牛の細胞から牛肉を製造する培養肉を研究する Mosa Meat(オランダ発)

牛の細胞から牛肉を製造する「培養肉」を研究【Mosa Meat|オランダ発】

世界の食肉需要が増えるなか、温室効果ガスの排出が多い牛肉の生産をどう続けるかが課題になっています。この課題に挑むのが、牛の細胞を培養して牛肉を製造する「培養肉」を研究するオランダのモサミート(以下Mosa Meat)です。同社は培養した牛の脂肪と植物性原料を組み合わせたハンバーガーの販売を目指し、2025年12月の同社発表時点で、英国・EU・スイス・シンガポールで承認の審査を受けています。同じ発表では、追加の資金調達と製造コストの削減を明らかにしました。

牛肉生産の課題

Mosa Meatの紹介と、牛肉生産の温室効果ガス排出量が大きく、食肉需要の増加で家畜のための土地の確保が課題になっていることを示す図

牛肉生産の排出量が大きい

家畜の飼育は温室効果ガスの主要な排出源で、なかでも牛肉の生産が大きな割合を占めています。国連食糧農業機関(FAO)の2013年の報告書によると、畜産による排出は人間活動による排出全体の約14.5%にあたり、そのうち約41%が牛肉の生産によるものです。同報告書は畜産物の需要が2005年から2050年に約70%増えると予測し、畜産は需要に応えながら排出を減らすという難しい課題を抱えると指摘しました。

食肉需要が増え土地が逼迫

FAOは2006年の報告書で、世界の食肉生産量が2050年に約4.65億トンとなり、1999〜2001年の約2.29億トンから倍増すると予測しました。同じ報告書によると、放牧地はすでに氷に覆われていない陸地の約26%を占めています。需要の増加が続けば、家畜の飼育に必要な土地と飼料の確保が一段と難しくなります。

FrontJournalの解説
  • FAO(国連食糧農業機関)世界の飢餓の解消と農林水産業の発展を担う国連の専門機関。各国の農業や食料の統計を集め、報告書として公表している。
  • 温室効果ガス大気中で熱を閉じ込め、地球の気温を上げる気体。CO2のほか、牛のげっぷに含まれるメタンなども含まれる。

Mosa Meatが「培養肉」を研究

培養肉の研究を示す図。無血清培地で動物由来の成分を減らし、培養した脂肪で植物性原料に牛肉の風味を加える

課題解決に挑むMosa Meat

Mosa Meatは、牛から採取した細胞を育てて牛肉を製造する「培養肉」を研究する、オランダ南部のマーストリヒトに本社を置く企業です。出発点はマーストリヒト大学教授のマーク・ポスト氏と食品技術者のピーター・フェルストラーテ氏の研究で、両氏はGoogleの共同創業者セルゲイ・ブリン氏の出資を受け、2013年にロンドンで培養牛肉のハンバーガーを公開しました。その後、両氏は2016年にMosa Meatを設立しました。

無血清培地で動物由来成分を削減

同社は無血清培地を採用し、「培養肉」の製造工程から動物由来の成分を減らしています。細胞の培養では、栄養を補うために牛の胎児から採る牛胎児血清(FBS)が広く使われてきました。同社は2016年にFBSを除く方針を掲げ、脂肪細胞を無血清培地で成熟させる(脂肪をため込む細胞へ変化させる)方法を、2023年に学術誌「iScience」で公表しました。この方法は牛の細胞で確かめられ、羊や豚の細胞にも応用できると同社は説明しています。

培養脂肪で牛肉の風味を付与

同社によると、培養した脂肪を加えることで、植物性原料を使った食品にも牛肉らしい風味を持たせられます。脂肪は肉の味・香り・食感を左右する成分で、同社は2018年から培養脂肪をハンバーガーに加える開発を進めてきました。2025年1月には、培養した牛の脂肪を対象に、欧州委員会へ新規食品としての承認を申請したと発表しました。同社はこれをEUで初めての培養牛肉の申請と位置づけており、最初の製品は培養脂肪と植物性原料を組み合わせたハンバーガーにする計画です。

FrontJournalの解説
  • 無血清培地細胞を育てる栄養液(培地)のうち、動物の血清を含まないもの。血清の代わりに、成分を特定した栄養や増殖因子を加える。
  • 牛胎児血清(FBS)牛の胎児の血液から採る液体で、細胞の増殖を助ける成分を多く含む。研究用の細胞培養で広く使われてきたが、動物に由来する成分である。

培養肉の未来

培養肉の未来を示す図。承認を得られれば飲食店で提供でき、牛肉の環境負荷の低減を目指し、約27億円の資金を調達した

承認後に飲食店での提供が可能に

各国で承認を得られれば、消費者が飲食店で培養牛肉のハンバーガーを選べるようになります。同社は2025年12月、2013年に公開した最初のハンバーガーと比べて99.999%のコスト削減を達成したと発表しました。最初のハンバーガーの製造費は約25万ユーロ(約4,500万円)で、発表では比較の単位や算出の条件は示されていません。最高経営責任者(CEO)のマールテン・ボス氏は、飲食店のメニューに載せられる価格でハンバーガーを製造していると述べています。

牛肉の環境負荷の低減を目指す

同社は、「培養肉」で牛肉の生産にともなう環境負荷の低減を目指しています。同社が引用する査読付きのライフサイクルアセスメント(LCA)の予測では、培養牛肉の生産は工業的な食肉生産と比べ、温室効果ガスを最大93%、土地の使用を95%、水の使用を78%減らせるとされています。まずはハンバーガーのようなひき肉から始め、将来はステーキのような塊の肉の製造も目指す計画です。実現すれば、牛肉の供給を保ちながら環境負荷を抑える選択肢が広がります。

約27億円の資金を調達

Mosa Meatは2025年12月、1,500万ユーロ(約27億円)の資金調達を発表しました。ともにオランダの政府系インパクト投資機関であるInvest-NLとLIOF、ドイツの鶏肉生産企業PHW Groupなどが出資し、過去2年間の調達額は5,800万ユーロ(約104億円)に達しています。英国では2025年3月に食品基準庁(FSA)の規制サンドボックスに選ばれ、同年5月に培養した牛の脂肪の承認を申請しました。同社は、この資金が各国での承認取得と、初めての本格的な売上の獲得に向けた次の段階を支えると説明しています。

FrontJournalの解説
  • ライフサイクルアセスメント(LCA)製品の原料調達から製造・廃棄までの環境負荷を、数値で評価する手法。同じ条件で比べることで、製法ごとの違いを把握できる。
  • 規制サンドボックス新しい技術や製品について、企業と規制当局が審査の前から協議し、安全性の評価方法などを一緒に検討する制度。英国の食品基準庁は培養肉を対象に2年間の枠組みを設けた。

まとめ

Mosa Meatの「培養肉」は、2025年12月時点で、同社が申請した各国で承認の審査を受けている段階です。同社は無血清培地で脂肪細胞を育てる方法を公表し、最初のハンバーガーと比べて製造コストを99.999%削減したと発表しています。同社は承認を得たのち、培養した牛の脂肪を使ったハンバーガーを飲食店で提供する計画です。出資者には日本の三菱商事も名を連ねており、日本企業との接点も生まれています。FrontJournal編集部は、「培養肉」が牛肉の新しい選択肢として食卓に加わることに期待しています。

※ 本記事は各社の公式発表・国際機関の報告書をもとに、FrontJournal編集部が再構成したものです。数値は各社・各機関の公表値です。ユーロの円換算は1ユーロ=約180円で概算しています。承認の状況は2025年12月の同社発表時点のものです。
主な出典:Mosa Meat 公式サイト・ブログ・プレスリリース(2023年1月・2025年1月・2025年5月・2025年12月ほか)、マーストリヒト大学ニュース(2019年4月)、FAO「Tackling climate change through livestock」(2013年)、FAO「Livestock's Long Shadow」(2006年)。

この記事の作者

FrontJournal編集部

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本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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