AIの消費電力を抑える光電融合を開発する Ayar Labs(米国発)

AIの消費電力を抑える光電融合【Ayar Labs|米国発】

生成AIの普及に伴い、データセンターの電力需要が世界規模で拡大しています。この課題解決に取り組む企業が、米国の「Ayar Labs(アヤール・ラブズ)」です。同社が開発するのは、電気回路と光回路をひとつの部品(パッケージ)内にまとめ、チップ同士を光で接続する「光電融合」技術。この技術は、AIを動かす半導体同士を高速かつ省電力でつなぐために使われます。同社は2026年3月に、シリーズE(未上場企業が段階的に実施する資金調達の5回目)で約5億ドル(約750億円)の資金調達を実施しました

AIデータセンターの課題

Ayar Labsの紹介と、AI普及による電力逼迫、GPU間配線による電力消費という課題を示す図

AI普及による電力逼迫

AIの演算処理を担うデータセンターは、膨大な電力を消費する施設へと変貌しました。「国際エネルギー機関(IEA:世界のエネルギー需給を調査する国際機関)」の予測によれば、データセンターの電力消費量は2024年の約460テラワット時(1テラワット時は10億キロワット時)から、2030年には1,000テラワット時超へと倍増する見通しです。そのため、電力や冷却用水の確保が困難な地域では、新規設備の建設自体が進みにくくなります

GPU間配線による電力消費

AIの演算は多数のGPU(画像処理半導体)に分散して処理するため、プロセッサ同士をつなぐ電気配線が多くの電力を消費します。従来の銅配線は、伝送距離が長くなるほど信号が減衰する性質を持ちます。(ホースが長いほど水の勢いが弱まるように、電気信号も距離が長くなると電気抵抗で勢いを失うためです)。この衰退を補うために複数の中継器を挟む必要があり、電力消費と費用がかさみます。そのため、GPU同士を物理的に離して配置することが難しくなります

Ayar Labsの光電融合

Ayar Labsの光電融合を示す図。光配線による距離制約緩和と、隣接配置による電力削減

Ayar Labs

Ayar Labsは、こうした電力課題を解決する光電融合技術を開発しています。同社は2015年に創業し、米国カリフォルニア州サンノゼに本社を置く企業。「米国防高等研究計画局(DARPA)」の資金支援を受けたマサチューセッツ工科大学やカリフォルニア大学バークレー校などの共同研究が出発点です

光配線による距離制約緩和

チップ同士をつなぐ線を電気から光へ置き換えることで、チップ同士を物理的に離して配置できます。電気信号は距離が長くなると弱まりますが、光信号は電気抵抗による損失がないため、長距離でも弱まりにくい特性があります。そのため、中継器を挟まなくても大量のデータを高速で伝送可能です。同社が開発した光I/Oチップレット(機能ごとに分割した半導体を1パッケージに収める部品)の「TeraPHY」は毎秒8テラビットのデータ伝送帯域を備え、多数のGPUをつなぐシステム設計の自由度を高めます

隣接配置による電力削減

光回路を計算チップのすぐ隣に配置することで、データ転送時の消費電力を大幅に削減できます。従来の方法(チップから離れた場所で電気を光に変える外部部品)では、基板上の電気配線を信号が長く通過するため、電気抵抗による電力ロスが発生していました。Ayar Labsは、外部光源である「SuperNova」を用い、1本の光ファイバーに16種類の色(波長)の光を重ねてデータを送信。(異なる光の色を使うことで、1本の光ファイバーを16車線の高速道路のように使い、混ざり合わずに同時送信する仕組みです)。この方式により、従来の電気配線と比べてエネルギー効率が約4〜8倍向上すると同社は試算しています

光電融合がもたらす未来

光電融合がもたらす未来を示す図。離れたGPUの連携実現、高電力効率AI基盤の構築、シリーズEで約5億ドル調達

離れたGPUの連携実現

光接続が普及すると、別のラック(サーバーを収容する棚)に配置したGPU同士も一体として動かせます。現在のAI基盤は電気配線の限界から、GPUを一箇所に密集させる構成が主流です。同社は半導体設計企業の「Alchip」と連携し、光通信エンジンを載せた実証システムを公開しました。この設計例では、計算チップ1基あたり毎秒100テラビット以上の広い通信帯域を実現しています

高電力効率AI基盤の構築

同社が目指すのは、電力効率を極限まで高めたAI計算基盤の構築です。最高技術責任者(CTO)のウラジミール・ストヤノビッチ氏は、1万基のGPUを1台の計算機のように統合する構想を提示。発熱が分散される光接続の強みを活かし、ラック1台あたりの消費電力を約100キロワットの現実的な水準に抑えて拡大する方針です。このインフラが実用化されれば、同じ電力枠でより大きなAIモデルを稼働させられます

シリーズEで約5億ドル調達

同社は2026年3月に、シリーズEで約5億ドルを調達しました。この調達は資産運用会社の「Neuberger Berman」が主導し、「NVIDIA」や「MediaTek」も参画。調達後の企業価値は約37億5,000万ドル(約5,600億円)と報じられています。量産と品質検査の体制が整えば、光電融合技術は実証から商用実用の段階へ進みます

まとめ

AIの計算需要が増えるなか、Ayar Labsは電気配線を光に置き換える光電融合技術の実用化を進めています。演算チップのすぐ隣で電気を光に変え、離れたGPU同士を高速・低電力でつなぐ仕組みを確立しました。日本からも「NTTドコモ・ベンチャーズ」が出資しており、次世代の光接続には世界から注目が集まっています。光接続によるデータ転送の高速化が、AIデータセンターの電力課題を解決する大きな力になると期待されます。日本にも強固な通信・半導体の産業基盤があり、同社と日本企業の連携の動きにも注目です。

※ 本記事は各社の公式発表・主要報道をもとに、FrontJournal編集部が再構成したものです。数値は各社・各媒体の公表値です。ドルの円換算は1ドル=約150円で概算しています。
主な出典:Ayar Labs 公式(ニュースリリース/TeraPHY)、Optics & Photonics News、Tom's Hardware、NTTドコモ・ベンチャーズ発表、IEA(Energy and AI)。

この記事の作者

FrontJournal編集部

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