化学肥料の一部を置き換える微生物肥料を実用化した Pivot Bio(米国発)

化学肥料を減らす「微生物肥料」を実用化【Pivot Bio|米国発】

世界の食料生産を支える窒素肥料は、その多くが作物に吸収されないまま畑の外へ失われ、水質の悪化温室効果ガスの排出につながっています。この課題に挑むのが、米国のピボット・バイオ(以下Pivot Bio)です。作物の根に住みつき、空気中の窒素をアンモニアに変えて届ける「微生物肥料」を実用化し、トウモロコシや小麦、綿花の農家へ販売しています。

窒素肥料の課題

Pivot Bioの紹介と、作物が吸収する窒素は約半分にとどまり、肥料の製造に大量のエネルギーを使う課題を示す図

作物が吸収する窒素は約半分

畑にまいた化学窒素肥料のうち、作物が吸収する窒素は約半分にとどまるとされます。残りは硝酸塩(窒素と酸素を含み水に溶けやすい物質)として川や地下水へ流れ出たり、亜酸化窒素(N2O)として大気へ放出されたりします。このままでは水質汚染や温暖化が進み、農家が支払った肥料代の一部も収穫に結びつかないままです。

肥料の製造に大量のエネルギー

化学窒素肥料の製造には大量のエネルギーが必要で、その多くを化石燃料に頼っています。空気中の窒素からアンモニアを合成するハーバー・ボッシュ法は、世界のエネルギー消費の約1〜2%を占めるとされます。原料の水素を主に天然ガスから製造するため、肥料の価格は天然ガスの価格や国際情勢に左右されやすく、農家は経営の計画を立てにくい状況に置かれます。

FrontJournalの解説
  • 亜酸化窒素窒素と酸素からなる気体で、一酸化二窒素とも呼ぶ。100年間の温室効果で比べると二酸化炭素の約273倍にあたり(IPCC第6次評価報告書)、畑の余った窒素肥料から土の微生物の働きで発生する。
  • ハーバー・ボッシュ法高温・高圧のもとで窒素と水素を反応させ、アンモニアを合成する製法。化学肥料の大量生産を可能にしたが、原料の水素を主に天然ガスから得るため、多くのエネルギーを使う。

Pivot Bioが「微生物肥料」を実用化

Pivot Bioの微生物肥料が、根元で窒素を供給して施肥を削減し、遺伝子編集によって既存の施肥と併用できることを示す図

課題解決に挑むPivot Bio

Pivot Bioは、空気中の窒素を作物の根元でアンモニアに変える「微生物肥料」を開発・販売する米国の企業です。2011年にカリフォルニア州バークレーで創業し、2026年3月には本社をミネソタ州ミネトンカへ移しました。出発点はカリフォルニア大学バークレー校で行われた合成生物学(遺伝子を設計し直して生物に新しい働きを持たせる研究分野)の研究で、創業期にはビル&メリンダ・ゲイツ財団の助成を受けました。

根元で窒素を供給し施肥を削減

「微生物肥料」の微生物は作物の根に住みつき、根から出る糖を栄養にして空気中の窒素をアンモニアに変え、作物へ届けます。同社の説明では、畑にまとめてまく化学肥料と違って生育の期間を通して根元で窒素を供給するため、雨で流れ出たり大気へ逃げたりする窒素の損失を抑えられます。主力の「PROVEN 40」は、1エーカー(約4,047平方メートル)あたり最大40ポンド(約18kg)の化学窒素肥料を、収量を落とさずに置き換えられるとされる製品です。マサチューセッツ工科大学の紹介記事によると、これはトウモロコシが必要とする窒素の約4分の1に相当します。

遺伝子編集で既存の施肥と併用

同社の微生物は窒素の多い畑でも窒素固定を続けるため、農家はこれまでの施肥計画を大きく変えずに、化学肥料の一部を「微生物肥料」へ置き換えられます。土の中の窒素固定菌は通常、土に窒素が多いとエネルギーを節約するために窒素固定を止めてしまいます。同社は外部の遺伝子を加えない遺伝子編集でこの働きを外し、窒素の多い環境でも固定を続ける菌株(同じ性質をもつ菌の系統)を作りました。2024年には学術誌「Scientific Reports」で、この菌株を使ったトウモロコシで化学窒素肥料の一部を置き換えられたとの研究成果を発表しています。

FrontJournalの解説
  • 窒素固定空気中の窒素ガスを、生物が利用できるアンモニアに変える働き。マメ科植物の根に住む根粒菌が代表例。トウモロコシなどの根の周りにも窒素固定菌はいるが、土に窒素が多いと固定を止めるため、肥料を使う畑では供給量が限られる。
  • 遺伝子編集生物がもともと持つ遺伝子の一部を狙って削ったり並べ替えたりする技術。他の生物の遺伝子を組み込む遺伝子組換えとは区別される。
  • エーカー米国などで使われる面積の単位。1エーカーは約4,047平方メートル。

微生物肥料の未来

微生物肥料が種まきと同時の施用を可能にし、農家への窒素の安定供給を目指し、DCVCなどから資金を調達したことを示す図

種まきと同時の施用が可能に

種に微生物を付ける種子処理により、農家は種をまくと同時に「微生物肥料」を畑に入れられるようになりました。同社は2025年11月、種まき機の種子箱で種に微生物をまぶす乾燥タイプの製品を発表し、2026年の作付けに向けて販売しています。植え付けの作業に新たな工程を足さずに使える点が特長です。畑で別に散布する手間が要らないため、広い農場でも導入の負担を抑えられます。

農家への窒素の安定供給を目指す

同社は、「微生物肥料」を化学窒素肥料の部分的な代替として広め、農家が必要な窒素を安定して手に入れられる体制を目指しています。現地誌の報道によると、ミズーリ州セントルイス近郊の工場は約3,500万エーカー分の製品を供給でき、同社はトウモロコシ、小麦、綿花の米国内の約1億5,000万エーカーへ対応できる規模に広げる計画です。販売地域も北米に加え、ブラジルへの展開を準備しています。2026年4月には製造と研究の拠点を広げ、全米の農家が窒素を確実に入手できる体制づくりを進めるとしました。

DCVCなどから資金を調達

同社は2021年7月、米国のベンチャーキャピタルDCVCとシンガポールの政府系投資会社テマセクが主導する資金調達で約4億3,000万ドル(約645億円)を集め、累計の調達額は6億ドル(約900億円)を超えました。この調達には、ビル・ゲイツ氏が設立したブレークスルー・エナジー・ベンチャーズなども参加しています。製品の利用面積は2023年度に500万エーカーを超え、売上高は初めて1億ドル(約150億円)を上回りました。資金をもとに製造と研究の拠点を広げることで、より多くの畑へ「微生物肥料」を届けられるようになります。

FrontJournalの解説
  • 種子処理種をまく前に、薬剤や微生物を種の表面に付けておく方法。種まきと同時に施用でき、畑で別に散布する作業を省ける。
  • テマセクシンガポール政府が出資する投資会社。世界の企業に長期で投資し、食料や農業の分野にも出資している。

まとめ

窒素肥料は食料生産を支える一方で、作物に吸収されない分が水や大気へ流れ出し、製造にも大量のエネルギーを使います。Pivot Bioは、作物の根元で窒素を供給する「微生物肥料」を実用化し、化学窒素肥料の一部を置き換える製品を米国の農家へ届けています。種まきと同時に使える製品や生産拠点の拡大により、利用できる作物と面積も広がりつつあります。日本も尿素など化学肥料の主な原料のほぼ全量を輸入しており、施肥の効率化は共通の課題です。FrontJournal編集部は、「微生物肥料」が化学肥料と組み合わせて使う窒素の供給源として広がることに期待しています。

※ 本記事は各社の公式発表・主要報道をもとに、FrontJournal編集部が再構成したものです。数値は各社・各媒体の公表値で、1ドル=約150円で換算しています。
主な出典:Pivot Bioのプレスリリース(2021年7月19日・2023年8月29日・2025年11月13日・2026年3月4日・2026年4月28日)、MIT Technology Licensing Office、Scientific Reports(2024年)、IPCC第6次評価報告書、St. Louis Magazine(2026年)、農林水産省「肥料をめぐる情勢」。

この記事の作者

FrontJournal編集部

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