2026.10.13 │ 東京大学大学院工学系研究科 │ 元発表:2026.10.01

東京大学ら、原子1層のp型半導体BCNを2インチウエハーで作製

ニュース紹介

「高性能p型2次元半導体をウエハースケールで実現 ―原子1層BCNが次世代の相補型電子回路への道を拓く―」

東京大学大学院工学系研究科のTUNG Vincent教授、FU Jui-Han助教らが参画する国際共同研究グループ(国立台湾大学、国立陽明交通大学、中央研究院、物質・材料研究機構(NIMS)などの研究者も参画)は、原子1層の窒化ホウ素(BN)結晶格子に炭素を原子レベルで取り込むことで、p型2次元半導体として動作するホウ素炭素窒化物(BCN)を実現し、これを2インチウエハースケールで成長させる手法を開発しました。モノメチルアミンボラン(MMAB)とアンモニアボラン(AB)の2種類の原料分子の反応経路を制御する成長法を用いています。

作製したBCNトランジスタは、室温で約100 cm² V⁻¹ s⁻¹の電界効果正孔移動度と約10⁸のオン・オフ電流比を示しました。3回の成長バッチから作製した224個の素子を評価し、特性の均一性を確認しています。走査トンネル分光法で測定したバンドギャップは約1.90 eVでした。成果は2026年9月30日(英国夏時間)に学術誌「Nature」オンライン版で公開されました。

出典:東京大学大学院工学系研究科 2026年10月1日 プレスリリース(掲載誌:Nature/DOI: 10.1038/s41586-026-11047-9)
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2026-10-01-001

FrontJournalの解説

p型2次元半導体とは

現在の電子機器の論理回路は、電子が電流を運ぶn型半導体と、正孔(電子が抜けた穴)が電流を運ぶp型半導体のトランジスタを組み合わせた相補型回路(CMOS)で作られています。シリコンの微細化が限界に近づくなか、原子数層の厚さでも動作する2次元半導体は、次世代の微細トランジスタや素子を上下に重ねる3次元集積の材料として研究が進んでいます。

ただし2次元半導体では、二硫化モリブデン(MoS2)などのn型材料の大面積成長が先行する一方、p型材料の開発は初期段階にあると指摘されています。代表的なp型候補の二セレン化タングステン(WSe2)でも、電極との接触抵抗やドーピングの安定性、ウエハー規模での均一性が課題として挙げられています。

①炭素の取り込み方を原料分子で制御

BN(窒化ホウ素)は電気をほとんど流さない絶縁体です。研究グループは、シリコン半導体で一部の原子を別の元素に置き換える「ドーピング」の考え方を原子1層の材料に当てはめ、BN格子に炭素を置換的に取り込むことでp型の性質を引き出しました。従来は炭素がBN格子に入らず、グラフェン状の領域として固まりやすいことが課題でした。今回は、炭素を段階的に放出するMMABと、ホウ素・窒素を供給するABという2種類の原料を使い分けることで、炭素が表面に届くタイミングを遅らせ、格子へ取り込まれやすくしています。成長には銅(111)面上での低圧化学気相成長法(気体の原料を基板上で反応させて膜を作る方法)を用いました。

②224素子で均一性を評価

研究室レベルの2次元材料では、小さな結晶片で高い性能を示しても、ウエハー全体で同じ特性を再現できないことが実用化の壁になります。今回の発表では、2インチウエハー上の異なる位置にある224個のトランジスタを3回の成長バッチにわたって評価し、素子間・バッチ間の均一性を示しています。オン・オフ電流比(電流が流れる状態と止まる状態の電流の比)は約10⁸でした。一方で発表文は、比較した既報の素子とは構造や測定条件が同一ではないことも明記しています。

編集部からひとこと

今回の成果は材料の成長法と素子評価を示した研究段階のものであり、発表では低温成長、相補型回路への集積化、量産プロセスへの展開が今後の課題として挙げられています。n型の二硫化モリブデンと組み合わせた原子層CMOSや、立体的な基板への成膜による3次元集積への展開が示されている点は、2次元半導体の実用化を追う読者にとって注目点です。詳細は東京大学大学院工学系研究科の発表とNature掲載論文を参照してください。

FrontJournal編集部

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本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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