2026.10.14 │ 京都大学 化学研究所 │ 元発表:2026.10.07

京都大学、溶媒を抜いて有機半導体の新たな結晶構造を形成

ニュース紹介

「結晶中の溶媒脱離によって有機半導体の新たな分子配列を形成―隣り合う層が90度交差する長周期構造と高い電荷移動度―」

京都大学化学研究所の宮﨑和哉博士後期課程学生、山本恵太郎助教、山田容子教授、長谷川健教授らの研究グループは、有機半導体の5,15-ビスフェニルテトラベンゾポルフィリン(Ph-BP)の結晶に取り込まれた溶媒を真空加熱で取り除くことで、これまで確認されていなかった長周期の結晶構造(Form II)が形成されることを示したと発表した。この構造では、隣り合う層で分子の積み重なる方向が90度交差し、二つの異なる分子配列が交互に繰り返される。Si/SiO2基板上の結晶でも同じ構造変換を実現して単結晶有機電界効果トランジスタ(SC-OFET)を作製したところ、平均正孔移動度は3.5±1.2 cm2 V–1 s–1で、既報の結晶形(Form I)を用いた素子の0.73±0.28 cm2 V–1 s–1を上回った。

出典:京都大学化学研究所 2026年10月7日 プレスリリース(掲載誌:Advanced Science/DOI: 10.1002/advs.77915)
https://www.kuicr.kyoto-u.ac.jp/sites/topics/261005/

FrontJournalの解説

有機半導体と結晶構造

有機半導体は、炭素を中心とする有機化合物でできた半導体です。分子の設計によって、軽く柔軟な素子や、印刷技術で作れる素子への応用が期待されています。

有機半導体の性能は、分子そのものの性質に加えて、分子が結晶の中でどう並ぶかにも左右されます。同じ分子でも並び方が違えば、電荷の動きやすさを表す移動度(電場の下で電荷がどれだけ速く動けるかの指標)が変わります。

①溶媒を抜くと現れる新しい並び方

Ph-BPの結晶には、結晶化のときに溶媒が取り込まれています。研究グループは、この溶媒を真空加熱で取り除きました。すると、既報のForm Iとは異なる長周期の結晶構造Form IIが形成されました。理論計算では、Form IIはForm Iより高い格子エネルギー(結晶を構成する分子間の相互作用に由来する凝集エネルギー)を持つとされ、溶媒の脱離が、通常の結晶化では得にくい構造を作る手段になりうると示唆されました。

フェニル基をペンタフルオロフェニル基に変えた類縁体との比較からは、層の間にある置換基どうしの相互作用が、溶媒を抜いたあとの分子配列に影響することが示されました。

②素子で測った電荷の動きやすさ

同じ構造変換はSi/SiO2基板上の結晶でも実現でき、単結晶有機電界効果トランジスタ(SC-OFET:有機半導体の単結晶を電荷の通り道に使い、ゲート電圧で電流を制御する素子)が作られました。単結晶を使うため結晶粒界がなく、材料本来の電気的な性質を評価しやすい素子です。Form IIの素子の平均正孔移動度は3.5±1.2 cm2 V–1 s–1で、Form Iの素子の0.73±0.28 cm2 V–1 s–1を上回りました。結晶の異なる方向に沿った測定と理論計算からは、結晶面内の複数の方向に電荷の通り道があることも示されました。

編集部からひとこと

今回の研究は、溶媒の脱離に伴う結晶構造の変換を使って、有機半導体の性能を引き出す方法を示しました。発表に今後の具体的な研究計画の記載はありませんが、分子を変えずに並び方を変えることで特性を改善できる点は、有機半導体の材料設計の選択肢を広げる可能性があります。

FrontJournal編集部

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