Smart119|千葉大学発の「救急医療DX」を研究するディープテック企業

株式会社Smart119(スマートイチイチキュー)

Smart119「救急医療DX」を研究|研究領域=救急隊や病院をつなぐ情報共有/強み=音声入力とAIで救急隊を支援/将来性=各地の救急へ展開を目指す

企業紹介|Smart119とは?

通報から搬送までの情報を、指令センター・救急隊・医療機関がデジタルで共有する「救急医療DX」。株式会社Smart119は、その社会実装を目指す、千葉大学発のAI系ディープテック企業です。音声入力とAIで、救急搬送を支えるシステム「Smart119」を開発しました。2025年にアンクスと事業譲渡契約を結び、現在はアンクスの完全子会社です。

キーワード「救急医療DX」

救急医療DXは、デジタル技術で救急搬送と救急医療の仕事の進め方を変える取り組みです。電話と紙で進めてきた傷病者の情報のやり取りを、タブレットの画面で関係者が同時に見られる形に置き換えます。119番通報から病院に着くまでの各段階の所要時間を短縮し、傷病者を早く適切な病院へ運ぶことが目的です。

市場課題|救急出動の増加と電話での病院探しに課題

現状の救急搬送の課題|現状は、出動が増え収容時間が延び病院探しの電話にも時間/救急出動が増え収容時間も増加/病院探しの電話に時間

救急出動が増え収容時間も増加

救急車の出動件数は近年増加し、119番通報から病院収容までの時間も延びました。2024年の救急自動車の出動は771万8,380件で、1963年の集計開始以降で最多でした。通報から医師に引き継ぐまでの病院収容所要時間は平均約44.6分と2019年より約5.1分長く、治療の開始が遅れかねません。

病院探しの電話に時間

従来の方式では、救急隊が搬送先の病院に電話で1件ずつ連絡し、症状を口頭で伝えて受け入れの可否を確かめています。断られた場合の次の病院への説明も、同じ作業の繰り返しです。照会(受け入れの可否の問い合わせ)が重なるほど、救急隊が現場にとどまる時間は長くなり、傷病者を病院へ運ぶのが遅れる恐れがあります。

他にも、救急隊が搬送後に書く報告書の作成負担、病院で医師へ引き継ぐ手続きの時間、災害時に大勢の傷病者の情報をまとめる難しさ、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 病院収容所要時間119番通報を受けてから、救急隊が傷病者を病院の医師に引き継ぐまでにかかった時間。消防庁が毎年集計しており、救急搬送の速さを測る代表的な指標として使われている。

Smart119の強み|「救急医療DX」を研究

Smart119が「救急医療DX」を研究|現在は、AIと音声入力で救急支援を提供/AIの需要予測で救急隊を配置/音声入力で複数病院へ一斉連絡

AIの需要予測で救急隊を配置

救急要請がいつ・どこで多くなるかを事前に見込めないと救急隊を効率よく配置しにくく、要請が集中した地域では現場への到着が遅れやすくなります。

同社は、過去の救急出動データを機械学習(大量のデータから規則性を学ぶAIの手法)で解析し、救急要請が多くなる時間と場所を前もって予測する「救急需要予測AI」を開発しました。地域を2km四方の区画に分け、4時間ごとの救急要請の件数を地図の上に示す仕組みです。消防本部は、この予測を救急隊の配置を決める判断材料に使えます。要請が増えそうな区画の近くに救急隊を置いておけば、救急車が現場に着くまでの時間を短縮でき、通報した人がより早く処置を受けられるようになります。

音声入力で複数病院へ一斉連絡

電話による病院照会では、救急隊が傷病者の情報を口頭で伝えるため、病院を変えるたびに同じ説明を繰り返すことになります。

同社の救急医療情報システム「Smart119」は、指令センター・救急隊・医療機関が同じ傷病者の情報を画面で共有する仕組みです。救急隊が話した内容は音声認識で文字になり、保険証の文字はカメラで読み取られ、心電図モニターのバイタル値(脈拍などの測定値)も連携して自動で取り込まれます。入力した情報は複数の医療機関へ同時に送られ、各病院は受け入れの可否をオンラインで回答する流れです。救急隊は病院ごとに電話で説明し直す手間を減らせるため、現場にとどまる時間の短縮につながります。

FrontJournalの解説
  • 音声認識人が話した声をコンピューターが解析し、文字のデータに変換する技術。救急の現場では、隊員が話した内容がそのまま記録になるため、タブレットへの手入力の手間を減らせる。

未来|救急医療DXが搬送の速さと災害時の対応を支える

救急医療DXが変える未来|千葉県から各地へ、救急と災害を支援/千葉県の救急で導入済み/災害時の傷病者情報を集約/100自治体への導入を目指す

千葉県の救急で導入済み

「Smart119」は、千葉県の消防本部と病院で使われているシステムです。千葉大学と千葉市消防局による3年間の協働を経て、2020年7月に千葉市消防局へ導入されました。2023年4月からは千葉県の事業として、県内31の消防本部の救急隊227隊と150の医療機関へ順次広がっています。県内の救急隊は、傷病者の情報を複数の病院へ同時に送り、画面で受け入れの回答を受け取れるようになりました。

災害時の傷病者情報を集約

「Smart119」の事業を持つアンクスは2026年9月、災害や大規模事故の現場向けに「トリアージアプリ」の提供を始めました。トリアージ(傷病者を重症度で振り分けて治療の順番を決めること)の結果を、赤・黄・緑・黒の4区分でタブレットやスマートフォンに記録する仕組みです。各隊の結果は1つの画面に集まり、救急隊・指揮本部・病院が同じ情報で判断できます。「Smart119」には、お薬手帳の読み取りや各社の生体情報モニターとの連携も加わる予定です。

100自治体への導入を目指す

アンクスは、「Smart119」を100の自治体へ導入することを目指しています。県外では、福島県の郡山地方広域消防組合が2026年2月に「Smart119」の本格運用を始め、神奈川県川崎市も2023年4月から救急需要予測AIを使っています。導入地域が増えるほど、救急隊と病院が同じ情報で動ける範囲も広がる見込みです。住む地域にかかわらず、早く適切な病院で治療を受けられることが期待されます。

会社概要|株式会社Smart119

千葉大学の救急医が創業

同社は2018年5月、千葉大学大学院医学研究院 救急集中治療医学の中田孝明氏(当時講師、現教授)が設立しました。救急医として働くなかで、急患を受け入れる準備が連絡の手間で遅れることに問題意識を持ったことが起業のきっかけです。中田氏は先に、救急時に病院の職員を呼び集める仕組み「ACES」を開発しています。その発想を病院の外へ広げ、救急隊と病院が情報を共有する「Smart119」の開発に取り組みました。

AMEDの研究開発に採択

「Smart119」の研究開発は、2016年にAMED(日本医療研究開発機構)の事業に採択されて始まりました。2016年10月から2019年3月までは千葉大学が代表機関(研究全体の責任を負う機関)を務め、2019年10月から2021年3月までは同社が代表機関となり、救急医療の予測アルゴリズム(計算の手順)を研究しました。この研究の成果の一つが、機械学習で脳卒中を病院に着く前に見分けるアルゴリズムで、2021年に論文で報告されています。2021年8月には、ニッセイ・キャピタルなどから総額約3億円の資金調達を実施しています。

アンクスの完全子会社に

同社は2025年6月、「Smart119」の事業を鹿児島市のシステム開発会社である株式会社アンクスへ譲渡する契約を結びました。2026年4月にはアンクスが同社の株式をすべて取得し、同社はアンクスの完全子会社になっています。アンクスには、「Smart119」を扱うSmart119事業部が置かれています。登記上の本店所在地は、鹿児島県鹿児島市です。

会社情報

会社名株式会社Smart119(Smart119 inc.)
所在地鹿児島県鹿児島市千日町13番18号(登記上の本店)
設立2018年5月
調達2021年8月に総額約3億円。2026年4月から株式会社アンクスの完全子会社
事業救急医療情報システム「Smart119」の開発(2025年6月にアンクスと事業譲渡契約を締結)
技術領域音声認識による救急活動の記録、救急需要予測AI、転院搬送予測AI、救急隊と医療機関の情報共有
連携千葉大学(創業者の中田孝明氏が大学院医学研究院 救急集中治療医学の教授)
採択AMED 研究開発事業(2016年10月〜2019年3月・代表機関 千葉大学/2019年10月〜2021年3月・代表機関 Smart119)
URLhttps://smart119.biz/

編集後記|FrontJournal編集部より

Smart119は、救急医が現場で感じた連絡の手間を、音声認識とAIで減らそうとして生まれた仕組みです。電話で1件ずつ病院を探すやり方を、関係者が同じ画面を見る形に変えた点に、救急の現場を知る医師ならではの発想が表れています。複数病院への一斉連絡は現場にとどまる時間を、AIによる需要予測は現場に着くまでの時間を縮めるもので、2つの救急支援の技術は同じ目的に向かっています。

大学の研究から始まった事業は、アンクスのもとで100の自治体への導入を目指しています。救急医療をデジタルで支える取り組みがどこまで広がり、搬送の時間をどれだけ縮めるのか、今後の導入の広がりに注目していきます。

FrontJournal編集部

出典:経済産業省 大学発ベンチャーデータベース2026

出典:「Gビズインフォ」(経済産業省)(2026年9月28日に利用)を加工して作成

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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