新薬や酵素の開発を速めるAIタンパク質設計を研究する Cradle(オランダ発)

新薬や酵素の開発を速める「AIタンパク質設計」を研究【Cradle|オランダ発】

抗体医薬や産業用の酵素として使うタンパク質の開発は、試作と評価の繰り返しに時間と費用がかかることが課題です。この課題に挑むのが、オランダのクレードル(以下Cradle)です。生成AIで有望なタンパク質の配列を提案する「AIタンパク質設計」を研究し、Novo Nordisk、Johnson & Johnson、Novonesisなどが同社の基盤を使っています。2024年11月には、7,300万ドル(約110億円)の資金調達を発表しました。

タンパク質開発の課題

Cradleの紹介と、タンパク質の配列の組み合わせが膨大で、試作と評価の繰り返しで開発期間が延びることを示す図

アミノ酸配列の組合せが膨大

タンパク質の働きはアミノ酸の並び順(配列)で決まり、試すべき配列の候補は膨大です。生物のタンパク質は20種類のアミノ酸が鎖状につながってできており、長さ100個の鎖だけでも、並べ方は20の100乗通りにのぼります。このままでは、実験で試せる配列はごく一部にとどまり、より性能の高い配列を見落としやすくなります。

試作と評価の繰り返しで長期化

従来の開発は、配列を少しずつ変えては試作と評価を何巡も繰り返すため、期間が延びがちです。薬や製品として使うには、標的への効き目に加えて、熱への強さや製造時の生産量など複数の性質を同時に満たす必要があり、1つの性質を高めると別の性質が下がる場合もあります。このままでは、候補が条件をそろえるまでに実験の回数が増え、開発の期間と費用が膨らみます。

FrontJournalの解説
  • アミノ酸タンパク質を形づくる部品となる分子。20種類あり、どの順番でつながるかによって、タンパク質の形と働きが変わる。

Cradleが「AIタンパク質設計」を研究

AIタンパク質設計の研究を示す図。生成AIが有望な配列の候補を提案し、自社の実験室で得たデータで予測の精度を高める

課題解決に挑むCradle

Cradleは、生成AIでタンパク質の配列を設計するソフトウェアを提供し、「AIタンパク質設計」を研究するオランダの企業です。アムステルダムに本社と自社の実験室を置き、スイスのチューリッヒにも拠点を持ちます。出発点は、Googleなどで機械学習とバイオ研究に携わったエンジニアらのチームで、2022年11月にIndex VenturesとKindred Capitalが主導した550万ユーロ(約9億円)のシード資金で事業を本格化させました。

AIで候補を絞り開発期間を短縮

Cradleの基盤は、生成AIが有望な配列の候補を提案することで、試作と評価の巡回を減らし、開発期間を短くします。同社のAIは公開されている大量のタンパク質の配列と自社の実験データで学習しており、利用者が持つ配列や目標の性質を入力すると、改良した候補の一覧を出します。効き目と安定性、生産量といった複数の性質を同時に改良でき、毎回の実験結果を次の提案に生かす仕組みです。同社は、顧客の研究開発が1.2〜12倍速くなり、費用は最大で90%減ったと公表しています。

自社の実験室でAI精度を向上

Cradleは、AIの提案を自社の実験室(ウェットラボ)で確かめることで、予測の精度を高めています。同社はアムステルダムの実験室で実測したデータを、AIの学習に戻しています。2024年12月には、Adaptyv Bioが開いたタンパク質設計コンテストで130チームの中から1位となり、標的のEGFR(上皮成長因子受容体)への結合の強さは、既存の抗体医薬をもとにした比較用の分子の約8倍でした。国内でも、東京大学のグループがAIが提案したタンパク質を96個並列で試す自動化基盤を開発しています。

FrontJournalの解説
  • 生成AI学習したデータの規則性をもとに、文章や画像などの新しいデータを生成するAI。タンパク質では、配列の並び方の規則を学び、新しい配列の候補を出す。
  • ウェットラボ試薬や細胞を実際に扱って実験する研究室。コンピューター上の計算だけで研究する「ドライラボ」と対になる呼び方。
  • EGFR上皮成長因子受容体。細胞の表面にあるタンパク質で、がん治療薬の標的として知られる。

「AIタンパク質設計」の未来

AIタンパク質設計の未来を示す図。脳の病気に向けた抗体の設計に使われ、医薬から食品、化学まで広がり、シリーズBで資金を調達した

脳の病気の抗体開発に活用

AIタンパク質設計により、脳の病気に向けた抗体医薬の候補を、少ない実験の回数で絞り込める可能性があります。デンマークの製薬会社Lundbeckは2026年6月、Cradleと提携し、中枢神経の病気を対象にした2つの抗体の開発計画で同社の基盤を使うと発表しました。Lundbeckは、実験結果をAIに戻して予測を改善する流れを、自社で初めての一貫したAI主導のタンパク質工学の手順と位置づけています。国内でも、小野薬品工業がエージェント型AIを創薬研究に導入しています。

医薬から食品まで効率化を目指す

Cradleは、抗体だけでなく酵素やワクチン、ペプチドなど幅広いタンパク質の開発に基盤を広げ、製品を市場に出すまでの時間と費用の削減を目指しています。2024年11月時点で21社を超える顧客が31種類のタンパク質の開発に使っており、医薬に加えて化学や食品、素材の分野の企業も利用しています。酵素の開発が速くなれば、洗剤や食品の加工に使う酵素の改良にかかる期間も短くなります。国内では、SyntheticGestaltが100種類のタンパク質を対象にしたAI創薬の実測データの構築を進めています。

約110億円を調達し実験室拡張

Cradleは2024年11月、シリーズBで7,300万ドル(約110億円)を調達したと発表しました。米国の投資会社IVP(Institutional Venture Partners)が主導し、Index VenturesとKindred Capitalも引き続き出資して、累計の調達額は1億ドル(約150億円)を超えています。資金は、AIの学習用データを生み出す実験室の拡張と、機械学習のエンジニアの採用に充てます。実験のデータが増えるほどAIの提案の精度が上がるため、より多くの種類のタンパク質に基盤を使える土台になります。

FrontJournalの解説
  • 抗体医薬体内で異物を見分けて結合する「抗体」というタンパク質を薬にしたもの。狙った分子にだけ結合するため、がんや自己免疫の病気などの治療に使われる。
  • シリーズBスタートアップの資金調達の段階を示す呼び方。製品が顧客に使われ始めた後、事業を広げるための資金を集める段階を指すことが多い。

まとめ

タンパク質の開発は配列の候補の多さと試作の繰り返しが時間の壁になっており、Cradleは生成AIと自社の実験室を組み合わせて、この壁を低くしようとしています。製薬大手から食品・化学の企業まで顧客が広がり、Lundbeckとの提携で脳の病気に向けた抗体の開発にも使われ始めました。日本でも、2026年10月にパシフィコ横浜でBioJapan 2026が開かれ、バイオ産業の企業どうしの商談の場が設けられました。FrontJournal編集部は、「AIタンパク質設計」が新薬や酵素をより早く届ける手段になることに期待しています。

※ 本記事はCradleの公式発表と提携先の発表をもとに、FrontJournal編集部が再構成したものです。数値は各社の公表値です。ドルの円換算は1ドル=約150円、ユーロの円換算は1ユーロ=約160円で概算しています。
主な出典:Cradle 公式ブログ(シリーズB・シリーズA・シード資金・Lundbeckとの提携・Adaptyv Bioのコンテスト・自社実験室の紹介)。

この記事の作者

FrontJournal編集部

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本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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