地方の空の便を低コストにする電動航空機を研究する Heart Aerospace(スウェーデン発)

地方の空の便を低コストにする「電動航空機」を研究【Heart Aerospace|スウェーデン発】

燃料費の上昇などにより、小型機で運航する地方路線の維持が航空会社の課題になっています。この課題に挑むのが、電池や発電機の電力でモーターを動かし、プロペラを回す「電動航空機」を研究するハート・エアロスペース(以下Heart Aerospace)です。2026年8月には実証機「X1」が電池の電力だけで初飛行し、同社は電池だけで飛んだ航空機として過去最大と発表しました。同年9月には、2028年後半の初飛行をめざして開発中の量産機「ES-36」の設計を発表しています。

地域航空の課題

Heart Aerospaceの紹介と、燃料費の上昇で地方路線の採算が悪化し、近くの空港に定期便が少ないという地域航空の課題を示す図

燃料費が上がり採算が悪化

燃料費の上昇により、小型のリージョナル機(地域航空機)で運航する地方路線の採算が悪化しています。Heart Aerospaceによると、世界のジェット燃料価格は2026年8月7日までの1週間の平均で1ガロン(約3.8リットル)あたり約3.5ドル(約525円)となり、前年より約63%上がりました。燃料費の上昇は、1便あたりの乗客が少ない地方路線ほど採算に響きます。

近くの空港に定期便が少ない

米国では、住まいの近くに空港があっても、定期便が飛ぶ空港は一部にとどまります。Heart Aerospaceが引用するマッキンゼーの2022年の報告によると、米国の人口の約9割は地域の空港から30分以内に住む一方、約5,000の公共用空港のうち定期便がある空港は約500です。定期便のない地域の人は、遠くの大きな空港まで移動してから飛行機に乗ることになります。

FrontJournalの解説
  • リージョナル機地方都市どうしや、地方と大都市を結ぶ短い路線に使う小型の旅客機。大都市間を結ぶ大型の旅客機に比べ、乗客1人あたりの燃料の消費が多くなりやすい。

Heart Aerospaceが「電動航空機」を研究

電動航空機の研究を示す図。電池の電力で燃料費を削減し、長い路線では発電機を併用して航続距離を延ばす

課題解決に挑むHeart Aerospace

Heart Aerospaceは、電池や発電機の電力でモーターを動かし、プロペラを回す「電動航空機」を研究し、地方路線向けの旅客機を開発する企業です。2018年にアンダース・フォースルンド氏とクララ・フォースルンド氏がスウェーデンのヨーテボリで創業し、2025年4月に本社を米国のロサンゼルスへ移しました。創業の出発点は、アンダース・フォースルンド氏が研究者として在籍したチャルマース工科大学で、スウェーデン・イノベーション庁(Vinnova)の資金を受けた電動航空の研究プロジェクト「ELISE」を中心となって進めたことにあります。

電池の電力で燃料費を削減

開発中の量産機「ES-36」は、地上で充電した機内の電池の電力だけで約200kmを飛ぶ設計で、この距離の路線では燃料を使わずに運航できるとしています。実証機「X1」は初飛行で使った電気代が約5ドル(約750円)だったと、同社は発表しました。電池だけで飛ぶ区間では飛行中にCO2を排出せず、騒音も抑えられる設計です。

発電機の併用で航続距離が拡大

長い路線では、機内の発電機が飛行中に電池の電力を補う設計です。「ES-36」は2系統の動力をもち、系統ごとに市販のガスタービンで動くターボジェネレーター(発電機)が発電し、1.65メガワットの電動モーターがプロペラを回す「シリーズハイブリッド」方式を採ります。同社はこの方式で、航続距離を約1,200kmとする設計を示しています。運航コストは、従来のリージョナル機より40%以上低くすることを目標にしています。

FrontJournalの解説
  • シリーズハイブリッドエンジンを発電だけに使い、プロペラはモーターで回す方式。エンジンが直接プロペラを回す従来の方式と異なる。
  • ターボジェネレーターガスタービンで発電機を回す装置。航空機では、長距離の飛行で電池の電力を補う。

電動航空機の未来

電動航空機の未来を示す図。実証機で旅客機規模の電池飛行が可能になり、地方空港を結ぶ低運賃の便をめざし、累計約285億円の資金を調達した

旅客機規模の電池飛行が可能に

実証機「X1」は2026年8月12日、ニューヨーク州のプラッツバーグ国際空港で、電池の電力だけで27分間の初飛行を終えました。翼幅は約32m、離陸時の重さは11トンを超え、推進系は1メガワットを超える出力を出しています。「電動航空機」が旅客機の大きさで飛べることが実証機で示され、地方空港を結ぶ便の新しい選択肢になる可能性があります。

地方空港を結ぶ低運賃の便を目指す

同社は、自宅に近い空港から、安く、多くの便に乗れる空の移動を目指しています。「ES-36」は2028年後半の初飛行と、米国連邦航空局(FAA)の型式証明を経た2031年の就航を目標にしています。「電動航空機」が普及すれば、定期便の少ない地方空港でも新たな便を運航できる可能性があります。

累計約285億円の資金を調達

Heart Aerospaceは2024年2月、1億700万ドル(約160億円)の資金調達を発表し、ユナイテッド航空やエア・カナダなどが出資しました。2025年には4,000万ドル(約60億円)の追加出資も受けています。公式サイトによると、2021年のシリーズAなどを含む累計の資金調達額は1億9,000万ドル(約285億円)です。2026年9月にはJSXが「ES-36」50機の購入契約と追加50機の購入権を結び、同社はこの資金と契約をもとに2031年の就航を目標に開発を進めています。

FrontJournalの解説
  • 型式証明新しい航空機の設計が安全基準を満たすことを、航空当局が認める証明。旅客を乗せて運航するには、この証明を取得する必要がある。
  • FAA(米国連邦航空局)米国で航空機の型式証明の審査などを担う政府機関。日本の国土交通省航空局にあたる。

まとめ

「電動航空機」は、旅客機の大きさの実証機が飛び、量産機の開発へと進む段階にあります。Heart Aerospaceは電池と発電機を組み合わせ、地方路線の運航コストを下げる設計を進めています。電動の航空機は日本でも、AirXが兵庫県の空飛ぶクルマの事業化準備事業に採択され、そらとぶタクシーが中長距離型のハイブリッドの空飛ぶクルマの国内独占契約を結ぶなど、空飛ぶクルマという別の分野で導入の準備が進んでいます。JSXとの購入契約を得た今後は、型式証明の取得が次の節目になります。FrontJournal編集部は、「電動航空機」が地方空港を結ぶ身近な移動手段になることに期待しています。

※ 本記事は各社の公式発表をもとに編集部が再構成しました。ドルの円換算は1ドル=約150円で概算しています。「ES-36」の航続距離・運航コスト・初飛行・就航の時期は同社の設計値・目標値です。創業年は法人登記と同社2021年の発表に基づきます(公式サイトの一部は2019年と記載)。「X1」の寸法は公表値を換算しました。
主な出典:Heart Aerospace 公式(ニュースリリース、Company、ES-36、Our mission)、McKinsey(2022年)。

この記事の作者

FrontJournal編集部

ディープテックを、ビジネスパーソンの視点でわかりやすく紹介するメディアです。

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

この企業の方へ

内容に誤り・更新が必要な点があれば、可能な限り速やかに修正します。お気づきの点はお問い合わせまでご連絡ください。

掲載情報の修正・写真の追加・更新はこちら