100万量子ビット級をめざす光量子コンピュータを研究するPsiQuantum(米国発)

100万量子ビット級をめざす「光量子コンピュータ」を研究【PsiQuantum|米国発】

量子コンピュータを実用的な計算に使うには、誤りを直しながら計算するための大量の量子ビットが必要で、その規模の拡大が世界共通の課題です。この課題に挑むのが、米国のサイカンタム(PsiQuantum)です。光の粒を量子ビットに使う「光量子コンピュータ」を、半導体工場で製造したチップで組み上げようとしています。2025年9月には約10億ドル(約1,500億円)の調達を発表し、米国と豪州で大型機の建設を進めています。

量子コンピュータの大規模化の課題

PsiQuantumの紹介と、誤り訂正に大量の量子ビットが必要なことと、極低温の冷却で装置が大型化することを示す図

誤り訂正で必要数が膨大

量子ビットは周囲の熱や振動などの雑音で誤りやすく、計算の誤りを直す「誤り訂正」には大量の量子ビットが必要です。誤りにくい1個の論理量子ビットを構成するには、多数の物理量子ビットを束ねる必要があります。誤り訂正の研究は、東京大学らが誤り訂正の結果の信頼度を判定する手法を提案するなど各国で進んでおり、実用的な計算には、量子ビットを大量に製造して並べる方法の確立も求められています。

極低温の冷却で装置が大型化

超伝導方式などの量子コンピュータは、量子ビットを絶対零度に近い極低温まで冷やす冷凍機を必要とします。代表的な希釈冷凍機は、金色の配線と板が何段も吊り下がる「シャンデリア」のような構造で、量子ビットを増やすほど配線と冷却の負担が大きくなる点が課題です。このままでは、量子ビットを増やすたびに装置が大型化し、設置場所と費用の負担が重くなります。

FrontJournalの解説
  • 論理量子ビット多数の物理量子ビット(装置の中に実際に存在する1個1個の量子ビット)を束ね、誤りを直せるようにした計算の単位。1個の構成に多数の物理量子ビットが要るため、必要な総数が大きく増える。
  • 希釈冷凍機2種類のヘリウムの混合液を使い、絶対零度(約マイナス273度)に近い温度まで冷やす装置。超伝導方式の量子コンピュータの多くが、この装置の中で動く。

PsiQuantumが「光量子コンピュータ」を研究

光量子コンピュータの研究を示す図。半導体工場でチップを量産し、光ファイバーで装置をつないで規模を広げる

課題に挑むPsiQuantum

PsiQuantumは、光の粒(光子)を量子ビットに使う「光量子コンピュータ」を研究しています。2016年に創業し、米国カリフォルニア州パロアルトに本社を置きます。出発点は英国のブリストル大学とインペリアル・カレッジ・ロンドンの量子物理学者の研究で、創業チームは20年以上前に豪州ブリスベンで、光子を使った2量子ビットの論理ゲートを実証しています。

半導体工場で量産しやすく

「光量子コンピュータ」の心臓部となるチップは、既存の半導体工場で製造できます。同社はチップを自社で設計し、米国ニューヨーク州にあるGlobalFoundriesの工場で、直径約30cmの標準的なウエハーから生産しています。2025年2月には量産向けのチップセット「Omega(オメガ)」を発表し、その性能を英科学誌Natureで公表しました。通信やデータセンター向けに発展したシリコンフォトニクスを応用するため、半導体と同じ工程で数を増やしやすい点が特徴です。

光ファイバー接続で規模を拡大

光子の量子ビットは、通信用の標準的な光ファイバーで、そのまま別のチップへ送れます。同社は、チップどうしを最大250mの距離で、高い精度を保ってつないだと公表しました。チップは極低温に冷やして動かしますが、冷却装置はシャンデリア型の希釈冷凍機ではなく、サーバーラックに近い箱形の設計です。チップを収めた装置を光ファイバーでつなぎ足し、データセンターのように規模を広げる構想です。

FrontJournalの解説
  • 光子光を形づくる、それ以上分けられない最小単位の粒。光量子コンピュータは、1個の光子の状態を量子ビットとして使う。
  • ウエハー半導体チップを製造する土台となる、シリコンなどの薄い円板。1枚から多数のチップを切り出すため、直径が大きいほど一度に多く製造できる。
  • シリコンフォトニクスシリコンのチップ上に、光を通す細い道や光を切り替える部品を作り込む技術。データセンターの光通信部品などで量産の実績がある。

光量子コンピュータの未来

光量子コンピュータの未来を示す図。新素材や新薬の計算への活用、実用規模の量子計算の実現をめざし、約1,500億円を調達した

新素材や新薬の計算に活用へ

PsiQuantumは、エネルギーや素材、医薬品、金融などの分野で「光量子コンピュータ」の活用を見込んでいます。分子の性質を原子の単位で計算できれば、電池材料や新薬の候補を、実験の前に絞り込めます。同社は米国のブルックヘブン国立研究所と組み、誤り訂正を前提とした量子アルゴリズム(計算手順)の設計を、自社のソフトウェアで支援しています。こうした計算が実用になれば、素材や医薬品の開発期間の短縮につながります。

実用規模の量子計算を目指す

同社は、約100万個規模の物理量子ビットを備え、誤り訂正を前提とした実用規模の機械の建設を目指しています。米国では2025年9月、シカゴの旧製鉄所跡地に整備されるイリノイ量子・マイクロエレクトロニクスパークで、自社施設の建設に着手しました。豪州では2026年6月、クイーンズランド州のモートンベイ・セントラルで建設を始め、連邦政府と州政府が計画を支援しています。2つの拠点が完成すれば、企業や研究機関が大規模な量子計算を使える環境が整います。

約1,500億円を調達済み

PsiQuantumは2025年9月、約10億ドル(約1,500億円)の調達を発表しました。評価額は約70億ドル(約1兆500億円)で、BlackRock関連のファンドとTemasek、Baillie Giffordが主導し、NVIDIAの投資部門NVenturesも加わっています。資金は豪州とシカゴの拠点の着工、大規模な試作機の導入、チップと誤り訂正の設計の改良に充てます。同社はNVIDIAとも、GPU(画像処理用の半導体)と量子コンピュータの連携などで協業しており、2つの拠点の建設と並行して研究開発を進めます。

FrontJournalの解説
  • アルゴリズム計算の手順。量子コンピュータでは、量子ビットの性質を生かした専用の手順を用意しないと、従来のコンピュータより速く解くことはできない。
  • 評価額投資家が資金を出す時点で見積もった会社全体の価値。上場していない企業の規模を比べる目安になる。

まとめ

PsiQuantumは、半導体工場で製造したチップを光ファイバーでつなぐ方法で、「光量子コンピュータ」の大規模化に取り組んでいます。米国と豪州で大型機の建設が始まり、約1,500億円の調達で開発資金も確保しました。日本でも、OptQCが「光量子コンピュータ」の開発で70億円を調達し、同社と産業技術総合研究所が国産機「MoQuren」の稼働を始めています。2026年11月に幕張メッセで開かれる量子コンピューティングEXPO【秋】2026は、光方式を含む量子計算の製品と用途を見比べられる場として、FrontJournal編集部が注目している展示会です。編集部は、光方式の量産技術が量子コンピュータの実用化を早めることに期待しています。

※ 本記事は各社の公式発表・主要報道をもとに、FrontJournal編集部が再構成したものです。数値は各社・各媒体の公表値です。ドルの円換算は1ドル=約150円で概算しています。
主な出典:PsiQuantum 公式(資金調達・「Omega」の発表、公式サイト)、Illinois Quantum and Microelectronics Park、The Quantum Insider。

この記事の作者

FrontJournal編集部

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本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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