、調達する化学品のCO2排出を減らせる可能性があります。

穀倉地帯での化学品製造を目指す

同社は、トウモロコシの産地で原料を受け入れ、その場で化学品を製造する姿を目指しています。2024年4月には、ミネソタ州マーシャルで新工場「Bioforge Marshall」に着工し、同月時点の計画では2025年秋に生産を始める予定でした。新工場は穀物大手ADMのトウモロコシ加工施設に隣接し、全面稼働時にはADMから年間約1億5,000万ポンド(約6.8万トン)のデキストロースを受け入れて、3本の生産ラインで年に最大約12万トンの製品を製造する計画です。同社は、類似の石油化学品や発酵法の製品と比べて、年に最大約1.8万トンのCO2排出を避けられると見込んでいます。

約300億円の資金を調達

同社は2022年11月、2億ドル超(約300億円)の資金調達を発表し、評価額は20億ドル超(約3,000億円)に達しました。2021年9月にも、シンガポールの政府系ファンドGICなどから3億5,000万ドル超(約525億円)を調達しています。新工場の建設にはリードで触れた融資保証も充てる計画ですが、正式な契約にはさらに条件を満たす必要があります。民間の資金と公的な支援で工場が増えれば、石油由来の化学品に代わる製品を米国内で供給する拠点が広がります。

FrontJournalの解説
  • 有機酸炭素を骨格にもつ酸の総称。酢の成分である酢酸や、かんきつ類に含まれるクエン酸が代表例で、グルコン酸はブドウ糖を酸化して得られる。
  • デキストロースブドウ糖の別名。トウモロコシのでんぷんを分解して製造され、食品や発酵の原料として広く流通している。
  • 融資保証企業が金融機関から借りたお金を返せなくなったとき、保証する側が代わりに返済を約束する仕組み。保証があると、大規模な工場の建設資金を借りやすくなる。
  • 評価額投資家が資金調達の時点で見積もった企業全体の価値。上場前の企業では、出資額と渡す株式の割合から計算される。

まとめ

化学品の多くは石油や天然ガスを原料としており、原料の転換は化学産業の脱炭素に欠かせないテーマです。Solugenは細胞を使わずに酵素と金属触媒を組み合わせ、トウモロコシ由来の糖から短い工程で化学品を製造する「バイオものづくり」を実用化しました。ヒューストンの工場での販売に続き、穀倉地帯のミネソタ州で新工場の建設を進めています。水処理剤や肥料など日常を支える化学品の原料を植物由来の糖へ広げる取り組みは、化学品を使う多くの産業の脱炭素に関わります。FrontJournal編集部は、「バイオものづくり」が化学品の脱炭素を進める選択肢の一つになることに期待しています。

※ 本記事は各社の公式発表・主要報道をもとに、FrontJournal編集部が再構成したものです。数値は各社・各機関の公表値です。円換算は1ドル=約150円で概算しています。
主な出典:Solugenのプレスリリース(2021年9月9日・2022年11月2日・2024年4月11日・2024年6月13日)、Solugen公式サイト、米エネルギー省「DOE/EA-2246」、IEA「The Future of Petrochemicals」(2018年)。

この記事の作者

FrontJournal編集部

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