使用済みPETを原料に戻す酵素リサイクルを研究する Carbios(フランス発)

使用済みペットボトルを再生する「酵素リサイクル」を研究【Carbios|フランス発】

ペットボトルや衣類に使われるPET(ポリエチレンテレフタレート)は、回収されても着色や異素材の混入によって再生できる範囲が限られています。この課題に挑むのが、フランスのカルビオス(Carbios)です。同社は酵素でPETを原料まで分解し、新品同等の材料に戻す酵素リサイクルを手がけています。2026年7月には、実証プラントでの生産が100バッチ(1回分としてまとめて処理する生産の単位)に達し、ライセンス提供を繊維市場へ広げると発表しました。

PET再生の課題

Carbiosの紹介と、着色ボトルや衣類の繊維では再生できる用途が限られるという従来のPETリサイクルの課題を示す図

着色ボトルは再生しにくい

使用済みのPETは、着色されるほど再生後の用途が狭まります。着色されたボトルの買い手は同じ色を使うメーカーに限られ、透明なボトルに混ざると再生品の色が安定せず歩留まりも下がります。北米のPETボトル回収率が2024年で約30%にとどまるなか、用途の限られた着色ボトルの多くは焼却や埋め立ての対象です

衣類の繊維は再生が限られる

着なくなった衣類を繊維から繊維へ戻せる割合は、世界の繊維生産の1%未満です。多くの衣類は綿とポリエステル(PETを原料とする合成繊維)の混紡で、素材ごとに分離しにくく、粉砕して溶かし直す機械的リサイクルでは強度や色が落ちます。PETの消費のうち約3分の2は繊維が占めており、再生の用途が限られたままでは廃棄される衣類が増え続けます

FrontJournalの解説
  • PETペットボトルや衣類のポリエステルに使われる樹脂。同じ素材が容器にも繊維にも使われており、用途をまたいで大量に消費されている。
  • 機械的リサイクル回収した樹脂を粉砕・洗浄して溶かし、再び成形する方式。工程が簡単で普及している一方、繰り返すたびに分子が短くなり品質が落ちる。
  • 混紡綿とポリエステルなど、性質の違う繊維を混ぜて1本の糸や生地にしたもの。着心地や強度を高められるが、素材ごとに分けて再生するのは難しい。
  • 歩留まり投入した原料のうち、製品として使える割合。再生では、混ざり物が多いほど歩留まりが下がり採算が合いにくくなる。

Carbiosが「酵素リサイクル」を研究

酵素リサイクルの研究を示す図。酵素でPETを分解して新品同等に再生し、着色や混紡のPETも原料に戻せる

課題解決に挑むCarbios

Carbiosは、ペットボトルから衣類まで幅広いPET廃棄物を酵素で分解し、原料に戻す酵素リサイクルを研究しています。2011年にフランス中部のクレルモンフェランで創業し、ミシュランの旧工場跡地にある本社の隣で、2021年9月から実証プラントを稼働させています。

酵素で分解し新品同等に再生

同社の酵素リサイクルでは、使用済みのPETが新品同等の材料に戻ります。酵素がPETをテレフタル酸とエチレングリコールという2種類の原料まで分解し、この2種類から再びPETを合成します。同社はトゥールーズ生物工学研究所と共同で、10時間でPETの90%を分解できるところまで酵素の性能を高め、2020年に科学誌『Nature』へ発表しました。原料の段階まで戻すため、再生を繰り返しても品質は落ちにくくなります

着色や混紡でも原料に戻せる

酵素リサイクルでは、機械的リサイクルで品質を保ちにくい廃棄物も原料に戻せます。酵素は着色や汚れのあるPETにも、複数の層が重なったPETにも働き、綿と混紡された衣類ではポリエステルの部分だけを原料まで分解し、綿を残します。同社は2026年7月に、実証プラントで使用済みの繊維を24時間で95%超まで分解できたと発表しました。選別に求める条件が緩むため、これまで再生の対象外だったPETも原料として扱えます

FrontJournalの解説
  • 酵素生物が体内で生成するたんぱく質で、特定の物質だけに働いて化学反応を進める。洗剤の汚れ落としやチーズづくりにも使われており、金属の精錬など高温を要する処理に比べて低い温度で反応する点が特徴。
  • テレフタル酸とエチレングリコールPETを合成するもとになる2種類の原料。この状態まで戻せば、石油由来の原料と同じ工程で新しいPETを製造できる。

酵素リサイクルの未来

酵素リサイクルの未来を示す図。衣類の再生が可能になり、石油由来樹脂の削減を目指し、PET大手と提携して工場を建設する

衣類の再生が可能になる

着なくなった衣類を、再び衣類の原料へ戻す実証が進んでいます。同社はOn、Patagonia、PUMA、PVH Corp.、Salomonと繊維分野のコンソーシアム(複数の企業が共同で取り組む組織)を組み、2024年10月に繊維くずだけを原料とした衣類を公開しました。品質は石油由来のポリエステルと同等だったと発表されています。古着が原料として値段のつく資源になれば、消費者が着なくなった服を出す先も広がります

石油由来樹脂の削減を目指す

同社は、石油から新たに製造するPETの削減を目指しています。2026年7月にライセンス提供を繊維市場へ広げ、世界で年約6,700万トンとされるPET繊維の市場を対象に加えました。これは包装材の市場のおよそ2倍にあたります。再生した原料が石油由来の原料を置き換えるほど、ペットボトルも衣類も新たな石油の消費を抑えられます

PET大手と提携し工場を建設

同社はPET大手のIndorama Venturesと合弁(複数の企業が出資して1つの会社を設立する形)で、商業規模では初となる酵素リサイクル工場をフランスのロングラビルに建設しています。年5万トンの使用済みPETを処理する計画で、公的資金4,250万ユーロ(約73億円)が確定済みです。2026年8月に公表した資金計画の進捗では、民間の融資と出資を9月末までに確定させるのは難しい一方で、複数の銀行から与信委員会の承認を得たとしており、稼働の時期を2028年前半としています。商業規模の工場が動き出せば、酵素リサイクルは実証の段階から産業へ移ります

FrontJournalの解説
  • ライセンス提供自社が開発した技術を他社に使う権利として貸し出し、対価を受け取る事業の形。自前で工場を建てるより早く、広い地域へ技術を届けられる。
  • 与信委員会銀行が融資の可否を判断する社内の会議体。承認は融資契約に向けた一歩であり、承認だけで資金が実行されるわけではない。

まとめ

PETの再生は着色と混紡が壁でしたが、Carbiosは酵素で原料まで戻す道筋を示しました。繊維では衣類ブランドと組み、繊維くずだけを原料とした衣類を2024年10月に公開しました。一方で商業規模の工場は資金の確定と稼働の時期がずれ込み、実証から産業への移行はこれからです。日本でもペットボトルの回収は仕組みとして定着していますが、衣類の再生は課題として残ります。FrontJournal編集部は、酵素リサイクルが色や素材の壁を越えて資源の循環を広げることに期待しています。

※ 本記事は各社の公式発表・主要報道をもとに、FrontJournal編集部が再構成したものです。数値は各社・各媒体の公表値です。ユーロの円換算は1ユーロ=約172円で概算しています。
主な出典:Carbios 公式(ニュースリリース/Nature論文発表)、GlobeNewswire、Indorama Ventures 公式、NAPCOR、旭化成アドバンス・リサーチ・センター、NEDO。

この記事の作者

FrontJournal編集部

ディープテックを、ビジネスパーソンの視点でわかりやすく紹介するメディアです。

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

この企業の方へ

内容に誤り・更新が必要な点があれば、可能な限り速やかに修正します。お気づきの点はお問い合わせまでご連絡ください。

掲載情報の修正・写真の追加・更新はこちら