セツロテック|徳島大学発の「ゲノム編集」で研究用マウスの作製と精密育種を手がけるディープテック企業

株式会社セツロテック

セツロテック「ゲノム編集」を研究|研究領域=狙った遺伝子を書き換える技術/強み=電気の編集法と独自酵素を開発/将来性=創薬研究と食料生産を支える

企業紹介|セツロテックとは?

狙った遺伝子だけを書き換え、実験用マウスの作製や品種改良を速める技術として研究が進む「ゲノム編集」。株式会社セツロテックは、その社会実装を目指す、徳島大学発のライフサイエンス系ディープテック企業です。受精卵や培養細胞を効率よく編集する手法で、研究用のゲノム編集マウスや細胞の提供と、動物や微生物の精密育種(狙った性質だけを変える品種改良)を手がけています。

キーワード「ゲノム編集」

ゲノム編集は、生物の遺伝情報の狙った位置を酵素で切断し、遺伝子を働かなくしたり書き換えたりする技術です。代表的な道具は、切る場所を案内するRNAと、DNAを切る酵素Cas9を組み合わせた「CRISPR/Cas9」です。変える場所を絞り込めるため、品種改良や医薬品の研究に使われています。

市場課題|改変動物の作製負担と酵素の使用料に課題

現状のゲノム編集の課題|現状は、作製の手間と使用料で活用が広がりにくい/改変マウスの作製が研究の負担/酵素の使用料が導入の壁

改変マウスの作製が研究の負担

病気や薬の研究に欠かせない遺伝子改変マウスは、作製に手間と時間がかかります。これまで主流のマイクロインジェクション法では、受精卵にゲノム編集の道具を1個ずつ注入するため、専用の装置と熟練した技術が必要でした。装置と人材をそろえられない研究室ほど、実験に必要なマウスを用意しにくくなる恐れがあります。

酵素の使用料が導入の壁

ゲノム編集で広く使われる酵素Cas9は、産業に使う場合のライセンス費用(技術の使用料)が高額です。使用の条件は国ごとに異なり、製品を世界へ広げるほど対応の手間も増えます。このままでは、ゲノム編集を品種改良に取り入れられる企業が限られてしまう恐れがあります。

他にも、オフターゲット効果(狙っていない遺伝子が書き換わる現象)、採卵鶏の生産で生まれるオスのひよこの殺処分、ゲノム編集食品への理解の不足、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • マイクロインジェクション法顕微鏡で見ながら、ガラスの極細の針で受精卵や細胞に物質を直接注入する方法。遺伝子改変動物の作製で広く使われてきたが、受精卵を1個ずつ扱うため、専用の装置と熟練した技術を要する。

セツロテックの強み|「ゲノム編集」を研究

セツロテックが「ゲノム編集」を研究|現在は、電気と独自酵素で編集技術を提供/電気で受精卵を一度に編集/独自酵素で使用料を抑える

電気で受精卵を一度に編集

マイクロインジェクション法は受精卵を1個ずつ針で処理するため、100個を処理するのに120分以上かかります。

同社の「GEEP法」(受精卵エレクトロポレーション法)は、Cas9タンパク質とガイドRNA(切る場所を指定するRNA)を、電気の力で受精卵に取り込ませる方法です。電極の間に受精卵を並べて電圧をかけると、細胞を包む膜に一時的に小さな穴が開き、そこから編集の道具が入り込みます。一度に処理できる受精卵は20〜200個で、100個なら15分以内の作業です。針を操る専用の装置や熟練の技術が要らないため、ゲノム編集マウスを簡便かつ安価に作製できるようになります。

独自酵素で使用料を抑える

ゲノム編集の酵素として普及したCas9を産業に使うには、権利を持つ機関からライセンスを受ける必要があります。

同社は、DNAを切る酵素そのものを独自に開発しました。「ST9.5」は、Cas9と同じく短いRNAが切る場所を案内するRNAガイド型ヌクレアーゼ(DNAを切断する酵素)で、自社開発のため商用利用時のライセンス負担を軽くできる点が特徴です。対象は培養細胞や微生物、家畜のゲノム編集です。商用利用の相談に応じており、ライセンスは領域に応じて柔軟に設計できます。これにより企業は、品種改良へゲノム編集を取り入れやすくなります。

FrontJournalの解説
  • RNAガイド型ヌクレアーゼ短いRNAを目印にしてDNAの決まった位置を探し、そこを切断する酵素の総称。RNAの配列を変えるだけで切る場所を指定できるため、ゲノム編集の道具として使われる。代表例がCas9である。

未来|高効率なゲノム編集が創薬研究と食料生産を支える

高効率なゲノム編集が変える未来|ゲノム編集を雌雄判別と品種改良へ広げる/研究用マウスと細胞を供給/ふ化前に卵の雌雄を判別/精密育種の世界展開を目指す

研究用マウスと細胞を供給

大学や製薬会社の研究者から依頼を受け、ゲノム編集マウスやゲノム編集細胞を作製するのが同社の研究支援事業です。依頼者は改変したい遺伝子の情報を伝えれば、マウスの作製を同社に任せられます。培養細胞の改変に用いるのは「VIKING法」(DNAの修復の仕組みを使い、狙った位置に遺伝子を組み込む編集法)です。病気に関わる遺伝子を調べる実験に早く取りかかれ、新薬の研究を進めやすくなります。

ふ化前に卵の雌雄を判別

オスのひよこの殺処分を減らすため、同社と徳島大学は、ふ化前の卵の中でひなの雌雄を見分ける手法を開発しました。ニワトリのZ染色体(性を決める染色体)上にある目の色素に関わる遺伝子をゲノム編集し、オスの胚の目を黒く、メスの胚の目を無色透明にします。卵を温め始めて最短7日目に、暗所で殻の外からLEDの光を当てれば、卵を割らずに見分けられる仕組みです。外来の遺伝子は加えておらず、メスは成長後に通常のニワトリと同じように産卵できることも確かめられています。

精密育種の世界展開を目指す

同社は、ゲノム編集を使った精密育種を、国内外の農業や畜産へ広げることを目指しています。2026年7月には、ULTORA(商品の企画・開発・販売を手がける企業)と業務提携を結びました。提携の狙いは、精密育種を活かした健康や食の商品・サービスの開発です。精密育種は従来より短い期間で新しい品種を生み出せるとされ、食料需要の増加や気候の変化に合わせた作物や家畜を、早く食卓へ届ける手段として期待されています。

会社概要|株式会社セツロテック

徳島大学の技術をもとに創業

セツロテックは、徳島大学の竹本龍也氏と沢津橋俊氏らが発明したゲノム編集技術の知財をもとに、2017年2月に創業しました。受精卵の編集法「GEEP法」を開発した竹本氏と、培養細胞への遺伝子の組み込み法「VIKING法」を開発した沢津橋氏、新規事業としてテクノロジーへの投資を考えていた竹澤慎一郎氏の3人が創業者です。同社は「生物の潜在的な力を借りて、あなたと地球の課題を解決する産業を創造する」をミッションに掲げています。

採択と資金調達

セツロテックは、2020年に経済産業省の「地域未来牽引企業」(地域経済の中核を担う企業)に選ばれ、2024年3月には「J-Startup WEST」(中国・四国の経済産業局が地域の有望なスタートアップを選ぶ制度)に選定されました。ゲノム編集で鶏卵の雌雄を判別するプロジェクトは、農林水産省の「中小企業イノベーション創出推進事業(SBIR)」の採択案件です。雌雄判別の研究成果は、2026年4月に国際学術誌「Frontiers in Bioengineering and Biotechnology」に掲載されました。資金面では、2026年1月にシリーズA5として3.2億円の資金調達を発表しました。引受先は、Nikon-SBI Innovation Fund IIや大阪中小企業投資育成などの投資家です。

研究支援と精密育種を展開

同社の事業は、研究支援事業と精密育種事業からなります。研究支援事業では、大学などの研究機関や製薬会社にゲノム編集マウスやゲノム編集細胞を供給しています。精密育種事業の対象は、農畜産や工業の分野で使われる動物・植物・微生物の品種改良です。本社は徳島市にあり、東京営業所と福島研究所も構えています。

会社情報

会社名株式会社セツロテック(Setsuro Tech Inc.)
所在地徳島県徳島市蔵本町3丁目18番地の15 藤井節郎記念医科学センター
設立2017年2月
代表代表取締役会長 竹本龍也/代表取締役社長 竹澤慎一郎
調達2026年1月 シリーズA5で3.2億円(引受先:Nikon-SBI Innovation Fund II、EXPONENTIAL ZAISAN PARTNERS、INSPiRE Mutualistic Symbiosis Fund 1、大阪中小企業投資育成、いよぎんキャピタル、HOXIN)
事業ゲノム編集による受託事業・研究開発・商品販売。ゲノム編集マウス・ラット、ゲノム編集細胞を提供する研究支援事業。動物・植物・微生物の品種改良に取り組む精密育種事業
技術領域受精卵エレクトロポレーション法「GEEP法」、培養細胞に遺伝子を組み込む編集法「VIKING法」、RNAガイド型ヌクレアーゼ「ST9.5」
連携徳島大学(創業の基盤技術。鶏卵の雌雄判別の共同研究)。ULTORA(2026年7月に業務提携)。ST9.5は商用利用・共同研究の相談を受け付け
採択地域未来牽引企業(経済産業省・2020年)。J-Startup WEST(2024年3月)。農林水産省 中小企業イノベーション創出推進事業(SBIR)=鶏卵の雌雄判別プロジェクト
URLhttps://www.setsurotech.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

ゲノム編集は、作製の手間と使用料をどこまで抑えられるかが普及の鍵を握る技術です。研究の現場では作製の手間が、産業の現場では酵素の使用料が、利用を広げるうえでの壁になってきました。セツロテックは、受精卵に電気で道具を入れる手法と自社で開発した酵素の両面から、この壁を低くしようとしている会社です。

興味深いのは、研究用マウスの受託という足元の事業と、ふ化前の卵で雌雄を見分けるような畜産の課題を、同じ技術でつないでいる点です。国内では、国産のゲノム編集技術で食品と医療の開発を支えるプラチナバイオのような企業も育っています。地域の大学から生まれた技術が実験室と農場の両方で使われる姿は、ゲノム編集の新しい広がりを感じさせるものです。同社の今後の歩みに注目していきます。

FrontJournal編集部

出典:経済産業省 大学発ベンチャーデータベース2026

出典:「Gビズインフォ」(経済産業省)(2026年9月28日に利用)を加工して作成

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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