衛星を静止軌道まで運ぶ軌道間輸送を研究する Impulse Space(米国発)

衛星を1日で静止軌道へ運ぶ「軌道間輸送」を研究【Impulse Space|米国発】

静止軌道を使う衛星は打ち上げの後、数か月かけて移動するのが一般的で、運用開始までの待ち時間が課題です。この課題に挑むのが、米国のインパルス・スペース(以下Impulse Space)です。ロケットが届けた衛星を目的の軌道へ運ぶ「軌道間輸送」を研究し、高エネルギー軌道へ運ぶ機体「Helios」で、低軌道から静止軌道まで24時間以内の輸送を目指しています。2026年6月には、シリーズDで5億ドル(約750億円)の資金調達を発表しました。

衛星の軌道移動の課題

Impulse Spaceの紹介と、衛星が目的の軌道まで数か月を要し、高い軌道への直接投入は費用が膨らむことを示す図

目的の軌道まで数か月を要する

静止軌道などを使う衛星は、ロケットが投入する軌道から電気推進で数か月かけて上がることが一般的です。電気推進は燃料が少なくて済む反面、推力が小さいため、Impulse Spaceによると従来は6〜9か月かかっていました。このままでは、衛星の運用開始が遅れ、収益化や観測の開始も後ろ倒しになります。

高い軌道への直接投入は高額

静止軌道のような高い軌道へは、ロケットから衛星を直接投入する方法もあります。ただし、これには高い能力を持つロケットが必要で、打ち上げの費用が膨らみやすくなります。このままでは、小型の衛星を運用する企業や政府機関ほど、軌道の選択に制約を受け続けます。

FrontJournalの解説
  • 静止軌道赤道の上空約3万6,000kmを回る軌道。地球の自転と同じ周期で回るため、地上からは衛星が止まって見え、通信や気象観測に使われる。GEOとも呼ぶ。
  • 電気推進電気の力でガスなどを噴き出して進む推進方式。燃料が少なくて済むが、推力が小さく、軌道の上昇に時間がかかる。

Impulse Spaceが「軌道間輸送」を研究

軌道間輸送の研究を示す図。化学推進の機体Heliosが衛星を24時間以内に静止軌道へ運び、機体の大半を社内で製造する

課題解決に挑むImpulse Space

Impulse Spaceは、打ち上げ後の衛星を目的の軌道へ運ぶ「軌道間輸送」を研究する米国の企業です。創業は2021年で、創業者兼CEOのTom Mueller氏は、SpaceXで推進系の技術責任者を務め、Falcon 1、Falcon 9、Falcon Heavy、Dragonの推進系の開発を主導しました。本社はカリフォルニア州のレドンドビーチにあり、機体の大部分を社内で設計・製造・試験しています。

化学推進で軌道上昇を短縮

同社の機体Heliosは、衛星を目的の軌道へ送り出すキックステージで、化学推進の力により、最終軌道まで短時間で運ぶ設計です。中型のロケットに載せて打ち上げ、低軌道で分離した後にエンジンを点火し、最大4,000kgの荷物を24時間以内に低軌道から静止軌道まで運べます。エンジンの推力は67キロニュートン(約6.8トン重)で、液体酸素と液体メタンを使い、複数回の点火にも対応可能です。従来は電気推進で6〜9か月かかっていた軌道の上昇を、1労働日程度に縮められるとしています。

社内製造とMiraの飛行実績

同社は、精密な軌道変更に使う機体Miraを複数回飛行させ、実績を重ねています。Miraは記録的な軌道変更に加え、他の機体に自律的に近づくランデブーと近接運用など、複雑な軌道上の運用を行いました。2026年6月時点の飛行済みミッションは3回で、Miraの飛行で得た知見を、Heliosの開発に生かすとしています。

FrontJournalの解説
  • キックステージロケットで運んだ衛星を、目的の軌道へ送り出す最後の段。打ち上げ後に自らエンジンを点火して軌道を変える。
  • 化学推進燃料と酸化剤を燃やして噴射する推進方式。推力が大きく、短時間で軌道を変えられる。
  • 低軌道(LEO)地上から約2,000km以下の軌道。多くの人工衛星や国際宇宙ステーションが回る。

「軌道間輸送」の未来

軌道間輸送の未来を示す図。国家安全保障の打ち上げ計画に選定され、相乗りで輸送費の低減を目指し、シリーズDで資金を調達した

国家安全保障の打ち上げにも対応

軌道間輸送により、政府の衛星を必要な軌道へ素早く運ぶ運用が可能になります。同社は2026年7月、米国宇宙軍の国家安全保障向けの打ち上げ計画「NSSL Phase 3 Lane 1」に、Heliosを使う事業者として選定されたと発表しました。宇宙システム軍団の部署からは、同軍団の計画「VICTUS SALO」の2回目・3回目の任務向けに2,800万ドル(約42億円)の契約延長も受けています。日本からも、再利用型の宇宙輸送を目指すニュージーランドのDawn AerospaceへANA未来創造ファンドが出資しています。

相乗り輸送で費用の低減を目指す

同社は、衛星の相乗りを集める専用の計画「Caravan」で、静止軌道などの高い軌道への輸送費の低減を目指しています。1機のHeliosに複数の衛星を載せれば、1機あたりの費用を抑えられる見込みです。1社で貸し切る専用便、主な衛星に同乗する便、同社が取りまとめる相乗り便の3つの形で受け付け、顧客の目的に合う方法を選べます。国内では、東北大学発のElevationSpaceがNXグループやパーソルなどから出資を受け、宇宙物流を進め、DigitalBlastはJAXAの宇宙戦略基金で軌道上データセンターの構築技術に参画しています。

約1,200億円を調達し製造を拡大

同社は2026年6月、シリーズDで5億ドル(約750億円)を調達したと発表しました。137 VenturesとBANNER VCが共同で主導し、Founders Fund、Lux Capital、Linse Capitalも参加して、累計は10億ドル(約1,500億円)を超えました。9月には3億800万ドル(約460億円)の追加調達を発表し、シリーズD全体は8億800万ドル(約1,200億円)です。資金は、人員の採用と製造能力の拡大に充てます。

FrontJournalの解説
  • NSSLNational Security Space Launch(国家安全保障宇宙打ち上げ)の略。米国の宇宙軍が、軍事・諜報の衛星を打ち上げる事業者を選ぶ計画。
  • シリーズDスタートアップの資金調達の段階を示す呼び方。シリーズA、B、Cの後に、事業の拡大や量産のために資金を集める段階を指すことが多い。

まとめ

衛星の軌道移動は、数か月かかる電気推進と、費用が膨らむ直接投入のどちらかに頼ってきました。Impulse Spaceは、化学推進のHeliosで、低軌道から静止軌道まで24時間以内の輸送を目指しています。米国の国家安全保障向けの打ち上げ計画に選ばれ、シリーズD全体で8億800万ドルを調達しました。日本でも、宇宙分野の事業を進める企業が使える補助金・助成金を、企業向け情報で一覧できます。FrontJournal編集部は、「軌道間輸送」が衛星の運用開始を早める手段になることに期待しています。

※ 本記事はImpulse Spaceの公式発表をもとに、FrontJournal編集部が再構成したものです。数値は同社の公表値です。ドルの円換算は1ドル=約150円で概算しています。1機のHeliosの能力や初飛行の時期(2027年予定)は、同社の計画値です。
主な出典:Impulse Space 公式サイト(会社概要・シリーズD・シリーズD追加調達・Heliosの紹介)。

この記事の作者

FrontJournal編集部

ディープテックを、ビジネスパーソンの視点でわかりやすく紹介するメディアです。

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

この企業の方へ

内容に誤り・更新が必要な点があれば、可能な限り速やかに修正します。お気づきの点はお問い合わせまでご連絡ください。

掲載情報の修正・写真の追加・更新はこちら