bitBiome株式会社は微生物を1細胞ずつ解析してゲノムを読み取る早稲田大学発の企業

bitBiome株式会社(ビットバイオーム)

bitBiome「微生物シングルセルゲノム解析」を研究|研究領域=微生物を1細胞ずつ解析する/強み=培養せずに全ゲノムを読む/将来性=酵素の探索を産業へ広げる

企業紹介|bitBiome株式会社とは?

土や海の微生物から新しい酵素を見つける技術として、注目を集める「微生物シングルセルゲノム解析」。bitBiome株式会社は、その社会実装を目指す、早稲田大学発のバイオ系ディープテック企業です。微生物ゲノムの受託解析(依頼を受けて解析を代行すること)と、酵素の探索・改変を、食品や化学、製薬の研究開発の現場へ提供しています。

キーワード「微生物シングルセルゲノム解析」

「微生物シングルセルゲノム解析」は、微生物を1細胞ずつ切り分けて、その全ゲノムを読み取る解析手法です。特徴は、細胞1個の情報から株や亜種のレベルまで見分けられる点にあります。土壌や糞便などの検体を送るだけで、食品や化学の研究現場で新しい酵素の候補を探せます。

市場課題|産業で使いにくい微生物の遺伝子

現状の微生物探索の課題|現状は、培養の制約と配列の混在で微生物を特定しにくい/培養できる微生物はごく一部/複数種が混ざり由来が不明に

培養が難しく大半が未利用

産業用の酵素の多くは微生物由来ですが、実験室で培養できるのは、環境中の微生物のごく一部です。土壌や海水には多様な微生物が生息し、通常の条件で培養できるのは1%以下といわれています。培養を前提とした探索では、難培養微生物の遺伝子は資源として使いにくいままです。

配列が混ざり由来が不明

培養を経ないメタゲノム解析(環境中のDNAをまとめて読み取る手法)では、どの遺伝子がどの微生物のものか特定が困難です。多種の微生物のDNA断片をまとめて読み、ゲノムを復元する工程を挟むためです。近縁な微生物が共存する検体ほど、ゲノムを復元する精度は落ちやすく、有望な遺伝子を見つけても、その持ち主までたどり着きにくくなります。

他にも、極限環境から検体を集める採取の負担、読み取った配列に働きを対応づける煩雑さ、見つけた酵素を製造条件へ合わせる改変の難しさ、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 難培養微生物実験室の一般的な培地や条件では増やせない微生物を指す。環境中に生息する微生物の大半がこれにあたり、遺伝子の解読と産業利用が進みにくい要因となっている。

bitBiomeの強み|「微生物シングルセルゲノム解析」を研究

bitBiomeが「微生物シングルセルゲノム解析」を研究|今後は、難培養微生物から酵素探索が可能に/1細胞ずつゲルに封じて解読/30億超の遺伝子配列から探索

培養せず1細胞から解読

従来の微生物の探索は分離と培養を前提とし、増やせない微生物は対象から外れていました。

同社が用いる「bit-MAP」は、マイクロ流体デバイス(微細な流路で液体を精密に制御する装置)で作ったゲルのカプセルに微生物を1細胞ずつ閉じ込め、その中でゲノムを読み取る手法です。カプセルの内部で細胞を溶かし、DNAを解読に足る量まで増幅します。1細胞ずつ隔てた状態で扱うため、他の微生物のDNAが混ざりません。由来が1つの細胞に定まるため、株や亜種のレベルで全ゲノムの配列が得られます。増やせるかどうかに左右されず、土壌や海水、極限環境(高温や高圧などの環境)の検体をそのまま解析できます。

30億超の配列から探索

遺伝子の性質を推定し、改変の設計につなげるには、その配列がどの微生物のものかという情報が要ります。

同社は、「bit-MAP」で1細胞ずつ読み取ったゲノムを、配列と微生物が対応づいたまま「bit-GEM」として蓄積しています。土壌や海水、極限環境から集めた検体をもとに、20万を超える微生物ゲノム30億超の遺伝子配列を収録しています(2026年5月時点)。この配列から目的の反応に合う酵素を選び出すのが「bit-QED」です。計算による設計と多検体の実験を組み合わせ、候補を絞り込みます。さらに、集めたゲノムデータを学習させたAIモデル「SENS-AI」により、配列から酵素の働きを予測します。

FrontJournalの解説
  • bit-GEMbitBiomeが自社で解読した微生物ゲノムを集めた遺伝子データベースである。培養を経ずに得た配列を含むため、公共のデータベースには収録されていない遺伝子を多く抱える点に特徴がある。

微生物ゲノム解析の未来|食品・化学への応用

微生物のゲノム解析が変える未来|研究から食品や化学の酵素開発へ広がる/農研機構などの論文で使われる/食品や化学の酵素開発へ/米国でも微生物を採取して収集

外部の研究論文で活用

「bit-MAP」による解析の成果は、外部の研究論文としてすでに公表されています。農研機構物質・材料研究機構森永乳業の研究論文で、同社の解析が活用されました。提供は受託解析の形をとり、依頼者が検体を送ればゲノムから遺伝子までの結果を一式で受け取れます。土壌や糞便のように多様な微生物が混ざる試料でも、微生物ごとに分けた結果を示せます。

食品や化学の酵素開発へ

短期に広がるのは、企業との連携による酵素の実用化です。同社は共立製薬三和澱粉と共同研究を進めており、特定の食品成分の分野では製品供給を視野に入れた提携も結んでいます。同社が参画する花王主導の事業は、未利用のバイオマス資源から糖化酵素(でんぷんを糖に分解する酵素)を供給する基盤の構築です。ベルポリエステルプロダクツとは、廃プラスチックを微生物の力で資源へ戻すバイオリサイクルの実現に取り組んでいます。

微生物データの世界展開を目指す

同社が目指すのは、世界各地の微生物データを集め、産業へつなぐ基盤を築くことです。米国で試料を採取し、共同研究機関からも検体を得て、「bit-GEM」を拡充しています。パロアルトに拠点を置き、製薬やライフサイエンスの分野で事業開発を担う体制も整えました。培養の可否に縛られない遺伝子資源が広がれば、バイオものづくり(微生物の働きを使って素材や成分を製造すること)の選択肢が増えると期待されます。

会社概要|bitBiomeの事業と設立背景

早稲田大学の研究から創業

bitBiome株式会社は、2018年11月に東京都新宿区で設立されました。創業の中心となったのは、早稲田大学でシングルセル解析技術の開発に取り組んできた細川正人氏です。細川氏は東京農工大学で博士(工学)を取得し、2013年から早稲田大学で研究を進め、2019年に文部科学大臣表彰若手科学者賞を受けています。

現在の代表取締役社長CEOは鈴木悠司氏です。外務省やマッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2021年に参画しました。細川氏は取締役CSOを務めています。

大臣賞の受賞と国の事業に採択

同社の技術は、公的機関と企業の双方から評価を受けています。2022年には「大学発ベンチャー表彰2022」で経済産業大臣賞を受け、早稲田大学発のスタートアップとしては、同表彰で初の受賞です。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「ディープテック・スタートアップ支援事業」には、微生物遺伝子収集の国際展開に向けた技術改良と事業化検証が、2023年度から2027年度の期間で採択されました。

累計約70億円を調達

同社は、2026年5月にシードエクステンションラウンド(最初の調達の枠を広げ、追加の出資を受け入れる段階)のサードクローズ(同じラウンドで3回目の払込)を実施しました。累計調達額は約70億円です(2026年5月時点)。この調達には、Darwin VenturesIn-Q-Tel(米国の政府機関向けの技術に投資する非営利のベンチャーキャピタル)等が参加しました。資金は「bit-GEM」の拡充と「SENS-AI」の高度化、ラボの拡張などに充てられます。

会社情報

会社名bitBiome株式会社(bitBiome, Inc.)
所在地東京都新宿区早稲田鶴巻町513 早稲田大学121号館 リサーチイノベーションセンター415号室。米国拠点:Japan Innovation Campus(カリフォルニア州パロアルト)
設立2018年11月7日
代表代表取締役社長CEO:鈴木 悠司。創業者 取締役CSO:細川 正人(早稲田大学教授)。CTO:津田 宗一郎
資本金1億円
従業員52名(2026年6月時点・パートタイムを含む)
調達累計約70億円(2026年5月時点)。シードエクステンションラウンド サードクローズ 約35億円(2026年5月)。Darwin Ventures。In-Q-Tel。Valuence Ventures。IT-Farm。UPSIDER BLUE DREAM Fund等
事業微生物シングルセルゲノム解析の受託解析。酵素の探索・改変プラットフォームの提供。バイオものづくりに関する共同研究・開発等
技術領域微生物シングルセルゲノム解析「bit-MAP」。微生物遺伝子データベース「bit-GEM」。酵素探索・改変システム「bit-QED」。ゲノムを学習したAIモデル「SENS-AI」
連携共立製薬。三和澱粉。花王。ベルポリエステルプロダクツ。Tojo Vikas International(インドの香料原料メーカー)
採択大学発ベンチャー表彰2022 経済産業大臣賞(2022年)。NEDO ディープテック・スタートアップ支援事業(2023年度〜2027年度)。NEDO バイオものづくり革命推進事業
URLhttps://bitbiome.co.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

産業で利用されてきた微生物は、たまたま実験室で育てられたものに限られていました。bitBiomeが選んだのは、育てるという条件を外し、1細胞ずつ読み取るという道筋です。ゲルのカプセルで1細胞ずつ隔てるという着想が、手つかずだった遺伝子資源を開いていきます。

注目したいのは、単なる解析サービスではなく、読み取った配列を資産として積み上げる設計です。データベース、探索システム、AIモデルを重ねる構えは、解析のたびに次の探索が有利になる仕組みといえます。米国への展開は、集める場所そのものを広げる一手です。

足元の土の中に眠る遺伝子が、次のものづくりの材料になる日を期待しています。

FrontJournal編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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