大気からCO2を除去する直接空気回収を実用化した Climeworks(スイス発)

大気からCO2を除去する「直接空気回収」を実用化【Climeworks|スイス発】

CO2の排出を減らしても、すでに大気へ出たCO2は自然には減りません。気温上昇を抑えるには、排出削減に加えて、すでに排出されたCO2を除去する手段が要ります。スイスのClimeworks(クライムワークス)は、直接空気回収(DAC)を実用化した企業です。回収したCO2はアイスランドの地下へ注入し、岩の成分と反応させて鉱物に変えます。同社は2025年に大型の資金調達を実施し、回収能力の拡大を進めています。

CO2削減の課題

従来のCO2削減の課題を示す図。排出を減らしても過去に排出されたCO2は大気に残り、森林の吸収には長い年月がかかる

削減しても残る過去のCO2

排出を減らす取り組みが進んでも、これまでに排出されたCO2は大気に残り続けます。IPCCの報告では、排出削減に加えて、すでに排出されたCO2の除去(カーボンリムーバル)も必要だとされています。除去技術が普及しなければ、気温上昇を抑える国際的な目標には届きにくくなります。

森林の吸収には時間がかかる

陸上でCO2を吸収する代表例は森林ですが、効果の発現までに長い年月が必要です。植林には広い土地が必要で、火災や伐採が起きれば蓄えた炭素の一部は大気へ再放出されます。森林吸収に依存する場合、企業が排出量に相当する回収量を確保するのは難しいと言えます。

FrontJournalの解説
  • IPCC気候変動に関する政府間パネル。各国の科学者が気候変動の研究成果を評価し、報告書にまとめる国連の組織である。
  • カーボンリムーバルすでに大気中にあるCO2を除去する取り組みの総称。排出そのものを抑える「排出削減」と区別され、森林による吸収や装置による回収が含まれる。
  • 植林樹木を植えて森林を増やす取り組み。成長の過程でCO2を吸収するが、成熟には数十年と広い土地を必要とする。

Climeworksが直接空気回収を実用化

Climeworksの直接空気回収の図。ファンで吸い込んだ空気から吸着材でCO2を回収し、地熱の熱で取り出して玄武岩の地下に注入し鉱物に変える

課題に挑むClimeworks

Climeworksは、大気からCO2を回収する直接空気回収(DAC)を実用化した企業です。2009年に、ETHチューリッヒ(チューリッヒ工科大学)で機械工学を専攻した2人が創業しました。

空気からCO2を分離

同社の装置は大気からCO2を選択的に分離するため、発生源が特定できない排出にも対応できます。コンテナ型の装置に大きなファンを備え、吸い込んだ空気を吸着材(CO2をとらえる材料)に通す仕組みです。吸着材がCO2で飽和したら、アイスランドでは地熱の低温熱で加熱し、高純度のCO2を取り出します。燃焼を使わないため、熱と電力だけでこの工程を繰り返せます。

CO2を地下で鉱物化

回収したCO2は地下で炭酸塩鉱物に変え、大気へ戻りにくい状態にします。取り出したCO2はそのままでは再び大気へ広がるため、アイスランドの企業Carbfix(カーブフィックス)と提携しました。CO2を溶かした水を玄武岩の地下へ注入すると、実証では約2年で鉱物に変わったと報告されています。同社がアイスランドを選定した理由は、装置を稼働させる地熱と注入先の玄武岩が併存する点です。

FrontJournalの解説
  • 直接空気回収(DAC)工場の排ガスではなく、大気そのものからCO2を回収する技術。濃度が約0.04%と低いため、大量の空気を装置に通す必要がある。
  • 吸着材特定の物質を表面に吸着する材料。ClimeworksはCO2を選択的に捕捉し、加熱すると脱離する性質を利用する。
  • 玄武岩火山活動でできた黒っぽい岩石。カルシウムやマグネシウムを多く含み、CO2を溶かした水と反応して鉱物になりやすい。
  • 炭酸塩鉱物CO2が岩石の成分と結びついてできる鉱物。固体のため、地下にとどまり大気へ戻りにくい。

直接空気回収の未来

直接空気回収の未来の図。除去クレジットで排出を相殺し、年100万トン規模の回収をめざし、約240億円を調達した

排出の相殺が可能に

同社は回収したCO2を「除去クレジット」として販売し、購入した企業は自社の排出を相殺できます。購入者は除去された量を、自社の排出量の相殺分として報告に用います。Microsoftは同社と長期の購入契約を結び、除去クレジットを購入しています。製鉄や航空のように排出を減らしにくい分野でも、事後に除去する選択肢を確保できます。

年100万トンをめざす

Mammoth(マンモス)」は2024年5月に稼働し、稼働初年の回収量は約105トンでした。同社は公称能力が年最大3万6,000トンの設備を運転し、長期目標に年100万トン規模の回収を掲げます。同社は2024年発表の第3世代技術について、回収量を2倍にし、必要なエネルギーを半分に減らすとしています。同社が参加する米国ルイジアナ州の「Project Cypress」では、2027年に年25万トン規模を計画しています。

約240億円を調達

2025年7月、同社は約1億6,200万ドル(約240億円)の資金調達を発表しました。この調達はBigPoint HoldingとPartners Groupが主導し、既存の投資家も加わりました。累計の調達額は約10億ドル(約1,500億円)に達しています。同社は資金を技術の改良と回収コストの低減に充て、採算のとれるプラントをめざすとしています。

FrontJournalの解説
  • 除去クレジット大気から除去したCO2の量を証明し、売買できるようにしたもの。第三者機関の検証を経て発行され、公開の登録簿で発行から使用までが記録される。
  • 公称能力設備が設計どおりに稼働した場合の最大の処理量。実際の運転では、稼働時間や整備の状況によって下回ることがある。
  • Project Cypress(プロジェクト・サイプレス)米国ルイジアナ州で進む大規模な直接空気回収の計画。米エネルギー省が支援先に選んだ事業で、Climeworksが参加している。

直接空気回収の課題と将来性

これまでの気候対策は、排出量の削減が中心でした。Climeworksの直接空気回収は、すでに排出されたCO2を回収して地下に固定する選択肢を加えます。一方で、公称能力に近い水準まで回収量を拡大できるか、費用を低減できるかは今後の課題です。日本にも火山由来の地熱と玄武岩質の地層があり、適地の条件を満たすかは今後の調査課題です。FrontJournal編集部は、回収量が着実に累積し、産業の選択肢として定着することに期待しています。

※ 本記事は各社の公式発表・主要報道をもとに、FrontJournal編集部が再構成したものです。数値は各社・各媒体の公表値です。ドルの円換算は1ドル=約150円で概算しています。
主な出典:Climeworks公式(Mammoth/第3世代技術/Project Cypress)/Carbon Herald(2025年7月の資金調達)/IEEE Spectrum(第3世代技術)/Heimildin・CNN(2024年の回収量の報道)。

この記事の作者

FrontJournal編集部

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本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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